第三十三話:王の想い
どうもお久しぶりです
遅れた原因が遊び、とかなら自分がやめればいいだけなんだけど……小売業故の年始年末の忙しさに加え、バイトがやめたせいで更なる人手不足が…!
後の時代において、何故この時代において竜や龍と人との衝突が頻発したのかを考察した人物がいる。
それまでの時代において曲りなりにも互いに無干渉に近い共存を成し遂げていた人と竜。それが急速に衝突が起こるようになり、またその衝突も派手なものになり、やがてはあの大戦へと繋がった訳だが、では何故、この時代に急速にそれが起きたのか、に関しては他の研究者が総じて「機械技術の発展と、魔法との融合による人の戦力の増大」を挙げる者が多い中、彼は「魔法の道具化」を大きな要因として挙げている。
すなわち、この時代においてそれまで極一部の選ばれた者が使える特殊技術であった魔法が、道具頼りとはいえ大勢が使えるようになった事。
それが結果としてそれまでに比べて魔法が特別なものではなくなった結果、道具として利用される事になった。
事実、この時代に土木工事におけるゴーレムの活用や掘削技術への転用、機関部への機械と魔法技術の併用による交通移動手段の劇的な高速化、農業や林業におけるより広範囲且つ高速での作業、軍内部の魔法部隊の編制などそれまでではありえなかった各種の魔法分野での革新が為されている。
これらは必然的に生産力の増大を生み、人口の増大を招いた。
人口が増大すれば当然、より広大な農耕地や鉱山などが必要となる。この為、一気に人はより広い地を求めて開拓を推し進めていった。
しかし、その過程で彼らは気づく。
好条件の地に住まう竜・龍という存在に。
これまでは諦めていた。竜という存在を敵に回すぐらいならば他の地を開拓する方が良いと思っていたからだ。無論、条件は悪いだろう、それでも竜と戦うとなれば全滅すらありえる。何事も命あっての物種、冒険者に依頼を出すにしても金はかかるし、引き受けてくれない可能性だって高い。双方にとって「割に合わない」話だった。
しかし、それが少々事情が変わってきた。
単純に兵器や魔法だけの問題ではない。
一つは人口の短期間の急増によって長々と時間をかけて荒れ地を開墾する余裕がなくなってきた事。
もう一つは物理的に開拓する場所の余地がなくなってきたという現実がある。
この時代既に国という枠が固まりつつあり、それは当然開拓もその国という枠の内側で行われないといけないという事を意味している。その枠の外側に出ようとすれば当然国境を越えて、という話になり侵略行為。下手すれば戦争となってしまう。
ならば国同士が協力すればと思うかもしれないが、それはあくまで両国にまたがっている場合の話。大抵は片方の国のみが利益を得る形となってしまう。
となれば、当然国家としては領土内の手つかずの場所へと手を伸ばす。そう、竜の領域、として不可侵の場となっていた場所へだ。
これまでならば、危険性の高さ故に後回しにされてきた地であっても、人は既にその戦力の向上と共に、その地を認める余裕を失いつつあり、それが故に戦いは熾烈なものへとなっていった。
そして、豊かな地の最奥には大抵の場合、知性ある竜王が住み着いていた。竜王がいたからこそ、そこまで豊かになったとも言う。
森へ、湖へ、山へ、海へ。
各地に人は手を伸ばし、竜や龍との衝突は飛躍的にその数を増していった。
当初こそ、下位の竜相手であった為にそこまでではなかった衝突はやがて上位竜との戦いにも及ぶ事になっていった。全ては人の発展がやがては人の首を絞める事になったという考察を彼は結んでいる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「成る程、それで?」
どこか面白そうな顔で彼は部下からの報告を聞いていた。
ある王国が海沫竜デューズ狩りの船団を出した事は知っていた。
かつてなら「はぐれ」のデューズを狩って満足していたのだろうが、なまじ戦力の底上げが為された為に「はぐれ」だけでは満足出来なくなった、というのが実情だろう。
気持ちは分からないでもない。現在の世界の発展の度合いは凄まじいものがある。何らかの壁を乗り越えた、というべきなのか、かつては恐れていた竜、いや、所詮はまだ下位竜までに過ぎないのではあるがそれでもかつては多大な犠牲を払って対応していた下位竜程度ならば「少し大変」ぐらいで何とかなるぐらいには。
ましてやデューズだ。
確かに体こそ大型だが、大人しく特筆するような攻撃力も能力もない。だからこそ、特に戦闘訓練を積んでいる訳でもない漁師でも命がけではあっても狩れる訳だ。ましてや、その群生地を偶然とはいえ見つけたとなれば船団を組んでも狩りに向かおうとした気持ちは分からないでもない。
――何しろ、デューズの肉と言えば美味として知られる。
竜として見るならば特に特殊能力を持つでもない下位竜であるが、それでも竜は竜。そうそう出回る食材でもなければ、安い食材でもない。
それらを大量に得られる機会となれば国が動いたのも当然と言えるだろう。
(だが……)
漁師達が禁断の海域として近寄らなかった海。
海沫竜デューズの群生地に赴くにはそこを通らねばならず、そしてそこで船団は全滅した。懸命に王国は隠しているが、隠せる規模の被害ではなく、既に周辺各国にはその当事者であれば目を覆いたくなるような惨状を把握されていた。
・船団壊滅
・大規模な港街が丸ごと、そこに住まう領主諸共消滅
・余波で周辺の沿岸域の漁村が複数壊滅
この内、被害が比較的少なかったのは漁師達ぐらいだ。
船団が禁忌の海域に向かっていった。
この情報を一人の漁師から聞いた長老は急ぎ周辺の村と連絡を取り合い、間もなく複数の漁師達から得られた情報を統合すると大型の船で構成された船団は間違いなく禁忌の海域へ向かっていると判断せざるをえなくなった。
結果、漁師達は長老達の言に従い、一部の若い跳ね返りを除き避難し、大部分が助かった。
「随分な龍のようだな、此度の奴は」
「は……」
そもそも幾ら魔法に長けた竜であっても巨大な街一つをとなると手間がかかる。
逆に言えば、一撃でそれを為した竜となれば通常より更に強大な竜であると推測が出来る訳だ。
どこか機嫌が良さそうにも見える王に貴族達は意外な気持ちを抱いていた。そんな様子が王にも伝わったのだろう。
「どうした、私の様子が不思議か?」
「は、いえ、その……」
特にその疑問を明らかにしていた貴族の一人が問いかけられ、どこか慌てたような様子を見せた。そんな態度が表に出ていた事からも分かるようにそうした事を隠すのがどうにも苦手な貴族であった。とはいえ、突発的な事態に対して弱い面があるものの、逆に決まった事をきちんと行う事には定評がある上、忠誠心も厚い為重宝されている人物なのだが。
「正直、陛下は竜どもが嫌いなのだと思っておりましたが……」
「嫌いだぞ、今でもな」
そんな事をにこやかに言うものだから余計に目を白黒させた様子がおかしかったのだろう。王は僅かに笑みを浮かべると諭すように口を開いた。
「嫌いだからとて、頭ごなしに否定していては話は進まぬ。それはお前達とて同じであろう」
「それは……確かに」
王の言葉に一部の者が苦笑を浮かべた。
分からぬ者には他の者が簡単に説明をしてやれば、納得した表情を浮かべる。
生きていれば当り前の話だが、誰からも嫌われる事なく、誰も嫌わないというのは極めて難しい。
仕事が絡んで来れば特にそうした部分は大きなものとなる。
例えば、ある部署が経費削減を目論んでそれまで注文していた商会にもっと安く仕入れる事が出来ないかを持ちかけたとしよう。
しかし、それは当然、商会側からすれば利益の減少を意味する。その利益が商会にとって重要なものならば、いやそうでなくとも「はい、分かりました」と素直に頷けるものではないが、しかし、それで完全に拒否すれば今度はその利権を狙う別の商会がより安い値段での受注を狙う可能性がある。
そうなれば完全に利益を失うよりは、と値下げを了承するかもしれない。
しかし、当然前者の商会は値下げを要求してきた担当者と、割り込みを目論んだ後者の商会双方に良い感情を持てなくなるのも当然の話だ。
けれども担当者も或いは「なんだ、やっぱり下げれるんじゃないか」「少しでも儲けてやろうなんて業突く張りめ!」とそれで食っている相手の事情を考えずに怒りを持つかもしれない。
或いは割り込みを狙った商会もいちかばちかで少しでも利益を確保しなければ潰れる危機にあったという可能性だってある。
それに、同じ下に就く者、例えばこの場に集まっている貴族同士であってもそこには出世競争という名の互いの追い落としが絡んでくる。
では、「だからあいつらとは話もしない」などという事は出来るだろうか?
生憎そういう訳にもいかない。
商売にせよ、業務にせよ内心では相手の事を嫌い、罵っていたとしても仕事は別。竜に対する王の態度もまた同じ。
竜を例えどんなに嫌っていても、だからといって相手構わず戦いを挑める訳でもない。そんな考えなしに突入して勝てるような相手でないのはまともに考える頭があれば子供にだって分かる。勝てない相手に喧嘩を売る程バカらしい事はない。
「だからこそ、我慢も出来ぬ連中には腹が立つがな……」
そんな王の言葉に苦い顔になる一同
何かを狙うにしてもそれが可能かどうか冷徹に判断する理性と、必要なら耐える忍耐。それがなければ単なる欲しがって我侭に泣き喚く子供と何の違いがあるというのだ。王が今回の話に笑みを浮かべていたのは嘲笑だったのだと彼らも悟らざるをえなかった。
と、同時に……。
(自分達への警告なのか……)
お前達はこんな馬鹿げた真似はしないだろうな?そんな馬鹿は先だっての一人で十分だ。
そういう警告も兼ねているのだろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そんな会議の後、王は王宮内に設けられた研究の為の施設。厳重に守られた一角に来ていた。
騎士が等間隔で立つ中を堂々たる態度で歩んできた王の前で扉がゆっくりと開かれる。
「陛下、このような場所へお越し頂き……」
「世辞は良い。それで現状はどうだ」
研究所長の揉み手をせんばかりの態度を切って捨て、飾り気のない実用一点張りの渡り廊下から下に広がる区画へと視線を向ける。
そこには――巨体があった。
多数がせんだっての王の言う所の馬鹿げた戦によって失われた機竜。その新たな一体。
ただし、ここにある機竜は通常とは違う。ここにあるのはあくまで実験体、下位竜の骨を肉を用い、補助として機械を用いて更に人の魔法技術をも駆使して作られた屍を荒らして生み出された竜もどき。最新技術の開発の為にその内の一体がここで利用されているのだった。
「は、複数の心臓を繋げ、炉心として出力の増大を図る。その時間そのものは延長出来たのですが……」
「矢張り短いか」
「は……未だ十分が限界かと……」
そんな言葉に王と共に来ていた将軍が声を荒げかけるが、王の「まあ、当然だろうな」の言葉に沈黙する。
そんな様子に苦笑を浮かべながら、王はと言えば。
「そう技術者達を責めるな。下位竜どもの心臓で上位竜に対抗可能な出力が出せるならば下位竜どもはもっと手強いであろうよ」
そこまでの出力が出せないから下位竜は下位竜であり、上位竜は上位竜なのだ。
そんな言葉に将軍達はなるほどと納得し、技術者達は内心安堵の溜息をつく。そこらの事情を理解してくれている人がトップにいるかどうかで全く彼らの状況は異なる。下手に知ったかぶりをして、専門技術にあれこれ口出しをされてはろくな事にならない。
「通常作動に加え、十分程度ならば瞬間的に上位竜に対抗可能な出力が出せる、で良いのだな?」
「はッ、それは間違いなく」
「よし……ならば、まずはそれを正規機種に搭載せよ」
「!!……よ、よろしいのですか?」
「構わん。ああ、連続作動の場合、何分以内なら何とか安全という領域があればそれも調べておけ」
技術者にそう命じると共に、将軍達にはこうした出力増大型何機でならば攻略が可能なのかを検討するよう命じる。
そうして、王は部屋へと戻ると他の者を「少し一人にさせろ」と部屋から追い出し、水を片手に思考を巡らせる。
(すまぬな、竜ども)
本音を言えば、王自身に竜を恨む気持ちはない。
知性のない竜の襲撃など所詮野生動物に襲われた結果でしかない。
知性ある竜に攻撃を受けたとなれば大抵の場合は人の側に責任がある。長い間、その地に暮らしていた竜の住処に土足で踏み込んで、警告されても無視したとなればこれまた襲撃を受けて当然の話。
無論、『竜狩り』達の気持ちも分かる。如何に「そもそもの原因はお前らだろうが」と言った所で、感情が納得するかどうかはまた別問題。恨みを抱く者が出るのは当然の話だろう。しかし、だからといって国家が竜を恨むのは違う。
だが、それを踏まえた上で自分達は竜を狩らねばならない。その理由は単純明快。
そうしなければ民が飢えるから。
元々、現在の人の国家の領土は歪な形をしている。
人は比較的豊かな土地や、大河の畔などに定住し、それらの内幾つかが酷い竜害に襲われる事もなく、発展した。
そうして、そこから広がっていく時、人は竜の領域、或いはその可能性のある場所を避けてきた。結果、人の領域は酷く歪なものとなってしまっている。
しかし、それも限界に達しつつあり、大国と呼ばれる隣国、そちらを狙うにした所で、両国の国境、その両側には不毛の大地が延々と続いている有様だ。豊かな土地を得て、その土地を恒久的に占領するには……その荒れ地を超え、進軍させた軍隊でもってその先の土地を占領し、荒れ地を往復して補給線を維持しなければならない。
無理だ。
今はまだいい。これまで開拓されていなかった領域があり、そこを次々と開拓する事で乗り切っている。
だが、五十年後はどうだろうか?いや、次の世代、早ければ二十年後には人口は急増し、飢える者が出てくるだろう。それを乗り切るならば、竜の領域をわが物とし、開発するしかない。
もしくは。
人がそれで足りる程に減るか、だ。
後世において色々言われた王であるが、彼自身はあの戦いを生存競争と捕らえていた。だからこそ、戦いは止まらなかった、止められなかったのだと知る者はいない。
お陰で、モンハンクロスも買ったはいいが、友人と遊んで上位まで進めた所で完全停止、村クエすらクリア出来てねえw
まあ、次はもう少し早く上げれるよう頑張ります




