終焉の鐘1
「さて、では会議を始めよう」
空路を経て、集まった各国首脳が会議を行っていた。
「連合帝国はいないようですな?」
「あそこは聖竜教が強いですからなあ……」
「なに、奴らにはその分、作戦が成功した後、負担したもらうと致しましょう」
作戦名『開錠作戦』。
彼らの視点ではあるが、竜によって閉鎖された海洋を再び解放し、人の手に取り戻す!という作戦だった。
もっとも、述べた通り、大国の一角、連合帝国に加盟する各国は不参加だった。これは聖竜教の力が今もなお強い為で、結果として連合帝国は今回の世界各国の動きを批判する声明すら出していた。
とはいえ、仮にも世界でも三本の指に入る大国。完全に排除する事は困難だったが、彼らは一つ確信していた。
「作戦が成功して、海が我々の手に戻れば、掌を返してくるだろう」
という事だ。
その時は少々、不利な案件を飲んでもらうか、戦費の負担を担ってもらおうという腹だった。
……全ては作戦の成功を前提としていたが、彼らは成功を確信していた。
これには理由がある。
要はきちんと理解出来る政治家や官僚、財界人らは「勝てる訳がない!」と逃亡を図っていた。
中央大陸や、連合帝国に自称「引退」を宣言して、次々と資産を抱え、家族共々脱出していた。
こうした動きの結果、何が起きたかと言えば、これまでより一段も二段も小粒な政治屋や官僚達が次々と表舞台に出てきた。財界においても「何とか今回の一件を謝罪して、竜の理解を得られれば」と頑張っていた面々が軒並み匙を投げて逃亡した結果、目先の利に眩んだ二流が勃興してきた。
結果、マスコミに煽られた民衆に彼らが迎合し、自らの権力を強め、こうして主流を形成するに至ったのだった。
もちろん、まともな頭を持つ軍人は強硬策に軒並み反対した。
しかし、結果として彼らは軒並み更迭されるか、解任されるかに至ってしまった。こうした反対意見が意図的にリークされ、マスコミがこぞって叩いた結果、民衆からの批判が殺到するに至ったからだ。もちろん、冷静な意見もあったが、結局冷静故にデモといった行動に出ず、結果としてそうした意見は無視されてしまった。
この結果、睨まれても国や部下の為にと正論を述べるような骨のある軍人が排除され、上の命令に唯々諾々と従う者のみが残り、作戦が立てられたのだった。
それでも、当初はまだ「何とか被害を小さく!」と苦心していたのだが、上がってきた作戦案に政治屋達が苦言を呈した。
「君、いいかね?君達はこんな作戦を立てても隠れていられるのだろうが、国民から批判を浴びる我々の身にもなってくれたまえ」
軍人側からすれば「実際に体を張るのは俺らなんだぞ!」と言いたかったが、そんな事が言えるような軍人はとっくに更迭済だ。
正直に言えば、彼らの中にも言おうと考えた者はいた。
だが、下手にここで自分が更迭された場合どうなるかを考えて抑えた者もいた。ここで、更に更迭が為されたとなれば次は完全に政治屋におもねるような者が任じられるか、そうでなくても控えめな作戦は更に立てづらくなるだろう。
その結果、犠牲となるのは兵士だ。
そうした事を考えると、ここで逆らうのは考えざるをえなかったとも言う。
しかし、それでもより強硬な、見た目は派手な作戦を考えなければならない。色々考えた結果、出来上がった『開錠作戦』は極めて大規模且つ派手なものになっていった。
作戦参加国は主力となる国が九ヶ国。
一見すると国の数に比べて少ないが、実の所、外洋で艦隊運動を取れるだけの技量と艦艇を持つ国というのは限られている。何せ、まず内陸部の国はそうした艦艇そのものを持っていないし、海に面していても国の位置によっては主力は海軍以外になる国もある。
また、海軍というものは金がかかる。
船の乗組員というのは一介の水兵であっても技術者だ。つまり、軍艦の乗員というのは育成に手間も時間もかかる。
更に大型の軍艦ともなれば一隻で小国の国家予算にも匹敵する額になったりする上、大型の船というものは維持にもそれ相応の金がかかる。……つまり、外洋で行動可能な艦隊を擁する国というのは、その時点で一定以上の国家予算規模と人口を持ち、外洋に面したそれなり以上の国家、という事になる訳だ。それが可能な国家で且つ派遣可能なだけの余裕を持つ国となると、連合帝国以外では上記の九ヶ国になった訳だ。
ただし、小国含めて参加する国はまったく何も出さないというのでは連合帝国以上に拙い立場となってしまう。
結果として、一隻しかない大型軍艦を出したり、艦船武官という名の人手を出したり、その他諸々の手助けをしている。
……ただまあ、まともな艦隊を組める国としては一隻だけ出されても困る。
そもそも、艦隊運動を行うには艦同士が同じような速度を発揮可能な事が必須な場面も多い。一隻だけ鈍足では艦隊運動にも支障を来す。
九ヶ国連合にしてから、仮想敵国も互いに含まれており、共に連携しての艦隊運動を伴う演習などをやった国同士となると一気に減る。
結果、複数の艦隊を構築し、互いに可能な範囲で連携を取れるようにしている。もっとも……。
「なあ、勝ち目なんかあると思ってるのか?」
「……ないだろうな。俺、遺書書いて、家族にはせめてなるだけ内陸に逃げるよう言ってきたよ……」
そんな悲痛な声を上げる軍人がそこかしこで見られた。
今生の別れと恋人と涙ながらに別れを惜しむ者。
我が子を抱き上げ、妻と抱擁を交わす者。
老いた両親と最後の別れを交わす者。
人に対してだけではない。愛犬や愛猫などを幾度も抱き、撫で、そして託す者。
軽い気持ちで挑む者の姿などそこにはいなかった。
しかし、どれほど辛くとも出港の時は来る。互いに見つめ合う中、艦隊は次々と出航していくのだった。
軍艦ってお金かかるんですよね……高くなりすぎて建造キャンセルになったズムウォルト級なんて44億ドル、最新鋭の原子力空母ともなると130億ドル……
作っても維持費がかかる訳で……さて、そんな船が何隻海の藻屑になるんでしょうねえ?




