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竜に生まれまして  作者: 雷帝
成竜編
24/211

第二十二話「機竜暴走」

年末は忙しいですね……

何とか更新間に合いました

 「ほほう、それは興味深いお話ですな」


 テンペスタが双機竜に遭遇する数日前の事。

 山から離れたある開拓村に二人組の冒険者が訪れていた。

 と、言っても別段何か思惑があって訪れた訳ではなく、単なる偶然。

 元々、同じ冒険者パーティであった彼らは所謂成功したパーティの一員であったが、だからこそ、というべきか。解散して引退、という道を選んだのだった。

 元々冒険者という仕事は危険と隣り合わせであり、成功したと看做されるパーティに対してはギルドからも退き時を見誤るな、という話はうるさい程口にされるようになる。「引退に成功して初めて成功者」と言われる程、冒険者の引退時というのは難しく、ついついもう少しもう少しと現役に拘った結果、命を落としたり或いは体の一部を失い強制引退に陥った、財産を軒並み失った、自分は助かったが大事な仲間を失ったという例は決して少なくない。

 そうした意味合いでは彼らは幸運だったのだろう。

 

 「そろそろ引退の時期も考えないとな」


 そんな事を口にするようになった矢先に僧侶役の女性の妊娠が発覚したのだから。

 リーダーとの間の子だったが、残る二人、魔術師の男性と戦士の女性が素直に祝福したのはどちらが早かったかの違いだと自覚していたからだ。そう、男と女が二人ずつで片方が出来ているパーティが妙な空気にならなかったのは残るもう二人も出来ていたからに他ならない。

 だからこそ、男同士、女同士で相談したりもしたし、仲良くやってきた彼らはこれを機にすっぱりと引退する事に決めたのだった。

 

 さて、引退するとなるとどこでどうやって余生を送るか、となるがこちらは大体大きく分ければ選択肢は三つだ。

 一つは特に大成功した者。

 残る生涯を遊んで暮らせる程の財を築けた為にのんびりと街の名士として悠々自適の生活を過ごす者。

 一つは蓄えた財を用いて何か商売を始める道。

 ある程度以上成功した冒険者というのは築いた人脈も多い。そうしたコネを活用する道だ。……もっとも失敗して冒険者に復帰という者も一定以上の割合で存在するのだが。

 そして、最後の一つがギルドの一員となる道。

 冒険者ギルドにとっても経験豊富なベテランがギルドの運営に参加してくれるというのはありがたい。

 教官役や窓口の責任者、最終的には各地方のギルド長など求められる人数に全く数が追いついていないのが現状だ。

 

 さて、この二人はと言えばこの内最後のギルドに関わる道を選んだ。

 理由は色々とある。

 まだまだ若いと思っているだけに、今から老人みたいな生活を送るのは何か嫌だ、という事もある。

 駆け出しの頃、ギルドに世話になったから今度は自分達が、という事もある。

 とまあ、色々あるがいずれにせよ、彼らはギルドの一員となる事を選んだが、その際に魔術師の男性の故郷のギルドにて働く道を選んだ。魔術師はまだ親が生きていたという事もあるし、一方女性の方は……故郷に対して未練が存在していなかった。

 元々農民の生まれだった彼女は飢饉の年に口減らしとして人買いに売られ、転売という形で奴隷商人に売り飛ばされた。

 しかし、移動の途中で奴隷商人が盗賊に襲撃され、護衛共々相打ちの形で死亡。そこへ通りがかった隊商に拾われる事となった。

 これが正当な商人ならば例え奴隷商人でも問題となっただろうが、この奴隷商人、れっきとした闇商人。当然、権利を名乗り出るバカがいる訳もなく、解放される事となった訳だが本来なら故郷に戻る事も出来ず、かといって特に特技もない彼女は精々が所スラムの一員となるのが落ちだったろう。けれど、先の隊商のがこれも縁と次にやりたい仕事が見つかるまで雇ってくれる事となった。

 その旅の中で彼女は才能があったのだろう、護衛に剣を学び、一端の腕を持つようになった。

 そうして、独り立ちした彼女は冒険者となり……今、こうして伴侶と共に彼の故郷へと向かっていたのだった。


 そんな旅の途上、彼らが立ち寄った村で興味深い話を聞く事になった。


 「輝く山ですか」

 「ええ」 


 近隣の森の奥、街道から外れた場所に天気の良い日には遠くからも輝く山が見えるという。

 だが、その山に赴く者はいない……腕の良い猟師であってもその山に赴いたりはしない……生きては帰れない故に。

 そんな話だったのだが……翌朝、ごく普通に村を発った彼らはそのまま昨晩聞いた山の方向へと足を向けていた。

 

 「多分、竜が関わってるんだろうな」

 「そうよねえ」


 もし、彼らが普通の旅人だったら危険を冒したりはしなかっただろう。

 そもそも森の奥という時点で魔獣に遭遇する危険があるからだ。

 或いは普通の冒険者だったとしても、矢張り赴いたりはしなかっただろう。

 竜の恐ろしさを良く理解しているからだ。

 ……つい先日まで熟練の現役冒険者であった彼らだからこそ、赴いた。そんじょそこらの魔獣程度なら二人でも対応出来、そして竜というものを知っていた故に……そう、竜という存在は一般に思われている程恐ろしく見境のない凶暴な存在ではない。

 いや、下位の知性のない竜は危険だ、それは理解している。

 だが、一定以上の竜、或いは下位でも属性竜はそうではない事を彼らは理解していた。

 そして、輝く山、となるとそこにいるのは間違いなく最低でも属性竜であろう。無論、上位竜から警告を受けたり、属性竜が明らかに威嚇している際は早々に立ち去らねば危険だ。だが、そうでないならば、単なる見物程度ならばそこまでの危険性はない。

 ……仕事に追われていた現役の頃ならまた話は違ったかもしれないが、引退を決めた者故の物見遊山感覚だからこそ、彼らは足を向けたのだった。  

 その結果、彼らはアレに出会う事になり……歴史にその名を残す事になる。  




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 「これが原因だったか!」


 背後からの奇襲。その正体をテンペスタが把握したのはブレス同士の激突で周囲が吹き飛んだ直後だった。

 周囲の壁、機械と金属の集合体が解け、それらが双機竜へと絡み付いてゆく、いや、一体化してゆく。それと共に部屋となっていた空間は崩れてゆく。

 出来た隙間から一気に加速してテンペスタは空中へと飛び出す。

 大空へと飛び出したテンペスタの視界に映るのは崩れ行く山の姿とそこから立ち上がる巨大な龍の姿……そう、あの機械の山はそれ自体が双機竜の体の一部だったのだろう。道理で何らかの術の気配を感じなかった訳だ。相手は体の一部を動かして殴りつけてきただけだったのだろう。

 そう、あの機械の山は……。


 「全てが体を構成するパーツ、か」


 厄介な、と内心で呟く。

 と、同時に疑念も抱く。

 

 (はて、これは何だ?)


 テンペスタは双機竜からの攻撃を回避しながら内心で首を傾げていた。

 竜の体の一部、それは間違いないだろう。そうでなければ全く攻撃が感知出来なかったという事はありえない。

 もし、相手が何かの力を使っていたとする。

 金属であるから地の属性の力を使っていたとして、それなら全く感知出来ないという事は同じ地の属性を持つテンペスタにはありえない話だ。反応が遅れた、という事はあるだろう。直前まで感知出来なかったという事も相手の方が高齢の竜で、力の扱い方に習熟していればありえる話だ。

 だが、全く感知出来ないという事はありえない。

 父である龍王は風の力に関しては世界でも有数の力の持ち主だろうとテンペスタは想像しているし、実際それは正しい。

 実の所、大嵐龍王という名をつけて呼ばれているのは伊達ではなく、東方の地では神の化身とも呼称される強大な、世界でも風の属性の扱いに関しては最高位の龍である。そんな父龍の力であっても、直撃したその瞬間には感知出来た。その力の達人に直前までの隠蔽を施されれば「気付いた時には手遅れ」という事態はありえる。けれども打ち据えられた時には金属塊にテンペスタは触れているのだから地の属性を使っていれば分かるはずだ。

 しかし、そうなると金属の塊は一体何が変化したものなのだろうか、矢張り……。


 (可能性があるものとなると……鱗、か?)


 そう考えるのが妥当だろう。

 竜の体は不可思議不自然不条理の塊だ。

 これが人族ならば肌の色が違う事はあるだろう、髪の質が変わっている事や目の色、顔立ち、感覚の多少の鋭さや記憶力などに差異はあれど基本となる部分、目と耳は二つで、鼻と口は一つ、手足は二本ずつで……といった部分には基本的には違いはない。

 しかし、竜や龍は違う。

 同じ両親から生まれた子供であっても、竜と龍では形状が全く異なるし、テンペスタの弟妹であってもテンペスタの鱗が硬質の結晶体であるのに対して最も仲の良かった黄金竜の妹はサラサラの毛並みだった。これが成竜とも成れば更にその差は大きなものとなる。

 下位竜であってもその違いは大きい。

 それこそ小型のものともなれば犬や猫サイズがいる一方で山のような巨体を誇る竜もいる。

 それらが全て同じ「竜」であり、「龍」なのだ。

 果ては今回の竜がそうであるように、竜とも龍とも区別のつかない頭が二つある相手だっている。

 

 けれども。

 それでも生命である事に違いはない。

 形状自体は「本当に同じなのか?これ」と言いたくなるかもしれないが、鱗があって角や尻尾がある生命である事は間違いない。

 と、なるとその中で体から離しても扱えるようになる部分など鱗ぐらいしか思い当たるものはない。……さすがに腕や脚を外して自由に扱える程、生命を止めてるとは余り考えたくないとも言う。


 (いや、でもそういう武器持ってる奴もあっちの世界じゃいたはずだ…)


 そんなどうでもいい事を考えているのはどうにも相手への対応がしづらいからだ。

 何分、いいように狂ってくれている様子な為に隠蔽の度合いが低い。

 力を揮うにしても、機械なだけあって地の属性に偏っているようで分かりやすい。

 正直、力の使い方だけなら前の大地の竜王の方が遥かに巧妙で、やりづらかった。問題は……相手が大きすぎる事だ。

 山と思える程の巨大なパーツの集合体がばらけ、竜から龍を構築した瞬間、それは巨大としか言いようがない相手となった。

 全長で言えばキロに達し、その長大な全身のいたる所から攻撃を仕掛けてくる、のだが……。

 何せ、狙いが出鱈目だ。

 もし、これがテンペスタに集中攻撃をかけられていたら、飽和攻撃となって対処しきれなくなっていた可能性はあるかもしれない。けれどもてんでんばらばらに照準が定まっている状況ではまだ対処は……。


 「ええい、下手に狙いが定まっていないから対応しづらいぞ!!」

  

 そう、狙いがいい加減な癖に数が多い為に意外などこかから飛んできた砲撃がいきなり命中コースだったりする。

 確かにひっきりなしに攻撃が飛来するというのも厳しいが、これはこれでまたかなり厳しかったりする。

 

 「死」『ネ!』

 「貴様がな!」


 ここに至ってはこれを放置しておく訳にはいかない。テンペスタは覚悟を決める。

 これまでテンペスタは同じ竜ないし龍相手に本当の意味で戦うという事はなかった。

 過去に殺し合いという意味での戦いを行ったのはいずれも下位竜のみ。上位竜とは大地の竜王と交戦はしたものの、暴走する相手を倒すまでは考えても滅ぼすという考えは皆無だった。それはあくまで相手が暴走していたと言っても一時的な暴走であり、基本話せば分かる相手だったからだ。

 だが、今回は違う。

 今、暴れている双機竜が正気だとは思えない。

 頭に血が昇っているだけ?そう思えればどれ程楽だったか。

 心が伝わってくる。そう言えばいいのだろうか?狂気としか形容のしようのない気配が双機竜からはひっきりなしに襲ってくる。

 こんなものを放置していたらどうなるだろうか?一度暴走を開始したこの巨大な竜がどこかで冷静になり止まるその瞬間までにどれ程の被害が生まれる事になるのだろうか?もしかしたら早々に冷静になってくれるのかもしれないが、そんな希望的観測に頼る訳にもいかない。

 逆にもし、延々暴れ続けた場合は……人の国が一つ二つ滅びる程度ではすめば良い方だろう。

 だから、覚悟を決めて攻撃する。相手を葬り去る為に。

 ……どこか狂気の心の中からそれを望む心も伝わってきたから。

 

 ブレスを叩きつける。

 相手からの攻撃を防ぐ。

 その繰り返しだが、手ごたえがない。

 原因は分かりきっている。単純に相手が大きすぎるのだ。

 元々、相手もれっきとした竜、普通の魔獣だの自然だのを相手にする時とは異なり、抵抗される。地の属性に特化しているだけに金属製の体に巡らされた力は膨大で、テンペスタのブレスといえどちょっとやそっとでは穴も開かない。

 もちろん、しっかりと溜め込めば問題はない。胴体であれ貫通可能だ。問題は……。


 (どこが弱点だ?)


 そんな事を考えなければならない、という点にある。

 何せ、頭をぶち抜いても平然と動いてくる。

 もしかしたら双頭を同時に破壊しなければならないのかとも思うが、そうなるとタイミングが大変だ。今のテンペスタのブレスで双機竜相手では複数に分散させた場合、貫通出来るか怪しい。それぐらい相手の外皮と溜め込まれた地の属性の力の組み合わせは頑丈だ。しかし……。


 (無敵の存在などというものはありえん)


 そう、全てにおいて完璧などという事はありえない。

 どこかに弱点はある、はずだ。

 そう思って視界を下げた時だった。


 ジャカッ、と。


 装甲がスライドして幾つもの眼のようなものが双機竜の体に現れる。

 なんだ?

 そう思った次の瞬間。

 全身から光の刃が放たれた。

 一つだけテンペスタにとって想定外だったのはその攻撃が地の属性の攻撃ではなかった事だ。

 だから地の属性の力を防ぐつもりで展開していたテンペスタの防御を――全身から放たれたレーザー光の内二つが貫いた。 

明日大晦日に何とかワンピースの書き直し版も上げれるといいんだけど……

何とか年内に更新出来ました

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