祖霊達の会話
津波に洗い流された、ある都市の一角。
そこの地面がぼこりと盛り上がった。
「やれやれ、酷い目にあった」
そう言って立ち上がったのは一人の初老の男性……に見える祖霊だった。
地の属性を持つ彼はとりあえず地下五千メートル程まで潜って、津波をやり過ごした。余り浅いと力の余波を喰らう事になる為、念の為深く潜った訳だ。普通の動物とかなら海の龍王はきちんと無効化してくれたであろうが……祖霊相手ではそんな配慮してくれるかどうかは怪しい。
海の龍王は空の竜王ほど祖霊に対して敵対的ではないが、試してみるのは愚か者のする事だ。
「しかし、これは酷い有様だ」
思わず嘆きの声が出てしまう。
これは一からやり直しだな。
「まあ、いいか。さて、次は何をやってみるか……」
わざと街を今ある物だけで一から作っていくというのも面白いかもしれないと考える。
周囲には残骸ではあるが、素材となりそうなものは一杯ある。
これらを用いて、小屋や家を作り、周囲の瓦礫を取り除いて畑を作り、作物を作る……。
「ふむ、面白いかもしれん」
そう考えると少し顔や年齢を変えておく。
最近は有名になりすぎた為に、下手に外見を変えるのも難しかったが、この状況でなら外見を変えた所で気づく者は誰もいないからだ。
竜神様の意思からすると、その内蘇生を行う予定のようだが……。
「まあ、どうとでもなるだろう」
これだけの混乱だ。
一人ぐらい世界的企業のトップが行方不明になった所で問題はあるまい。
……などと部下が知ったら血相を変えて悲鳴を上げそうな事を考えている祖霊の所に、空を飛んで別の若い女性人族……に見える祖霊が降り立った。
「ああ、やはりここにいましたか」
「おお、久しぶりだな。……おまえさんは空に?」
「ええ、大気圏外に退避しておりました」
ほう、と初老の祖霊が呟く。
「空の竜王に睨まれんかったか?」
「別に、わざわざ探し出してまで滅ぼしてやりたいという程憎まれている訳でもありませんから……」
あくまで空の竜王にとって祖霊達というのは気に入らない連中、というだけの話。逃げ出す祖霊をわざわざ視界に入った程度で滅ぼしたりはしない、という事だ。
「しかし、人というものは繰り返すものですね」
「まったくだな。お前はこれからどうする?」
私はこれから久々に畑を耕すとかやってみるつもりだが、というと相手は目をぱちくりさせた。
「世界的企業のトップが開拓兼ねた畑仕事ですか」
「どうせ、我々は好きな事をやってみたくて、この姿になったのだ。別にこういう事をやってみても構わんだろうよ」
「なるほど」
ふと彼女は考えた。
そういえば私も最近はモデルとか、ファッションデザインとかそういうのばっかりやってたなあ……とファッション界の女王なんて呼ばれている存在だった彼女は思い返して……。
「それもそうですね。なら私も別の事やってみましょうか」
「それがいい」
などと笑い合う二体の祖霊だった。
……もっとも。
こんなアレコレ手を出し、好き勝手やる姿をこそ空の竜王は嫌っている訳で、こんな会話をしている彼らを、祖霊達の認識外から苦々しい思いで見はしたのだが、やがて認識の外へと追いやったのだった。
空の竜王「こいつら一時的な興味で、そんな姿選んでんじゃねえよ」
何より面倒なのは周囲に流されてきた遺体とか転がってんですが、こうした人の世界に出て来た祖霊達は人の世界で暮らしながら基本、そうした人の生き死にとかそういうものに何の関心も持ってないという点でしょうか
関心を持つ祖霊は中央大陸に戻ってます。原因は親しい相手とかがどんどん消えてしまうので物悲しさを感じてしまう為です。ありようが異なるので心が壊れるとかはないのですが、人ときちんと向かい合うからこそ竜が共に暮らす事の難しさを理解してしまうというか……




