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竜に生まれまして  作者: 雷帝
成竜編
26/211

第二十四話:全ての契機、その発端(前編)

少し解説的部分が多いです

当初は一話で決着まで納めるつもりが、予想外に長くなったので分割しました

 『オロカナ』「事を」


 空を見上げ双機竜は呟く。

 今、何が起きているのか、双機竜は知っている。彼自身もかつて力を求めた時、考えた事がある事だから……だからこそ、分かる。今、テンペスタが行っている愚かさを。


 竜は姿を変える。


 この事は人の間でも結構知られてたりする。

 まあ、明らかに他とは異なる姿を持つ竜王がいるんだからここら辺は分かりやすい。竜王自身が暇潰しがてら、自分の好奇心の為に命がけで竜王の所までやって来た人の学者の受け答えに答えてくれたりした事もあって、割と良く知られた話だったりする。

 しかし、「じゃあ何故姿が変わる?」という点になると、こちらは案外知られてなかったりする。

 原因は至極単純、竜王自身も知らない事が多いから。

 聞かれた当人ならぬ当竜が知らないのでは、それは人が知る訳がない。竜王が分かる事と言えば、相手が竜かどうかという事と、竜王かどうかという事ぐらいだ。


 じゃあ、どうして変化するかというと実は意志とエネルギー量ならぬ溜め込んだ属性の量の問題、というのが正解だったりする。

 属性竜は通常の下位竜などと違って、食事の必要がない。

 しかし、物質的な肉体を維持するには当然、何か物質が必要だ。ずっと動かない岩でも段々磨り減ったりしていくのに、何百年と生きる竜がその例外な訳がない。では、あの巨体は?というと実の所属性の塊、エネルギーの塊のようなものだったりする。物質がエネルギー化するように、エネルギーもまた物質化する。属性もまた然り。

 物質化した属性の塊なのだから、周囲から属性を取り込めばそれで失われた部分を補充出来るのも当然の話。

 上位竜はいずれも属性竜にしかなれず、である以上、竜王になれるのも属性竜のみ。 

 生まれた時は物質化していた竜の体は次第に属性へと置き換わっていき、やがて肉体部分が完全に属性へと置き換わった時に成竜となる資格を得る。とはいえ、その時に「大人になる!」という意識がなければ、「まだ大人にならない」と考えていれば変化も起きず、成竜にならない。

 この時、大人になるイメージは基本、自身の成長した姿で構築される。

 

 そんな竜が二段階目の成長を求める機会は少ない。

 属性竜だからメシに困る事はない。

 竜なんだから金がどうこういう心配もない。

 住んでる所を追い出される事も……まあ、滅多な事ではあるものじゃない。

 襲われた所で本当の意味で敵と呼べるような相手なんかまず滅多な事じゃ出くわさない。

 衣食住足りて礼節を知る、というか不満を感じなければ変わる必要を感じないというか。

 しかも、変わりたいと思っても変化に必要なだけの十分な属性が溜まってなかったら変われない。海の広さに憧れて変わりたいと願っても、池を作るぐらいの量しかなかったら海にはなれない。この時大事なのは、足らない場合はそもそも変化自体が起きないという点。

 買いたい!と思った品があってもお金がなかったら買えない。

 お金が財布にあっても、欲しいと思わなかったら買う事はない。

 そういう事だ。

 だが、その二つが満たされた時、姿を再構築する程に強い願いという意志を示した時、竜は新たな変化を迎える。

 原因はそれぞれの竜ごとに違うから、姿もまた違う。大きな体を圧縮して、より小さな……そう、竜の体から小さな猫や人になるなら上位竜でさえあれば若い竜でも、その体に溜まった年経た竜からすれば凄く少ない量の属性でも可能だから竜王になれるけど大抵は年経た大量の属性を溜め込んだ竜が体を作り変えて新たな竜王となる。 

 

 そう、通常は若き竜が強大な力を求めた所で竜王への変化いや進化が起きる事はない。


 それを達成する為には決定的なまでに体内に宿る属性が不足しているから。

 本当なら、如何にテンペスタといえどその身に宿る歳月、それが為し得る属性の蓄積だけはどうにもならないはずだった。

 しかし、テンペスタはそれを周囲にある属性で補うという手段でクリアした。……過去に同じ事をした竜がいなかったかと?いなかった訳じゃない。けれど、竜はそれをしない、しようとしない。自然と共にある竜が周囲に存在する属性を奪うという手を思いつかないという点もあるが……。

 それ以上に本能的な危機感がそれを抑制する。 

 今、テンペスタの周囲は完全な暗黒の球状と化している。

 強大な重力場が全てを呑み込む漆黒の穴と化すとされるように、光が、大気が、大地が、無論そこにある植物も小動物でさえ吸い込まれ分解されてゆく。全てが物質から属性へと変換され、テンペスタを構成するものへと変質してゆく。

 呑み込まれる事なく、その影響を受ける事なく存在し続けるのは双機竜のみ。

 他は豊かな森も次々と空に舞い、呑まれ、それどころか山さえ崩れ、その姿を消してゆく。上空からの視点がもう一つあれば、急速に大地がすり鉢状へと変わっていくのが見えただろう。

 ……これがその弊害の一つ。

 テンペスタは全ての属性を有するが故に、このような形で結実しているがいずれかの属性のみを持つ物がそうなった時でも大地は死の大地と化す。

 大気をそっくり呑み込まれれば周囲の生物は窒息死する。

 熱を奪い尽くされれば生物だろうが植物だろうが周囲は生命活動そのものを凍りつかせる。

 水を吸い尽くされれば後に残るのは干乾びたミイラと砂の大地が。

 生物にとっては大地が一番マシではと思うかもしれないが、重力まで呑み込んでしまうので呑まれなかった連中は空高くすっ飛んでいく事になるだろう。

 結局の所、周囲から属性を吸収するという行動を竜が取った場合、待っているのは死の大地と化した景色となるのだがそればかりではない。それは竜が本能的に怖れている事態があるからだ。


 「これで」『オワルカ』


 どこか憐憫を込めて、双機竜は呟いた。

 



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 その時、テンペスタの意識は荒波に揉まれていた。

 膨大な力が流れ込み、それが意識を押し流そうとするのを必死に防いでいる状態だった。

 属性竜は成竜となる時に完全に己の肉体を物質化した属性へと置き換える。それによって自然と一体化し、莫大な力と長大な寿命を得る。そうして、死した後は一時的に物質として留まるがやがてはその全てが再び属性へと還元され、消滅し、新たな自然の一部となる。

 だが、属性で構築されているという事は欠点もある。

 それこそが竜が本能で怖れている事。

 如何に竜とて枯れ果て、最期を迎える事を望んだ竜ならばともかく、自我が消え去る、死ぬ事は怖い。

 そして、自然の属性を大量に取り込むという事は……急激に拡大する自らの内に流れ込む属性に押し流される、自然を自らに取り込むのではなく、自らが自然に取り込まれるという事。

 長い時を経て、自らの一部と化した属性ならば問題はない。

 だが、そうではない、自然そのものの属性が相手であれば、押し寄せる濁流に人の身では太刀打ち出来ぬように、山を駆け下る土砂崩れが容易に軍勢でさえ呑み込むように、燃え盛る業火相手に逃げるしかないように莫大な荒々しい属性は竜の意志さえ押し流さんと襲いかかる。

 竜は自然のその絶大な溢れんばかりの力を常に本能のどこかで感じ取っている。だからこそ、成竜は『普通は』決して自然の莫大な力を取り込もうなどとは考えない。彼らは自然とは、属性とはそんな自分達でさえ制御出来るようなものではないとどこかで感じ取っているからだ。

 

 (……………)


 本当ならテンペスタとて、年齢にしては成熟した竜の自我とてこの濁流の前には意味がない。大人だろうが子供だろうが自然の猛威の前には無力だ。とっくの昔に抵抗の余地なく、膨大な流れ込む属性の前に自我を押し流され、一時的な局地現象として荒れ狂った後、再び属性はばら撒かれる。

 そうして、その竜の残骸とでも呼ぶべき膨大な属性は荒れ果てた大地を再び実り豊かな大地へと短期間の内に戻す素材となる、訳だが……。

 今も尚、テンペスタの自我は保たれ、膨大な力は流れ込み続けていた。

 

 (……なんだこれ)


 自身を包み込む泡。

 自我をそれが守り、押し流される事なく留まり続けている。 

 泡と呼称したが、それが何かをテンペスタは理解している。それが自らの持つ『異界の知識』そのものなのだという事は理解出来る。それが強固な異界となりて自我を保護する防壁となっているのだと分かる。如何に

轟々と轟音を立てて流れる濁流があろうとも、空から見ている限りは安全なように異界という界の区切りそのものが絶対的な防壁となってテンペスタの肉体へと流れ込む属性から彼の自我を保護する形になっている。

 ただの知識ではなかったのか?

 そんな思いが感謝と共にテンペスタの中に疑問として生まれる。

 と、同時に疑念を感じる。


 (『異界の知識』はただの知識ではない、という事か?)


 これまで単なる異世界の、この世界とは別の道を歩んだ世界の知識だと考えていた。或いはその中に含まれた「転生」というものなのかと。自身の前世の記憶を受け継いで、それが『異界の知識』として記憶にあるのかとそう考えていた。

 だが、改めて考えるなら明らかに異質な知識を含んでいる事に今更ながらに気づく。


 (……いや、自分がこれまで向き合ってこなかっただけか)


 今、こうして内側から見るならば分かる。

 下水道も整っていない、この世界の都市と似たり寄ったりの石や煉瓦組みの都市がある隣には、遥か彼方の空を往く巨大な船の姿がある。

 これだけならば「同じ世界でも色々あるんだな」と思えるかもしれないが、種族の見た目が明らかに異なっているとなれば話は別だ。いや、無論、片方が支配種族で片方が隷属種族だといった可能性がない訳ではないのだが……何となく分かった、としか言いようがない。これらは違うものだ、と。

 

 (いや、今は考えるな)


 頭を振り、画像から視線を引き剥がす。

 今はこの壁が何時までもつか、ずうっともつ保証は全くない。

 何せ、これは自分の制御下にない。自分の制御の下、展開しているなら力の消耗具合などから「まだもちそう」或いは「そろそろやばいかも」といった見当ぐらいつくだろうが、自動展開している上に力の消耗自体がどこか別の所から来ているのでは後どれぐらいもつのかなぞ分かるはずもない。

 ならば、この障壁がもっている今の内にこの状況を何とかする必要があった。そして、それ自体は簡単な事。すなわち、双機竜に勝利する為の新たな体を作り上げる事。

 そもそも、その為に、これだけの莫大な力を集めようとしたのだ。


 (問題は使えるかだが……そこも問題ないな)


 幸い、力は莫大であっても、その力自体に意志はない。

 無防備に流れの真っ只中に立っていれば莫大な河の流れには飲み込まれてしまっても、既に堤防などが整備された河であるならば望む通りの流れを作る事が出来る。流れ込んだ属性に明確な意志があり、テンペスタの意志に抗おうとしたならばそれは幾ら堤防を設けても洪水で時にぶち破られるように、台風の暴風雨の前にはちょっと手を伸ばしたぐらいではどうにもならなくても、この状態ならばテンペスタにも手が出せる。

 少しずつ、少しずつ。

 自らの力へと変換し、形を作ってゆく。

 形が形成されてゆけば、そこに流れ込む流れが生み出され、それが次の形への道を容易にし、更に……。

 

 

 、

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 「な」『二?』


 訝しげな声を双機竜は上げた。 

 莫大な力がテンペスタの生み出した漆黒の空間へと流れ込むのが停止した。

 それはいい。想定の範囲内だ。

 だが、それならば、解除されねばおかしい。

 そう、「力の流入が停止した=テンペスタの自我が崩壊した」ならば、彼の体を構築していた属性もまた自然に呑みこまれるのみ。大海に一滴の雫を落としたとて何も変わらぬようにテンペスタの色などどこに残る事もなく、属性は再び自然へと帰ってゆく……双機竜が少し干渉してやれば、一月と経たずにこの地は双機竜が暮らしていた通りの山と森を再び構築する、はずだった。

 だが、未だ天空には莫大な力がそこにある。すなわちそれが意味するものは……。


 「制御」『シタノカ?』


 あの莫大な力を?

 かつて自らが利用出来ないかと足掻き、不可能と諦めたあの力を?

 双機竜の奥底から複数の感情が浮き上がってくる。

 それは一つは恐怖。

 一度試みようとしただけに、眼前で起きた現象がどれ程困難、いや不可能に近い事なのかを彼は重々理解していた。竜となってからとんと縁がなくなったと思っていた恐怖、それが心の奥底から湧き上がってくる。

 と、同時にそれを圧するもう一つの感情が湧きあがってくる。


 「ふざ」『ケルナッ!!』


 あれだけ求めた。

 あれだけ苦心した。

 けれど、諦めざるをえなかった。

 自然に満ち満ちていようとも属性はそう簡単に制御出来るようなものではない。ないはずだったのに、若い、双機竜からすれば未だようやっと卵の殻が取れたばかりのようなテンペスタがあっさりと制御に成功し、莫大な力でその身を構築しようとしている。

 ならば自分の生とは何だったのだ。

 そんな思いが恐怖を圧する程の怒りを双機竜の僅かに残る人としての残滓が生み出す。

 

 「俺がっ!」『アレダケ!』「手を尽くして」『テニハイラナカッタノ二!!』


 何故お前はそう易々と手に入れている。

 八つ当たりと言えばその通りだ。

 才能の差、幸運、色々な言われ方があるけれど、運のいい奴はあっさりと欲しいものを手に入れる、或いは才能に恵まれるのに運の悪い奴はほんの僅かな差で欲しいものを手に入れられなかったりする。生活に困らぬ者がいる一方で、その日の食事にも事欠く者が当り前のように存在する。

 双機竜とて竜に生まれたのだから、この世界のほぼ全てに対して圧倒的に有利な立場にあった。

 それでも……その竜の生においてさえ、恵まれたものは易々と自分が手に入れたかった、欲しかったのに届かなかったものをあっさりと手に入れるというのか!

 その思いと共に組み直す。

 自らの体を構成する膨大なパーツをばらけ、再び構築する。

 それは巨人の姿。

 巨大な腕を持つ鋼の巨人、その上半身。

 口もなく鼻も耳もないが、目に相当する部分のみが爛々と輝き、一際巨大な豪腕が怒りを示すかのようにガツン!と胸の前で拳を打ちつける。

 下半身こそないがそこは竜王。重力を制御し、浮かび上がる。

 既に吸収自体は終了しており、浮かび上がる際の重力制御にも支障はない。

 半身の巨人と、未だ黒い球体として存在している竜王テンペスタの卵が空中で対峙した。


なんで竜はテンペスタと同じ事をしないの?って疑問が出ると思いますが、こういう形となっています

ただ、世の中には「自然など我々の制御下に置ける」と考えて行動する種族もまた存在する訳で……

あ、最後で人の姿を取ったのは「自分の手でぶん殴ってやりたい」という感情の暴走のせいです。実際は「竜形態:射撃モード」「巨人形態:格闘戦モード」といった感じで、むしろ不利になるかも?

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