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竜に生まれまして  作者: 雷帝
成竜編
30/211

第二十九話「滅竜教団の発展と機竜誕生の物語」

今回は滅竜教団の歴史です

説明回的なお話ですが、ご容赦下さい

 もし、機竜という存在がいずれか一国の技術であれば、竜との戦いが激化するという事もなかっただろう。それぞれの国に住む竜の数は限られるし、本当に危険を感じれば竜達は住み慣れた土地を惜しみつつも離れればいいだけだからだ。そうなってしまえば機竜を増やす術は尽きる。新たに機竜を増やす為には他国と壮絶な戦争をして、領土を奪いそこに住む竜に喧嘩を売りに行かねばならない。間違いなく費用対効果で赤字確定、技術流出を考えれば下手に侵攻作戦に使う訳にもいかず、他国が真似るにしても開発には莫大な費用と時間が必要。流れの竜によって再び増える事を期待するにしても時間がかかる事は避けようがなく、そこまで急激な竜を狩る動きは起きなかったはずだ。

 しかし、その技術は元々滅竜教団が開発した技術だった。


 だからこそ、あの大戦は起きた。

 だからこそ、必然であったと言える。


 元々、滅竜教団は狂信者の集団という裏の顔を持つと同時に、その目的故の表の顔も持つ。それが竜を討伐する「竜狩り」と呼ばれる一団だった。

 竜と戦う、という行為は大抵の国や貴族、冒険者にとって「割に合わない」仕事であり、忌避される。

 例えば竜に襲われたとしても小さな開拓村程度では出せる額は決まっている。村の規模は精々が数十人から数百人程度。極一部の恵まれた裕福な村を除けば、国へと税を納め、自分達が生きる分を除いてしまえば僅かな蓄えを行うのが精一杯。村人全員で金を出し合ったとしても大商人や貴族らが出す依頼の報酬とは比べるべくもない。

 それでも少数の冒険者で何とかなるような仕事、例えばちょっとした魔獣の討伐程度であればまだ良い。少額であったとしても、人数が少ないなら十分利益が上げられるからだ。

 だが、それが少数ではどうにもならないような相手であればどうだろう?

 五人の冒険者が一月程度暮らせるぐらいの報酬を出せる村があったとする。

 もし、狼の群れの討伐であったり、ゴブリンの集団を何とかして欲しいという依頼であれば彼ら程度の集団でも何とかなる。

 狼の類に関しては魔狼と呼ばれる魔獣もいるがそちらは強い代わりに群れを作らない。普通の獣としての狼ならば戦う術を得ている冒険者であれば多少の時間はかかっても村の周辺から追い払えるだろう。食事の提供や宿泊施設代わりに村の空き家を提供するといった事があれば飲食や宿泊費用が浮く為に必要経費は更に減少する事になり、冒険者としても十分に依頼を引き受ける余裕が、割に合う仕事となりうる。

 ゴブリンと呼ばれる魔獣も同じだ。

 一般に猿が魔獣化した存在であると言われているが彼らは魔獣としては例外的に群れを作る。だが、それは魔獣としては彼らが弱いからだ。

 平地でボスに率いられた群れと真っ向から正々堂々と戦うなどというバカな真似をしなければ少数の冒険者で討伐する事は決して無理な話ではない。ギルドとしても派遣した冒険者が依頼を果たせない事態が連発するのは困るので、こうした討伐依頼に関してはきちんとした講習を義務づけている。相手をする獣や魔獣に関する講習を受け、簡単な質疑応答を行い、理解出来ている者がチームにいるかがこうした討伐依頼を受ける場合の最低限の義務である。

 冒険者にしても多少時間と金がかかった所で自身の身の安全だけでなく、効率的な狩りを行うのに必須なこの手の講習をサボる事はない。稀に直接村から勝手に引き受けるようなバカもいるがそうした連中はまず長生き出来ない。

 そうやってギルドは安定した依頼達成率誇っている訳だが、そんなギルドでも匙を投げる相手がいる、それが竜だ。

 属性竜の素材を手に入れるといった事を目標とする貴族からの依頼はギルドでも時折存在する。しかし、そうした依頼を受けた冒険者は火山などに生息する属性竜に喧嘩を売りに行くのではなく、属性竜達がその生の間に落とした鱗などを回収する事を目指す。これなら比較的成功率は高い。

 だが、知性も属性も持たない下位竜はそう簡単にはいかない。

 彼らは基本獣と変わらない程度の知能しか持たない癖に、強さで言えば相当危険な部類に入る。間違っても狼やゴブリンと一緒くたに出来るような相手ではない。当然、少数の冒険者だけでどうにかなるような相手でもない。はぐれの竜一匹程度であっても安全を考えるなら十人以上で挑む必要がある。これは一般的な冒険者の編成で二パーティ分に相当する。

 そして、村が出せるのが五人が一月暮らせる報酬であるとすれば、十人で挑めば二週間程度暮らせる報酬でしかなくなる。

 更に下位竜の群れとなれば集団で冒険者を雇わねばならない。同額の報酬でも五十人の冒険者を雇うと仮定するならば彼らへの報酬は三日程度の生活費にしかならなくなってしまう。割に合わないとはそういう事だ。当然、冒険者も、或いは貴族、それどころか大抵の場合は村人でさえ下位竜の群れに襲われた、或いは襲われるとなったならば村を放棄して逃げる。そうしてその後で改めて別の場所に村を作る事を勧め、或いは選択する。普通の冒険者はそんな依頼など引き受けてくれないし、貴族や国は一つの村を守る為に兵士を派遣するのは割に合わないと判断し、村人はそれを知っているから諦めの思いと「運が悪かった」と呪いながら村から逃げる。それが常識だった。

 しかし、そんな中に例外がある。それが「竜狩り」だった。


 「竜狩り」。

 それは竜を自らの信じる教団の理念に沿い、討伐を目指す一団。

 無論、彼らとて相手構わず竜の討伐を引き受ける訳ではない。そんな事をしていれば、どんな手練れの集団でもあっという間に全滅してしまう。彼らなりに成算を高める為に準備を整え、結果として間に合わない時とてある。それでも彼らは彼らなりの理念を持って、竜と戦い続けてきた。

 それは下位竜の脅威に晒された人々にとって唯一の救いだった。

 そんな彼らだからこそ、彼らへ支援を行う者は決して少なくはなく、国自体が彼らの活動を慈善事業の一種と看做しての税制優遇や或いは国民の不満を抑える為の一環として援助を行う事すらあった。幾つかの都と呼べる都市では拠点を構え、寄付すら受付け、そうやって彼らは脈々と命脈を保ち続けてきた。

 そして、そんな組織だからこそ竜と戦う為の力を求め続た。竜というものを理解しようと研鑽をし続た。

 竜と戦う以上、相手の事を知らねばならない。別に竜に限らず敵が如何なる存在なのか、どこが強くどこが弱いのか、それを知らずして相手を倒す事は出来ない。倒せたとしても無駄な犠牲が発生したり、費用がかかる事になる。

 そうした行動を長年続けてきた結果、彼らは世界で最も竜に関する研究が進んでいる組織でもあった。

 その手段の一つとして彼らは機械という概念が出現した時、真っ先にそれに手を出し、当時既に存在していた滅竜教団の原型が機械技術の最初期において資金援助に関わっていた、らしい。

 更に他が避ける竜の討伐を積極的に引き受けた結果、竜の遺骸を手に入れる機会も他と比べ圧倒的に多かった。

 竜という存在を語る際に避けて通れないのが「属性」だ。

 魔法の源ともされるそれは人も使ってはいるものの、魔獣や竜が使うものは更に強力。


 『ならば竜を解析する事で人がより強力な「属性」を扱う事は出来ないか』

 

 彼らはそう考えたのだ。

 だが、それは極めて困難だった。

 例え「竜狩り」と言えど、狩れるのは所詮は下位竜、属性を持つ竜ではない。

 いや、それでもそのきっかけになりそうな部位はあったのだ。例え下位竜であれど生身の肉体に他の魔獣をも上回る力を与えているのは彼らが無意識に吸収、利用している属性の力が関係している。もし、彼らがそれに気づければ解析の可能性はあったのだが……何しろ属性というのは原子や素粒子の概念にまで及ぶ世界の根幹に属する力だ。せめて、そうしたレベルにまで科学技術が発展していればともかく、なまじ属性を利用した魔法という技術があった為にこの世界では機械技術は未だ発展途上。物理学のようなものも未だ出現せず、原子など概念自体が存在しない。

 結果として、解析には失敗したものの彼らは竜の遺骸を何とかして活用出来ないかと研究を続けた。

 最初はその肉体を解体しての武具や防具として。

 高位且つ長く生きた竜の肉体は物質的な肉体から属性によって構築されるある種の精神体へと置き換わり、もし捕らえる事が出来たとしても当時はまともに武具として使う事は出来なかっただろう。属性竜の鱗なども属性へと置き換わる前の肉体を持つ竜からのみ得られる。

 だが、それでも下位竜の体を解体して得られる皮や骨、角などは貴重な武器防具となった。

 皮や骨を利用して防具を作る。

 角を研ぎ、槍とする。

 或いは骨を棍棒やハンマーとし、それらしく形成して巨大な剣のような形状にする。元々、大型の剣などは斬れ味を期待するものではなく、その重量でもって押し切るようなものだ。骨であってもそれらしく形成すれば立派にその役割を果たす事が可能だった。

 

 「下手に機械なんぞに頼るより、こっちの方が頼りになる」


 当時の竜狩りの隊長格はそう言ったそうだが、それは決して嘘ではない。

 この時には既に魔法同様、人の言う所の魔力を武具に通す事で強度が上昇する事を把握していた。

 皮や筋肉を角や鱗、骨ならば破壊出来る。

 しかし、鱗などの装甲同士が激突した場合、膨大な魔力を保持する相手側が有利。

 それを「竜狩り」は技術で、数で次第に優位を確保していった。元々、人里にわざわざ襲撃をかけるような竜は下位竜であり、属性竜や上位竜、竜王といった高位の竜達は自分達の領域に侵入してこない限り、基本放置状態だ。

 結果、彼らの持つ武器、工夫される戦術、より優位を確保する為の道具類、少しずつ積み重ねてきた「竜狩り」の持つ知識が次第に下位竜限定とはいえ、安定した勝利を得る事を可能とし、引き受けられる討伐可能な範囲を広げ、それがより多くの下位竜の確保に繋がり……という循環を経て、竜の素材を提供する集団としての「竜狩り」を成立させた事で人材面でも単なる竜への憎悪を募らせる集団としてではなく、危険はあるが大金を儲けられる組織として、一攫千金を狙う者達の加入も増えていった。そうして、その一部が「竜狩り」の裏の顔でもある「滅竜教団」への安定した供給源ともなっていった。

 何しろ、竜を比較的安定して狩れるようになったと言っても、あくまで比較の問題。

 大怪我を負って引退する者、仲間を殺されるなどという事は以前より減っても毎回のように起こりうる事態であり、教団への参入を拒む者は限られていた。

 

 時が経ち、やがて彼らは大型の竜を狩る道具、城を壊す際に使われる破城槌などを改良したものを機械で動かそうと試みるようになった。

 この頃には貴重な竜の素材を比較的安定して供給出来る集団として、どの国も「竜狩り」ひいてはそのバックについてその活動を支える「滅竜教団」を無視出来なくなっていたからだ。そもそも「滅竜教団」の教義は王国や帝国といった国の権威を否定するものでも、他の政治形態を取る国にとっても有害なものではなかった。

 これが無闇やたらと竜に喧嘩を売るような連中という認識があればもっと警戒されていただろうが、命がかかっているからこそ彼らは無謀と無茶をきちんとわきまえていたからだ。

 結果、着実に彼らは各国に足場を築き、食い込んでいった。

 国によっては彼らを優遇して招く事で、領内における竜被害の減少を狙う国もあった程だ。

 この後、これで調子に乗って権力に介入して動いたならば、排除対象となる可能性もあっただろう。だが、彼らは国の運営に関しては未介入を貫き、ひたすら竜との戦いに専念し続けた。

 下手をせずとも小国の軍事力すら上回る力を持ち、大国と呼べる国の軍勢とすら戦えると言われる彼らの戦力を危険視する者が出ない訳ではなかったが。


 「では、貴方が竜と責任を持って戦ってくれるのか」

 

 そう言われれば二の足を踏まざるをえなかった。

 「竜狩り」ひいては「滅竜教団」を排除するという事は竜の素材を手に入れる事の出来る周辺国に対して、自国での素材入手が困難になるという事だけではない。いや、それだけでも有力な商人と彼らと繋がる貴族から大きな非難が上がるのは必至だが、国内の竜による被害を食い止めるのに自国の戦力を用いなければならないという事でもある。その結果、疲弊してしまえば当然、周囲の各国につけいられる危険は増す。おまけに食い止められなければ、「竜狩り」達を追い出した貴族へと民衆の不満は向く事になる。

 誰だって火中の栗を拾いたくはない。

 そうして次第次第に教団は勢力を伸ばしていった。

 やがて、彼らは竜の体を武器として用いる技術を発展させ、それと大型の対竜兵器を稼動させる機械を組み合わせた。

 竜の皮や骨を武具として利用するように、竜の巨体、その体そのものを対竜兵器として用いたのだ。

 

 そして、それこそが機竜の原型であり。

 やがて訪れた竜と人との戦争、その発端であった。

  

次回辺り、テンペスタ登場予定です

なるだけ早く出せるよう頑張ります……


というか、詰まった時に限って、他のお話のネタが浮かんだり、そっちの筆が進みます……なんか三つぐらい話のネタが出来て、最初の辺りの話が出来上がってしまいました

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