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竜に生まれまして  作者: 雷帝
成竜編
25/211

覚醒

ようやっと仕事が落ち着いたので物書き……

以前の感覚を取り戻す、というか間があいたせいで書く感じが

 瞬間感じた鋭い痛みにテンペスタは即座にそれらを管理する別意識を構築し、双機竜を睨む。

 幸い、というべきだろうか。直撃した二箇所の内、片方は翼膜部分、ここは薄い為に瞬時に貫通し、再生が既に始まっている。

 もう一箇所は胴体部分。

 もし、ここに命中した一撃がまともに直撃していればテンペスタといえど、動きに支障が出ていたかもしれない。だが、幸いというべきか、ここでテンペスタの鱗でもある結晶体がその防御効果を存分に発揮してくれたお陰で、そこまで深刻な怪我となる事はなかった。

 テンペスタの全身に生えている結晶体は決して見た目だけのものではない。いや、竜の鱗とは元々がそうであるというべきか。

 双機竜の鱗(推定)が今、眼前で山を構築する状態から竜を構築する形態へと変化したように、テンペスタの鱗にも独自の性質がある。それは自身の属性を蓄積するというもの。これだけ聞けば「何かあった時に力を溜める電池か?」と思うかもしれないが、そうではない。

 爆発反応装甲、リアクティブアーマーというものをご存知だろうか?

 テンペスタの鱗はそれに近い性質を持つ。すなわち、結晶に蓄えられた力が他からの攻撃、干渉を受けた際に力を放出して相殺するというものだ。

 これの利点は自動防御という点。すなわち、例えテンペスタが気付いていなかった不意打ちによる攻撃であろうとも対応してくれるという事。

 


 これ以外にも一部を砕いて他者に渡す事で蓄えられたその力を使わせる事などが出来るのだが、無論、万能などではなく、所詮は体を覆う鱗の一つであり、一定以上の属性という名の力が加われば砕け、その奥へと力を通してしまうし、蓄えた力とて体から離してしまえば少しずつ属性を放出し、やがては土塊となってしまう。

 だが、竜の本体はその程度の減少でも十分。テンペスタという竜の肉体自身の強度が属性を消され、純粋な単なる力と化した相手からの攻撃に耐えうるのだ。

 竜の翼という部分においてはさすがに防ぎきれなかった為に貫かれたが、胴体への直撃に関しては鱗に皹こそ入ったものの粉砕というレベルにまでは至っていない。

 

 (……再充填)


 力を再び意識して流し込む事でそれは再生を果たす。意識して流せば、その程度は容易い。

 今回の場合は純粋に地の属性の力で偶然に生まれたレーザー発振機を元に構築されたいわば科学的技術を用いて量産されたレーザー砲だったのだろう。正直な事を言えば、竜の操るレーザーに相当する攻撃と比べれば効率は悪いと感じたし、威力も含めだ。

 だが、本来レーザーに相当する攻撃は火の属性に関わる力。

 つまり、地の属性に特化したと思われる相手が普通使ってくるような力ではない。それだけに意表を突かれた。

 それでもこれだけならば問題はない。これだけならば……。


 「今度はなんだ?」


 剥がれ落ちた双機竜の鱗の欠片、とでも呼ぶべきものが飛来する。

 多数が飛び、テンペスタに襲い掛かる。

 対空砲火はテンペスタを掠めた瞬間、爆発を起こす。

 だが、それらはいずれもテンペスタから離れた所で爆発する。影響を与える事はない。

 テンペスタから放たれる地の属性による陰がそこにテンペスタがいるのだと錯覚させ、飛来する鱗を爆破させる。効果なしと見たのか、すぐに飛来する鱗の雨は停止した。

 その攻撃の停止した一瞬の隙をつき。

  

 「喰らうがいい!」


 反撃の一手を放つ。

 プラズマ化した高熱の球体が複数周囲に出現し、即効で叩きつけられる。

 

 「……全てとはいかんか」


 熱核融合のエネルギーだ、正確にはその一部ではあるが純粋な金属であれば一瞬で融解を超え、蒸発していただろう。もし、双機竜が単なる金属の塊であれば、そうした兵器の類であれば今頃テンペスタの見下ろす眼下にあるのは歪な溶けて固まった金属の塊、というのが精々だったはずだ。 

 だが、健在。

 一部に溶けたと思われる痕跡こそあったものの、すぐに修復されてしまう。

 テンペスタが放ったそれにも、防御した双機竜の側も属性の力を用いた力だ。それならば属性相殺が可能となる。……要は竜同士の力と力のぶつかり合いという事であり、双機竜の防御の力がテンペスタの力に対して一部屈したものの、致命的な損傷を受ける程ではなかった、という事になる。

 

 「大きすぎるのだな」


 良くも悪くもそれに尽きる。

 大きすぎるから細かい所まで行き届かず、防御が甘い所が存在する。

 大きすぎるからその持つ属性の力も巨大なものとなり、それ故に倒しきれない。

 巨大な船と同じだ。

 小回りは効かないが、巨大故に小型船なら転覆してしまうような荒海にも耐える事が出来る。


 (さて、どうするか)


 今も双機竜側からは時折レーザーを撃ってきてはいるが、種の割れた手品は恐ろしくはない。

 いや、これが純粋な属性の力ならば脅威にもなるのだろうが、このレーザーはいわば地の属性からすれば間接的なものとなる。上位の竜や龍同士の戦いでは属性の力こそが相手へと打撃を与える大きな要因となる。これは属性こそが彼らのエネルギーの源だからだ。だからこそ、属性同士をぶつける事で消耗を果たせば身動きが出来なくなり、最終的には生命活動にすら支障を来たす事になる。 

 逆に言えば、属性の篭っていない攻撃であれば属性の消耗は抑え気味なものとなる。間接的な方法で本来火の属性を持つ竜が操るレーザーの攻撃を果たしたと言っても、本来は地の属性のみ持っていると思われる双機竜の攻撃としては直接地の属性をぶつけられるよりもテンペスタの消耗は少ないのだ。

 無論、全く属性が篭められていない訳ではないので奇襲となれば先のような事態が発生する訳だが……分かっていれば防御も容易い。

 

 「……落ち着く様子もないな。矢張り仕留めるしかないか。しかし……」


 そんな事は長く生きている竜ならば理解しているはずだ。

 なのに、未だ攻撃方法を変えようとしない。意地になっているのとも違う。

 何を考えている?

 そんな思いが募る。 

 

 この世界の根幹とも言える属性は四つの属性、火水地風に絞られる。もっとも、人などはこれに光と闇を加える事もあるし、竜自身はと言えば上位竜でさえそこまで細かく考えていないものが大半だ。極僅かな竜だけが興味半分で研究を行い、その域に辿り着くがそこで満足してしまい、それらの知識を他者に教えようなどという事はしない。良くも悪くも竜達は繁殖という生涯に一度か二度のみ共に過ごす時間以外は単独で完結してしまっているからだ。

 実際には人が考えている内、光は火の属性に属し、闇というものに至っては存在しない。闇自体が明暗の言葉通り、光の強弱によって生み出されるものだからだ。

 それはさておき、それだけにそれぞれの属性の持つ幅は非常に大きい。

 火の属性も単なる火、炎というだけではない。それどころか光や加熱、加速。

 水の属性ならば水、氷といった基本分野から鏡、植物、減速など。

 同じような現象を、別の属性を用いて行う事も出来る。例えば、洗濯物を乾かすという現象でも、水分を加熱・蒸発させるか、或いは水自体を布から取り除くかという違いはあっても、結果として洗濯物は乾くといった次第だ。

 そして、風の属性ならば空間、音などがあるが、地の属性はその範囲が他と比べても非常に広い。

 生物は大量の水を含有する為に水の属性に分類されるが、物質としての部分も存在する為に地の属性もある程度干渉可能だ。

 これ以外にも重力などもあるのだが……そんな地の属性に属する力の中に磁力がある。

 雨霰と放たれるレーザー。

 それに混じって時折飛来する弾丸。

 弾丸の速度は遅く、見えてから対処しても十分間に合っていた。何時しか気付かず、それにテンペスタは慣れてしまっていた。                                         そう、何時しか双機竜の単調な攻撃に慣れてしまっていた。

 結果として、それまでとは明らかに異なるタイミング、異なる速度で飛来した一撃に対応し損ねてしまった。

 

 「!ぐ、ぶっ!!」


 それまでの一撃とは違う。

 レーザーより遥かに強烈な、属性のたっぷり篭った一撃。紛れもない地の属性による攻撃の証。

 それはだからこそ、テンペスタの防御をあっさり突き破り、肉を穿ち、貫通した。

 幸いだったのは速度重視の為だったのか、或いは偶然か。飛来した鱗が杭のように鋭く細く尖ったものであり、尚且つ弾丸もまた竜の鱗であった為だろう、極めて高い硬度だった事だ。結果として、テンペスタ自身の鱗との激突で生じた僅かな破片が肉に食い込む形で残ったものの、引き裂かれた肉は比較的少なく、速やかに貫通した為に傷口をぐしゃぐしゃにするという事もなかった。

 だが、それはあくまで比較の問題。

 それまで衝撃の伝播こそあったものの、テンペスタの鱗表層で停止していた攻撃が遂にその防御を貫いた瞬間だった。  

 更に追い討ちをかけるように、いや、実際そうなのだろうが強烈な攻撃が立て続けに襲い掛かってくる。

 これまでがその攻撃の為の前振り、或いは下準備だったのだろう。攻撃もレーザーは先程までの攻撃力を持たず、テンペスタ周囲に拡散するようにばらまかれている。一見すればただ綺麗なだけの見せ掛け、イルミネーションの類だが僅かながらでも属性を持っているというのが厄介だ。微量ではあっても属性がテンペスタの周囲に集中してばら撒かれる事によって、目晦ましの役割を果たしている。それが及ぼす妨害の影響は微々たるものだが、その微々たる影響が戦闘の天秤を双機竜の側へと傾ける。

 しかも、双機竜の攻撃はそれだけではない。

 それまでとは比べ物にならない高速で飛来する鱗の砲弾。感覚を幻惑する拡散レーザー、それに加えて後方へと飛び去ったはずの外れた砲弾が弧を描いて再度飛来する。こちらはさすがに速度こそ失われてはいるものの、それでも先程まで飛来していたた鱗と同レベルの速度を維持し、執拗に追ってくる。

 

 高速で撃ち出されている鱗の砲弾。

 その速度の正体は地の属性による磁力を用いた電磁砲、レールガンだ。

 空中展開された地の属性が磁力でもって仮想の砲身となり、鱗を砲弾として撃ち出している。

 更に、ミサイルの如く追尾してくる方だが、こちらの種は先程テンペスタに直撃した鱗、その破片だ。

 僅かな破片ではあるが、元々同じ竜の同じ鱗だ。格好の誘導発信源となり、それをひたすら追い続けている。

 おそらく、これこそが双機竜本来の戦い方なのだろう、狂っていても戦い方はしかとその身に焼き着いているらしい。そして、隠蔽の為の愚鈍な戦い方を脱ぎ去った熾烈な攻撃は次第にテンペスタを追い詰めてゆく。元々、双方の持つ属性のエネルギーは圧倒的に双機竜の方が上だ。テンペスタとて四つの属性全てから力を得られるが為に、相当な属性の力を溜め込んでいるが双機竜は属性の種類に劣る部分をその圧倒的巨体で補っている。それは最早船と輸送機の差、同じ輸送を主軸とするものでも、海と空では圧倒的に海を行くものの積載能力が勝る。それはすなわち攻撃の余裕へと繋がり、ましてや、現在テンペスタは大きな怪我を負っている。

 結果として、テンペスタは急速に不利な状況へと追い込まれていった。

 何より拙いのは現状では離脱も出来ない事だ。多数撃ち出された大量の鱗が後方を遮断するように飛び回り、離脱を困難にしている。 

 

 (くそっ……!)


 迎撃しながら苛立ちが生まれる。

 痛みの感覚自体は切り離しつつも、どうしても動く際に違和感を肉体が訴えてくる。

 そもそも何故このような事になったのか。

 

 (……結局、あやつのせいではないか!)


 勝手に勘違いして、勝手に怒り出し……そうして自分勝手な理由で殺そうとしてくる。

 段々とテンペスタの内にそれまでの冷静な感覚が薄れ、怒りの割合が大きくなってゆく。

 長らく、テンペスタは怒り、という感情を抱いていなかった。

 幼少時は親の保護の下にあった。

 巣立った後は確かにキアラと一緒にいて、憤慨する事はあった。だが、それは誰かの為の怒りでもあった。良く言えば苦しめられる誰かの為に怒り、共感する事が出来たという事であり、悪く言えば結局の所他人事であって自分自身の事と思う事はなかったとも言える。

 そう、テンペスタは自分自身の為に他者に対して怒りを抱いた事はなかった。

 それがこうして追い詰められた事で怒りを抱いた……その為にこれまでになかった程に急速に思考が加速する。

 

 (結局力が足りないのだ、力が足りないからこそ奴の攻撃を止めきれず、奴を仕留められん!)


 力を、そう思って僅かに周囲に目を向けたテンペスタは……拍子抜けする感覚を覚えた。

 ああ、なんだ……幾らでもあるじゃないか。

 気付けば簡単な事、これまでは自身の内に自然と溜まる分で十分だから意識すらしていなかったが、属性の力は、自らが扱う事の出来るそれは周囲に溢れかえっていた。

 太陽の光は降り注いでいる。

 風は心地良く流れている。

 大地の鎖は自身を下へと引き下ろそうと奮闘し続け、水は風に混じって流れると共に眼下の大地を植物と共に覆いつくしている。

 ならば、とテンペスタはそれらの力を自らの内に取り込もうとする。双機竜を倒すのに必要なだけの力を!

 

 その瞬間。

 轟!と世界が震えた。

一月の忙しい時期が終わって、ひと段落ついたのでようやっと上げました……

ちょこちょこ粗筋は仕上げていたので、何とか三つ四つぐらい連続で上げたいですね……という訳でなるだけ早く次を挙げれるよう書いてます

二次の方も書き直してたのがあと少し…

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