後始末をする人
「はあ……」
儂は溜息をついた。
聖竜教の大主教という実質的なトップを務めておる訳だが、最近仕事がとにかく忙しくて仕方がない。
原因は分かっておる。かの神罰の日が原因じゃ。
かの日以降、世界は変わった。
我が聖竜教が実質上の国教として扱われておる連合帝国は、かの神罰を免れた。
長い、長い年月によって如何に聖竜教が実質上の国教であるといえど、他宗教に転ぶ者や、信仰心が薄れた者もおったが、かの御方による神罰はカルト宗教の信者ですら震え上がったようで改宗を求めて神殿に駆け込んでくる者が続出した。中には、それなりの規模を持つ新興宗教が教祖当人を含めた全員の改宗を求めて来た事さえあった。
無理もない。
あれはそれだけ強烈な印象を与えたのだ。
世界最大級にして最も信頼されるメディア世界一位に長年君臨し続けるフェガリスキアグループ。
かのグループはおそらく何等かの竜王様達との繋がりがあるのであろう。
そう思えたのは他でもない。海の龍王様による神罰、あの光景をフェガリスキアは最後の最後まで世界に向けて放送し続けたからじゃ。
そして、連合帝国の救助部隊が向かった先で見た光景は驚くべきものじゃった。フェガリスキアグループのビルだけが瓦礫すら残さず綺麗に都市が洗い流される中で無傷で屹立し続けておるというのは儂でさえ目を疑う光景であった。
そして、空から見れば、信じられぬ事ではあるが、あの神罰がビルの直前で真っ二つに割れた事は明白じゃった。
……そして、奇跡は一年余りの後に起きた。
脳裏に響く竜神様のお言葉。
そして、人々の蘇生。
あれが決定打となった。
生き返った他国の者達からも聖竜教に帰依したいと望む者が続出。お陰で、現場は大騒ぎじゃ……儂らも各国から求められる応じるので精一杯じゃ……何せ、規模が一気に十倍では済まなくなってしまったんじゃから対応にも限度というものがある。
……それに、全ての者が聖竜教に帰依した訳ではない。
逆に深い憎悪を向けた者も確かにおるのじゃ。
そして、そうした連中が刃を向ける先は……儂ら聖竜教であり、国家であり、民じゃ。内乱に突入した国さえある。
竜たる方々に直接憎悪を向ける者はおらぬ。彼らとて理解はしておるのじゃろう……やった所で何の意味もない事ぐらいは。結果、その抑えきれぬ怒りは竜ではなく、竜を信仰する我ら聖竜教や、竜の方々に対して軍を送り込むという対応を行った国家、そして彼らと違い何も行動しようとしないように見える民へと向かっておる。
しかし、民とてそれに納得する訳がない。
納得できる奴がおったら見てみたい気もするがの……。
厄介なのはそうしたテログループが一つではない事じゃ。いや、中にはテロ組織ではない組織もある。
一つにまとまっておれば、まだ対処のしようもある。
じゃが、彼らの主張もてんでんばらばらなのが事態をややこしくしておる。
ある組織は公然と竜の方々との決別を主張し、政党として活動しておる。過激な政党と認識されてはおるし、末端には暴力的なものもおるそうだが上は真っ当に政党として活動しておるから咎めだても出来ぬ。末端まで言っておっては人の集まりである以上どこであっても問題ある者が皆無とはいかぬからの。
またある組織は無謀にも龍王に対する報復を叫ぶ自殺志願者か!と民衆から罵られるようなカルト集団。
かと思えば、無謀な戦いに追い込んだ国の責任を問い、国を打ち倒すべく活動する革命を目指す武装組織もある。
ただ、一つだけ、カルト教団のような僅かな例外を除けば一致していたのは竜神や龍王、竜王との敵対を避けようとする動きがある事じゃろうか?自殺願望があるとしか言いようのない極一部を除けば、誰もが竜を敵にする事に対して、ある者は愚かさを、ある者は畏怖を、ある者は恐怖を感じ取っておる。
ただ、圧倒的な力を示されただけであれば、おそらく敵意を持つ者はもっと多かったであろう。
何時かは、竜たる方々を上回り、倒してみせると考えた者もまたいたであろう。
――だが、蘇生が彼らの心を打ち砕いた。
『ただ壊す力を持つだけでなく、全ての人族を生き返らせるだけの力を持つ存在』
人にとってこれほど分かりやすい神の形が示された事は未だかつてあるまい。
竜神様を真正の神として崇め、竜王様龍王様方をその使いとして敬意を払う。
……まあ、分かりやすい形で示された事で、勝手な願いを竜神様に願おうとする者が後を絶たないのもまた事実なのだが。一応、中央大陸の奥地に竜神様の聖域があるとされている事は有名な話なので、願う事があるのならばそこで願いなさいと、神殿に苦情を言ってくるような愚か者には言っているそうなのだが。
神殿にわざわざ「竜神に願ったのに願いが叶わない!」などと文句を言ってくるような輩は「おそらくあなたの願いの声が小さいのでしょう」と繋げて、そう告げれば大体それで黙る。
神殿に文句を言ってくるような輩は竜神様には直接文句を言えないから、不満のはけ口としてこちらに文句を言ってくるのだからな。まったく……おっと、いかぬ。
「そろそろ会議の時間か」
長年、連合帝国と対立していた故にまともな神殿のなかった王国から、都市再建に際して正式に聖竜教の神殿を構築したいと申し入れがあった。
そうした所に誰を責任者として派遣するか、いい加減決めねばならぬ。
まったく、仕事は増える一方じゃわい。
精神的に余裕のない日々が続いてます……
落ち着いて書ける余裕が欲しい




