再起を図る者達
世の中、馬鹿はいつだってなくならない。
もっとも、そう言われるような当人は理解はしないだろう。彼らは言う「お前たちの方がバカだ!」「私は大局を見て判断している、目先に捕らわれるお前達とは違う」などと色々あるが、総じて言えるのは自分が正しい、自分は間違っていないと思っている事だ。バカは死ななきゃ治らない、と言う事もあるが、さてでは死んでも治らないバカはどうすれば良いのだろうか?
もっとも、今、震えている彼らはそんな過去を思い出す事さえ出来ないだろう。彼らの脳裏にあるのはただ一つ。
『なんでこうなった!?』
ただ、それだけだ。
そう、竜神の下に引きずり出され、周囲には竜神以外にも圧倒的な気配を漂わせる存在達が都合五体。彼らの目には四体と一人。
左には美しい輝ける竜と巨大な山。
右にはいずこまで伸びるか分からぬ長大な体と見事なまでの球状を描いた氷塊。
そして、後方には一人の彼らも知る女性。
さて、このような状況となるのを探る為に時間は少し巻き戻る。
――――――――――
世界は一度リセットされた。
そんな中で、暴利を貪る者もいれば、自分達まで神罰の対象とされるのではと考えて慎む者もいる。
それはいい。
だが、それだけとは言えない話もある。
「ここがそうか」
「まだまだ未開の地ですな」
中央大陸の一角には小規模な都市がある。
人口で言えば十万にも満たず、大洪水以前の世界ならば地方の小都市レベル。だが、つぎ込まれた技術その他諸々は世界でも有数のものを誇っている。
この地は当時、世界各国が交渉の末、地元民からの許可を得て借りた土地だ。無論、馬鹿正直に一部を借り上げるのではなく、大量の土地を騙し取ろうと考えなかった者がいないではないが、それらは聖竜教の司祭らのような、この地に生きる者達に敬意を払う者達、そして軍関係者によって防がれた。
何故、軍関係者が止めたのか?
そりゃあ騙された事に気づいた現地住民が怒ったら、それを防ぐ手段がないからに決まっている。
大軍を持ち込もうとしたら海の龍王に咎められて沈められる光景しか見えない。
下位の竜モドキに対抗する為に一定規模の武装は認められているものの、その程度で生身で戦車を叩き潰すような、怒り狂う現地住民達を止められる訳がない。冗談抜きで軍人達からすれば「ふざけんな!死にたいならお前らだけでやってくれ!!」というのが本音だろう。
しかし、それでも理解出来ない、というより理解しようとしない者はどこにでもいる。
「新兵器の実験にはもってこいというものです」
そんな一人の呟きに部屋にいる全員が頷いた。
「工場なども現在は一から建設し直しですからな……資産の一部は帝国の銀行に預けてあったとはいえ痛い」
「まったくです」
帝国企業は比較的余裕を見せてはいる。
というより、彼らは今回の件で下手に足元を見て仕掛けるのは愚策だと考えているのを彼らは理解していた。だからこそ、まだ自分達に挽回のチャンスがある、とも。
今回の件で帝国企業も本社が無事だったとはいえ、国際企業ともなれば海外拠点も多数抱えていた。当然、彼らの損失も決して馬鹿になるものではないが、それでも本社まで綺麗さっぱり流されてしまった他国企業に比べれば遥かにマシな事は間違いない。
しかし、帝国企業達は今回の件が「海の龍王様の怒りを買っての事」という事に他国の人間からすれば予想以上の警戒心を抱いていた。
結果、この状況下で一気に帝国企業が世界を席巻する!という行動に出れずいた。もっとも……。
「まあ、真っ当な仕事をしていてさえ、十分以上に支持を得て、勢力を伸ばしているのも事実ですからな……」
という声に全員が苦虫をダース単位で噛み潰したような顔になった。
当り前だが、他国企業が再建するにしても各種建築機械から工作機械まで全て帝国企業から仕入れるしか道がない。
鉱山の再開にした所で人力などでは目途が立つはずもなく、多種多様な業界で結果として、帝国企業の傘下に入った所がある。
そして、企業が活動再開したとしても当初の規模はかつてより大幅に小さい段階から始めざるをえず、雇用を失ってあぶれる者は多数出る。それを支援の名目で雇用するのもまた帝国企業だった。
要は調達先から少なからぬ雇用まで帝国企業はほっておいても勢力を伸ばした訳だ。そして、それに文句を言おうにも、彼らの会社も極めて重要な取引先に帝国企業が名を連ねており、再建された国にした所で帝国からの支援がなければ立ち行かないような状況だ。
大体、こんな状況で「帝国からの物資を断れ!」なんてやれるのは極度の独裁政権ぐらいのものだが、その独裁政権にした所で世界の至る所で倒れている。
何しろ、軍という暴力機関が今回の一件で軒並み力を失ったからだ。
情報操作を行う報道機関は設備がなく、軍は装備の一切合切を失い、情報機関も丸ごと設備も装備も失った。
こうなると不満を抱えた人々が押し寄せた時、それを防ぐ手段がない。何せ、軍にした所で「防げ!」と言われたって生身と生身で対決するしかなく、銃や催涙弾どころか放水すら不可能、というのでは数の暴力に飲み込まれるしかない。
そして、独裁者が逃げようにも脱出路などを備えた宮殿はもはやなく、車や航空機もない。走って逃げるしかないような状況では後は顔を隠して紛れ込むぐらいしかないという訳だ。
「とにかく、我々は何とか再起を図らねばならない」
「うむ……ここの竜モドキ相手ならば実験を行っても文句も出まい」
彼らはそう言って、暗い笑みを浮かべるのだった。
……この地の人々がモドキとはいえ、竜を狩るという事にどれだけの意味を持たせているかを知る由もなく。
新話です
さて、竜達まで怒らせたのは一体何故でしょう?




