幕間:対海の龍王7
「……準備はいいか」
「はっ」
ある艦隊で、その兵器の準備はされていた。
「効果はあるのでしょうか?」
「……分からん」
王国と地の竜王との戦い、その戦いに関して手に入れた情報を信じる限り、直接的な打撃でどうこうする事は困難だろう。核兵器でさえ効果のない相手にミサイルだのなんだのが通用するとも思えない。
かといって、純粋な打撃を強化しても果たして効果あるかは疑問だ。
以前の大規模な戦いで戦艦が動員されたと聞くが、それらも全て沈んだという。
先だっては王国海軍が様々な打撃兵器を投入し、やはり失敗したという。故に。
「だが、単純に攻撃力を上げるよりは可能性があろう」
「……はっ」
納得しきれてはいないか。
だが、他に我々に選択肢など、ない。
使わないままでは、無事帰れた所で司令官含めた司令部全員が何等かの処罰を受けるのは確実。いや、降格ぐらいなら甘んじて受け入れるが、彼らの国では冗談抜きに彼らの家族まで当局に連行されて、そのまま永久に『行方不明』になりかねない。
それを考えれば、使わないという選択肢はなかった。
◆
そして、運命の一弾が放たれたのは各国の攻撃が始まって、おおよそ五時間余りが過ぎた後の事だった。
これだけの時間がかかったのは単純に海での航行というものが予想以上に時間がかかる、という点にある。軍艦の艦隊全速で航行しても、平均的な速度はおおよそ時速で50キロ程度(大体30ノット前後)。一方、艦隊というものは大規模になると撮影用の艦同士の距離を詰めたフォーメーションでもない限り、通常の陣形を組んだ際の陣形は中心から外縁部まで大規模なものだと半径で30~40キロにも達する。
すなわち直径で言えば、その倍。
更にそうした正規の陣形を組んだ艦隊が複数ある、という事は、そうした数十キロの直径を持つ艦隊同士の距離も維持しなければならない。
これがせめてレーダーといった索敵装備が通常通り機能していれば、対象を捕らえた他艦からの情報を元に攻撃する事も出来たかもしれないが、現実は視認しなければまともに攻撃出来ないという状況。となれば、そこまで移動しなければならないが、艦隊同士が交錯しないよう互いに通信しつつ、回り込むように移動を行う必要さえある。
むしろ、最初に発見された時の相互の位置からすれば、よく五時間少々でその位置につけた!と褒め称えてもいいぐらいだった。実際、ここまで政治士官からも特に苦情などは出ていない。いや、本国などから一時的に派遣されてきた(してきた)普段はデスクワークの連中は苦情を言っているようだが、普段から艦隊に随行している海軍軍人としての知識と経験を持つ歴戦の政治士官などが宥めてくれていたようだった。
ここまで各国がいわゆる「秘密兵器」を投入していたが、効果はない事が判明していた。
例えば王国軍が用いたのは簡単に言えば巨大なバッテリー弾。
命中すると共に内部に溜め込まれた膨大な電力が一気に放出され、感電死させる!……という目論見だったが、全く効果がなかった。
この為、相手の本体は純水か超純水のレベルなのでは?という予想や、いや、そもそも電気自体が効いていないのでは?という声もあったが、とにかく電気が効果がない事は分かった。
この他、単純に砲弾の威力を上げたもの。
中には吸水素材を詰め込んだ代物まで存在した。
……まあ、相手が球場一杯の水とかなら十分すぎる程の効果があったのだが、相手が想像以上に巨大すぎて意味も何も感じられなかった訳だが。
そして、この国の秘密兵器は……。
「……撃て」
毒物だった。
徹底的に水を汚染し、生命を死に追いやる毒物。
外れても、周辺海域を汚染する事によって本体へと影響を与えるべく開発された極めて高濃度に圧縮され、且つ水に触れれば即溶け込んで拡散するという代物。それは確かに、海の龍王にも効果を発揮した――その怒りを買うという方向で。
直接照準という方法に慣れていなかった(実際、普段から緊急時に備えた訓練を行っている王国海軍でも、直接照準の命中率はレーダー照準のそれに比べると的があれだけ巨大でも低いと言わざるをえなかった)彼らの放った毒性砲弾は周辺海域にも多数落下し……その毒を撒き散らした。
そして、最悪な事に、その毒は実に効果的に生命を奪って行った。
それこそ、海の色が変わった事に首を少し傾げている間に次々と猛毒にやられた海の生命が死骸となって浮かび上がってくる程に。
最後に最悪な事に、それらは海の龍王には全くといっていい程、効果はなかった。というか、この程度の毒など竜王や龍王に効果がある訳がなかったのだが、それはさておき、それを見た海の龍王は怒った。そりゃもう激怒した。
『この後に及んで、尚我が海を汚すか!!!!』
怒りに満ちた声なき声が連合海軍の全将兵の脳裏に響き渡った。
という訳で
最初は詰まらなさそうに見てた海の龍王の怒りを買ったのは、この後に及んで海を汚染した連中でしたとさ




