遡りすぎな昔話
リハビリがてら少しずつまた書いていこうと思います
『そも、お前達の祖先はこの星で生まれたのではない。遥か遠くの星で生まれたのだ』
ルナ以外の竜王・龍王達も興味津々だ。
『かつて、お前達の祖は星々の海を渡る術を手に入れていた』
だが、それも戦争で失われた。
……これらはリアルタイムで本体から情報を提供されている。
さすがにこんな詳しい事は分からんよ。この星で今を生きる子孫達は当然詳しい事なんか伝わってないし、本体がこの星で最初におぎゃーと生まれた時点で既に口伝も何も失われていた。衛星には今も残骸は残っちゃいるが、本体が生まれる前に喰らった小さな衛星の直撃で一応の形状が残ってるのが不思議なぐらい。残されていた知識の残骸もその時に宇宙空間に放り出されて今はどこを漂っているやら。
劣化しようと、形が残ってりゃ竜王級になれば何とかなるが、さすがに宇宙のどこかに散らばってはどうにもならん。
だから、これは一瞬で時間を遡り、宇宙船がやっと、この星に辿り着いた旅路を逆算し、彼らが宇宙空間を飛び回って繁栄していた頃まで探るだけの力がいる。
そうして本体を通じて知った彼らの記録はこうだ。
かつて一つの星で発生した彼らはいつしか宇宙へ飛び出し、やがて光の速度すら超える技術を手に入れた。
しかし、だ。
この星でもそうであるように、彼らの祖先もまたどれだけ手に入れても満足など出来なかった。
やがて合従連衡を繰り返し、二つの大きな勢力となった彼らは遂に戦争を始めた。
代理戦争でも、経済戦争でもなく、本格的な戦争に突入したきっかけは簡単。人の勢力が完全に二つの勢力にまとまってしまったからだ。
代理で戦争をやらせる小国もなく、経済は互いの内側だけで完結出来てしまう恒星間国家が二つ。初期はそれでも外交で何とかなっていたが……互いに内に籠っても十分何とかなってしまう事が災いした。これがせめて、もう一つの勢力があれば話は違っただろう。そうなれば、下手に動けない三つ巴となって大戦争にまでは至らなかったはずだ。
しかし、彼らは二つにまとまってしまった。
そして、なまじ双方が同じぐらいの力だった事も災いした。
結果、彼らは隣国と張り合うようになっていった。
競い合うのは良い事だが、次第に競争心は敵意へと変わっていった。
それを必死に止めようとした者達もいたが、時が過ぎるにつれ、教育自体が相手を敵として教育するものへと変わっていき、遂に戦争は勃発した。長い対立の間に貯めに貯めこんだ戦力と、過剰なまでの破壊力を持つ兵器群を携えて。
片方が劣勢になれば、すぐにそれを覆すべく心理的な抵抗やら何から使われずにいた強力すぎる兵器も持ち出され、相手がそれに対抗する為に同じような兵器を持ち出しと戦争はエスカレートの一途を辿った。星を砕くどころか、星系そのものを破壊するような兵器が飛び交い、結果住んでいた星系そのものを失った難民達が大量に発生した。
高い科学力を誇っていた彼らだったが、それだけの難民を収容可能なだけの惑星を用意する事も、宇宙コロニーを用意する事にも限界はある。
居住惑星の数は減る一方だったし、初期は難民達を気の毒に思って受け入れた星もどんどん余裕が消えていき、かといってコロニーを建設したり、新たなテラフォーミングには時間がどうしたってかかる。
そんな至極当り前の結果、彼らの文明は衰退していった訳だが、そうした難民達の中には新天地を目指そうと考えた者達もいたし、戦争自体に嫌気が差した連中もいた。
そうして、故郷の銀河そのものを捨てて旅に出た彼らは大多数がどこにも辿りつけぬまま、ある者達は自滅し、ある者達は遭難し、僅かな者達が新天地へと辿り着いて、しかし、更に多くが発展する事なく滅びた。
極わずかな例外が生き延びたが、そんな彼らも文明は失っていった。
……ちなみにそんな彼らの元文明だが、何気に生き残ってたりする。破壊が進み、文明の衰退が続いた結果、数万光年に渡る居住に適さない分断空域が生まれ、更に戦争を続けるだけの国力が双方ともなくなった事で自然休戦に陥った。
技術と生産力など全てが衰退したせいで、数万光年を渡って攻め込むだけの力なんてどちらにもなくなっていた訳だ。
隣り合っていれば、「あいつらに負けるな!」と張り合えても、到底超える事が出来ない万年単位の荒海が間に横たわってしまえば話は別だ。机が並んでいれば成績を競う気になれても、遠方に引っ越してしまえば競おうという気持ちになる事はまずない。
おまけに、そうやって相手との戦いが止まった結果、今度は責任を問う関係で双方とも内輪もめを開始。
おかげで片方の勢力は最後は一つの惑星だけで生存が可能な(食料や水の自給自足等が可能な)所以外は全滅。分かりやすく言えば、生存困難な地だけど豊富な鉱物資源が手に入るなんて場所は食料や水、空気の提供などが止まった事で次々滅びていった。
しかし、もう片方は何とかそうなる前に踏みとどまって、今では次第に文明を発展させつつあるようだ……。
『お前達は滅んだ側の勢力の生き残りだし、再発展しつつある連中もこちらとは正反対の方向に勢力を少しずつ広げているようだから、ここに来るのは果たしていつになるか分からんがな』
といった所でふと周囲を見れば、人は誰もが唖然としてついてこられていないようだった……。
ルナはメシ以外に関心なし。今晩の献立でも考えてるな。
海は更に人に対する嫌悪感が増した様子。
空と土と氷は……呆れてるな。
ただ、空は他二体よりも「仕方のない連中だなあ」、と苦笑してる印象だろうか?
『……お前達の祖先はそのような流れで、この星に辿り着いた訳だが、その時のこの星はお前達の祖先が住めるような状態ではなかったのだ』
まあ、このまま続けてしまおう。
話を聞いて、どう思うかはこの星を生きる者達に任せよう。
……竜も含めてな。




