幕間:対海の龍王5
連合艦隊は大きく分けると四つに分かれていた。
四大国と一般的に称される国家の内、帝国は不参加であったので残る三大国及びその三大国と連携出来るだけの練度を持ち、共に訓練なども行っていた一部の国。そして、それ以外の国をひとまとめにしたごちゃ混ぜの艦隊である。
最初に海の龍王を発見、というか遭遇したのは、そのごちゃ混ぜ艦隊だった。
別に彼らが優れていたとかそういう話ではなく、単に彼らの方向から海の龍王が姿を見せただけだったが。
「ん?」
見張りの一人が何か見えた気がして、改めて高倍率双眼鏡で確認し直した。
「………!?か、艦橋へ!龍と思われる対象を確認!!」
この連絡が第一報だった。
この見張りの連絡を受けた側は混乱した。原因は単純でレーダーには何も写っていなかったからだ。しかし……。
「駄目ですね、確かに肉眼では見えるのですが……」
「レーダー、赤外線、レーザー測距全て反応しません。かろうじてソナーには反応あり」
この報告が来た瞬間、全員が頭を抱えた。
現代の兵器はレーダーや赤外線によって対象を捕捉し、攻撃を行う。ミサイル一つとってもレーダーや赤外線で対象を感知して突っ込んでいく、つまりは……。
「これでは攻撃出来んではないか!!」
という訳だ。
何せ、砲撃さえ、なまじレーダー連動型な為に対象を捕捉出来ていない状態では撃てない。
つまり、手動で狙いを定めて照準を定めて撃つしかない訳だが……戦車などは基本、敵とする相手までの距離が短い。地形などに左右される為に精々数キロメートルといった所だ。
これに対して、海上や空中の場合は距離が数十キロに及んだり、高速だったりで光学照準の導入は限定的だ。
かつてのレーダーがまだ未発達だった頃には測距儀が用いられていたが、そうしたものは総じて巨大だった。というより、光学のみで遥か遠方に照準を合わせるには高い場所にそれを設置して、尚且つ巨大にならざるをえなかったとも言う。
しかし、現代では……。
「……やむをえん。撃てないよりマシだ!手動切り換え!ミサイルは誘導を切れ」
「それでは単なるロケット弾に……」
「言っただろう!撃てないよりはマシだ!!」
それ以上は反論はなかった。
確かに、狙いをつけるのが困難だとしてもまったく撃てない、攻撃出来ないよりははるかにマシだと全員が理解したからだ。
もっとも、真の問題は別の所にあった。
この時点で彼らも気づいていなかったのだが、最初に海の龍王に遭遇したのが、このごちゃ混ぜ艦隊だという点に最大の問題が生じていた。すなわち、統一された指揮権というものがこの艦隊には存在していなかったという問題が!
もちろん、彼らも考えはしたのだ、ちゃんとした指揮命令系統を構築すべきではないかと……。
しかし、無理だった。
例えば、通常なら階級や先任順で決定される。
しかし、ここで例えばA国とB国があったとして、それが隣国で仲が悪かったらどうだろうか?
或いは、C国とD国がいて、D国はC国に対して経済的に完全に依存していて頭が上がらないという事だとどうだろうか?
もしくは、E国は小国だからこそ箔をつける為に、えらい高い階級を与えていたらどうだろうか?
A国とB国は互いに相手に指揮権なんぞ渡したくないだろうし、D国はC国を差し置いて自分が指揮権を握る事に躊躇するだろう。E国が指揮権を握る事に反発する国だって出てくるはずだ。更に、ここに各国の本国政府からの指示まで絡みだした事で余計に収拾がつかなくなり、出撃までに指揮系統の確立を成し遂げる事が出来なかった。
一応の連絡網は何とか構築したものの、互いの艦に対する命令権は存在しなかった。
ここまでくればもう分かるだろう、まず連絡網は発見の報に関してはきちんと機能したが、最初の艦で行われた指示は他の艦でも同じように行われた訳ではなかった。
混乱が混乱を生み、手早く攻撃準備を整えた艦があった一方で、まったく準備が出来ていない艦もいた。
他の真っ当な艦隊ではこのような混乱は起きなかった。
もちろん、全指揮官が即座にそうした事に気づいた訳ではなかったが、命令系統がしっかりしている艦隊では誰かが気づき、誰かが意見具申という形で指揮官がそれを受け入れる事で迅速に対応を行う事が出来たので同じような事は起きなかった。
最終的に海の龍王との交戦を開始する時、他艦隊は全艦が準備を整えていたのにも関わらず、ごちゃ混ぜ艦隊は準備が出来ていたのは全体の半数程度だった。
……もっとも、最大の不幸は、例え準備が出来ていたとしても何も意味がなかった、という現実なのだが。
レーダーにも映らず、赤外線にも反応しなかったらどうすりゃいいんでしょうね?
ちなみに、現代の艦船が直接照準可能かどうかは分からないですが、この世界では万が一に備えてそういうシステムが組んである、という事にしてます




