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竜に生まれまして  作者: 雷帝
成竜編
27/211

第二十六話:全ての契機、その発端(後編)

どうもお待たせしました

後書きにして少しご連絡をば

 最初に闇から広がったのは巨大な翼だった。

 鉱質な輝きを放つそれが以前と異なるのは巨大さだけでなく、以前は翼膜となっていた全てが鉱質。一つの結晶から削り出されたような翼となっていた事だった。

 これが普通の鳥ならば到底動かせず、飛べないような翼。けれども竜、ましてや竜王には関係ない。彼らにとって翼とは飛ぶ為のものではなく、象徴とでも言うべきもの。風の属性を持つ竜は多くが風の象徴として翼や羽根を持つ。

 同様に水の属性は鱗を、火ならば獣毛、土なら鉱物質といった具合だ。

 あくまで比較的、なケースであり、竜王になると全く異なる姿を有する事の方が多いのだが、それはこの際置いておこう。

 ぐうっと首が伸びるように展開し、闇が胸に収納されるように消滅する。

 そこに残ったのは巨竜。

 頭から尻尾までは全長八十を越え、百に迫る。その全身を鉱物結晶のような硬質の輝きで覆い、手足はがっしりとした太いものへと変わり、上半身のみの双機竜と相対するように屹立している。……もっとも、その巨体でさえ山一つを構築する程の巨体を持つ双機竜の前では小さく見えるのだが……。


 「死」『ネ!!』


 そんな現れたテンペスタに即座に双機竜は変化した巨人の豪腕をもって殴りかかる。

 拳一つをとっても上半身だけで全高さ数百メートルに達する巨人だ。しかも、その腕は接近戦を重視している形態だからだろう、通常の人と比べても太くでかい。その拳もまた巨大で直径二十メートルはあろうかという金属の塊が迫ってくるようなもの。

 本来ならば地面に足をつけていない状態で殴りかかっても腕だけのテレフォンパンチとなるのがオチ。腰の入った一撃でなければ本当の威力のある一撃とはならないが、そこは以下省略。

 豪腕は猛烈な勢いで十分すぎる程の威力を持ってテンペスタに襲い掛かった。

 それに対してテンペスタは長く伸びた鉱物の塊のような尻尾を動かし――。


 ガイン!!


 周囲の空間に響く轟音と共に巨腕を弾き飛ばした。


 「!」『?』


 逸らした、などというレベルではない。

 弾き飛ばした。

 そう呼ぶのが正しいだろう。

 跳ね飛ばされた豪腕は片腕でバンザイヲするかの如く、真上に向かって跳ね上げられている。サイズ・質量的にはまるで合わない。あれだけの質量の差があれば多少の技術など意味はないが、ここで問題となるのは双方の属性の差。その量。

 少し前ならば双機竜が上回っていたそれも、今は明らかにテンペスタが上。だからこその結果。

 砕かれた鱗ならぬパーツがバラバラと拳から地面へと落ちていく。

 それに注意を払う余裕もなく、慌てて態勢を立て直す双機竜だったが、訝しげな様子になる。

 

 追撃してこない?


 テンペスタは悠然とそこに佇んでいるだけ。

 いや、むしろ……。


 (まだ)《カンゼンニ》(意識が)《モドッテイナイ?》


 一瞬、何をしている、と行き場のない理不尽な怒りを感じたが、未だ夢現の状態にあると考えるべきかと考え直す。

 そんなに簡単に意識が全身を統括出来るはずがない。

 そうあって欲しい、そんな願望だと自覚しながら双機竜はこの体での最大の技を放つ。それは心のどこかで『いちいち相手の力を探っているような余裕はない』と判断した為だった、としておこう。

 

 「こいつは」『イタイゾ!!』


 振り上げられた巨大な右腕。

 その一方体の前に持ってきた左腕は萎んだような印象を受ける。

 片方の腕に力を集結させ、更に腕の形状を変化させる。巨大な豪腕が一気に先端を細く集束させ、捻れ巨大なドリルとなる。


 「ドリル」『くらっしゃあ!!』


 高速で回転する先端。点でしかないそれを正確に小さな物に当てるのは難しい。

 無論、側面に当ろうとも高速で回転する刃に触れれば大ダメージを受ける事になるのは確実。というか、サイズ的に竜や龍であっても王クラスでなければ掠めただけでも昇天しかねない。それは双機竜自身も理解しており、元々この一撃は直撃させずともダメージを与える事が出来るよう作った技、のはずだった。当人にかつての記憶の憧れがあったかどうかは置いておくとして。

 しかし、この時この瞬間。

 或いは意地なのか、恐ろしい程の正確さでドリルの先端はテンペスタを捕えた。


 しかし――それでも届かない。


 直撃したドリルはその先端を砕かれ、双機竜は慌てて腕を引く。

 

 「そんな」『バカナ!!』


 混乱した声を双機竜は上げる。

 竜や龍の巨体には意味がある。

 圧縮したから小さくても巨体以上の属性をその体の内に溜め込んでいるとか、力の質が違うとかそういう事はありえない。大型の船がより多くの物を運べるように、巨体はより大量の属性を溜め込めるようになる。その逆はありえない。

 無論、魔法の使い方やその他で状況を引っくり返せる余地は十分にあるし、図体が巨大でも属性を十分に溜め込んでいないというならまた話は変わる。

 だが、単純なパワー勝負、真っ向からの力比べで、しかも存分に属性を溜め込み、この土地を自らの庭園としていた双機竜が勝てないなど普通はありえない。しかし、現実にそれは起きている。ならば、何が原因でこの事態が起きているのか……。


 「まさ」『カ』


 今も尚、外部から属性を取り込んでいるのか?

 それなら話は変わる。

 確かに先程のように大規模な属性吸収は行っていないのかもしれない。

 だが、あの闇を見ればテンペスタには火の属性がある事が分かる、流れ込む大気は風の属性を持っていた事を示し、地の属性水の属性を持っている事も示していた。そして、今ここには陽の光が降り注ぎ続け、風が吹き続けている。

 もし、そうならば。

 膨大な自然の力が今も尚テンペスタの力となっているのなら、体の大きさなど何の意味もない。

 ゾクリ、と双機竜の心に怖気が走る。


 (そんな/馬鹿な》


 二つの頭の思いが重なる。

 なら、ならばなんだったのだ、自分の努力は。

 あれだけ追い求めたのに、何百年の研鑽を積み、何万回とも言える試行錯誤を繰り返し、それでも遂に諦めるしかないと悟った自分は何だったのだ。

 

 「そんな事」『アッテ』「『たまるかアアアアア!!!」』


 殴る。殴る。殴る。

 拳が砕け、体を構成するパーツが散っても尚も狂ったように、いや元よりその魂を犯していた狂気に身を任せひたすらに殴り続ける。

 そんな双機竜にテンペスタは緩やかに動く。

 僅かに動き、次の瞬間には最高速度に達する。もし、それを傍から見ていれば瞬間移動したかのように見えただろう。そして、属性を感知する事で人などより遥かに高い感知能力を誇る竜王であってさえ、余りに膨大な周囲に満ちる属性に瞬間、その姿を見失い。

 次の瞬間、双機竜は更なる空の高みへと打ち上げられた。

 急激な、且つ強制的な移動にギシギシと全身が軋む中、双機竜は見た。自らの下方に、おそらくは一撃を加えたであろうテンペスタの姿を、そして、その口元に集結する膨大極まる力を。


 「何故だ」

 『ナゼダ』


 絶望。

 達観。

 焦燥。

 様々な感情が入り交ざり、呟きとなって声が洩れる。

 

 「何かに」『エラバレタトデモ』「いうのか?」


 双機竜の心に過去の思い出がよぎる。

 竜となったと喜んだ事、孤独に絶望した事、もがいた事……そして……もう殆ど残っていない人であった頃の思い出。

 

 「何だ」『ワタシハ』


 下から迫る極光に視線を向ける事もなく、呟く。


 「最後に見るのが人の頃食ってたメシなんてなさけねえ」


 そうして双機竜は極光に呑まれ、その体の一片も残さず世界から消滅した。

 しばし、空を見上げていたテンペスタは間もなく悠然と翼を翻し、飛び去り。

 そして、世界に静けさのみが残った。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 「ふう、もう少しかな?」

 「だと思うんだけどね」


 最後に立ち寄った村から歩く事十日余り。

 魔術師である男性ことマギアスと戦士の女性ことドリーの二人組みは思った以上に日数がかかった事に閉口……してはいなかった。

 何せ、冒険というものは基本、人里離れた場所で行う。人里近い場所にある冒険出来る場所などとっくの昔に枯れ果てている遺跡しかありはしない。必然的にそんな所に行商人の馬車さえ赴くはずもなく、かといって一介の冒険者にとって馬車など管理の手間を考えればまず所有する事はない。例外があるとしたら商人の隊商と長期に渡る契約を結んだ冒険者ぐらいのものだろう。人里離れた場所に赴き、馬を繋いでたら彼らが冒険している間に魔獣に襲われて、戻ってきたら馬車は残骸しか残っていませんでした、なんて事になりかねない。

 歩きとなれば、行って帰って来るだけで一月経ってました、なんてザラだ。

 一回の冒険では村からの依頼での討伐なら早いのでは、と思うかもしれないがそれだって村まで徒歩で歩いていくのだからどうしたって時間がかかる。なので、十日ぐらいの野営というのは冒険者にとっては至極当り前の事なのだ。

 食事はというと、保存食と現地調達の採取。

 無論、冬は保存食限定になるがこの時期ならば森の恵みは十分な量が得られる。


 「あの光の柱が危険なものでなければいいんだけどねえ」


 ドリーがそうぼやいた。

 人の足で数日かかる遠方からも見えた光の柱。あれにはさすがに二人も進むかどうか迷った。あんな人では絶対無理な現象、どう考えたって竜が関わっているとしか思えない。

 二人で相談した結果、進む事に決めたのは幾ら視界が開けていた場所だったとはいえ、あんな遠方から見えたとなると最低でも属性竜だと推測出来たからだ。下位の知性なき竜であっても属性竜であれば、こちらから干渉しなければまず襲って来ない。

 子育てなどの警戒している場合でも、まず姿を見せて威嚇してくる。まあ、殺した所で食うでもなくポイ捨てするしかないのだから自分でどっか行くならその方が楽なんだろう、多分。

 マギアスそう言いはしたのだが、矢張り警戒してしまうのは仕方ないだろう。それだけ属性竜というのは怒らせると怖ろしい逸話が幾つも伝説だの伝承だので伝わっている。下位竜なんてトカゲの亜種とは根本的に異なる。

 伝説上にある竜王、以下古竜、属性竜、下位竜。

 人の間に伝わる竜は大体この分類が為されている。

 下位竜は人でもどうにかなる。基本は多少特殊能力を備えていてもでかいトカゲであり、知能もない。

 無論、だからといってそこらの魔獣より余程危険なのには変わりはないが奇襲でもされない限り、討伐する手段は幾らでもある。この二人も下位竜ならば幾度となく討伐した事がある。

 が、そこから上はそうはいかない。

 属性竜ともなれば「割りに合わない」事夥しく、ごく一部の欲に目が眩んだバカか、一発逆転を狙う追い詰められた人間が向かい、僅かな、本当に僅かな一握りが幸運にも鱗などを拾って帰り、そして圧倒的多数が帰って来ない。

 古竜以上ともなれば、手を出すだけ無駄。

 そして、あの光の柱は……どう考えても属性竜以上の何かが関わっているのは間違いない。最悪、竜王が関係している可能性すらある。

 リスクとリターン。

 双方を考えた結果、二人は進む事を決めた。

 とはいえ、ふとこんな言葉が漏れる。

 それは長い付き合いの二人にとっては愚痴にもならない。今のドリーの言葉だって「マギアス、あんた深入りすんじゃないよ?」と念を押しているだけだし、それに対してマギアスが苦笑しているのもその事に自覚があればこそだ。

 

 「空に向けて放たれていた柱……となると可能性としては大きく分ければ二つになるんだろう」

 「ふんふん?」


 どうせ暇だと頭の中身の整理がてらマギアスは少しでも話をまとめようとする。

  

 「場所的に言えば、金属の山の方面なのは間違いない。となるとその山は矢張り竜王の山なのだろう。人の家程度の小さいものならともかく、他にそんなものを構築するような生物はまずいない」

 「そうだね」

 「正直に言えば、村の伝承など故半信半疑ではあったが、あの光の柱は奇しくもあそこに何かがある、いやいるのだと示してくれた」

 「少なくとも何か起きた痕跡があるだろうね」

 「ああ、竜同士が争ったならか片方の遺骸……は望み薄にしても何かしら竜の鱗とかが落ちている可能性はある」

 「ま、それ拾えたならさっさと引き上げるぐらいに考えておいた方がいいだろうね」


 世の中には竜と約定を結び、宝を借り受けて、見事敵を打ち倒したなんて英雄譚があるが、それが英雄譚として残るのは数が少ないからだ。

 英雄譚の陰には、無数の英雄になり損ねた者達の骸が眠っている。

 彼らはそんな危険を冒す予定はない。もう正式には引退したのだ。興味があるから少し足を伸ばした程度で、別に依頼がある訳でもない。


 「けど、普段は穏やかな山の竜王が光の柱を打ち上げる、何が起きているのか……」

 「喧嘩かね?」

 「……だとすると、竜王同士の喧嘩か?こちらを攻撃する意志がなくてもうっかり巻き込まれただけであの世行きになりかねんぞ」


 などと会話をしながら進んでいた彼らの眼前に急に視界が開けた。そこは……。


 「………なんだい、こりゃ?」

 「森が……消えている?」


 すり鉢状に大地が見事に抉れている。

 見渡す限り、それまでが生い茂った森であったのに対して、そこから先、急に森の陰を見なくなっている。

 何かが発生した事は分かるのだが……。


 「……ここが先日の光の柱が発生した場所かな?」

 「可能性としてはありそうだけどねえ……ん?ありゃなんだい?」


 中央部付近に何かしら小山になっているのが遠目に分かる。

 とはいえ、さすがにここからでは分からぬと警戒しつつ近付いた訳だが……更に困惑が広がった。


 「なんだ、これは」


 わけの分からない金属の山。

 それらは戦闘の中、砕け、地面に散らばった双機竜の欠片だ。人としてはちょっとした山だが所詮は見上げれば山頂が見える程度の小山。これだけが竜からしても山と称するぐらいの巨大竜であった双機竜が確かにいた、その証の全てであった。

 

 「ふむ、何かの道具のようだが……こちらは何だ?」

 「……単なる玩具、じゃなさそうだけどねえ?何だろうね?」


 とはいえ、ドリーは自分が脳筋の類だという事も理解している。

 こんな研究分野は自分の役割ではなく……。


 「とりあえずさっさと選んで持ち帰るよ。あんまし長居しない方がいいだろうからね」

 「それもそうだね。じゃあとりあえずこれとこれと……」


 この時彼らは自分達が何を持ち出したかを知りはしなかった。

 だが、歯車やシリンダー、カムシャフトやクランク機構。様々な『機械』を人の世界に持ち帰り、その使い方を道楽がてら研究し、残した事で……人の世界に新たに魔法のみならず機械の文明が入り込んでゆく事へと繋がってゆく。

 故にマギアスを後の世の人々はこう呼ぶ、「魔導機械文明の祖」と……。

 しかし、それがあの戦争を引き起こす事になる事を知れば彼はその時生きていればどう思っただろうか……。


4月の頭ぐらいに少し整理を行います

成竜としての話が一旦終わり、本編はここから時間を百年以上すぎた時代となります

が、妹竜の事もあるので妹竜のお話を別の章として一つにまとめる予定です

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