ぐだぐだな開戦
各国において、大きな動きが起きた。
皮肉にも、その影響を抑える事が出来たのは、それが一人か集団かの差はあれど基本として強圧的な独裁国家だった。例えば権力を集中させた独裁者、例えば軍事独裁政権、例えば一党独裁体制。それぞれ形は違っていても、民衆の不満に対して力を持って押さえつける事が体制として出来る国だ。
そうした国では漁師らも弾圧や、再教育を怖れて動けず、動いた一部の者は叩き潰された。
一方、民主国家と一般的に為される側では様相は異なった。
こちらは建前だろうが何だろうが、主権は国民にあるとされている。となれば、正式なデモに対して軍隊を動員するにも限界がある。少なくとも、問答無用で鎮圧の為に発砲!という訳にはいかない。
結果として、デモはより大規模になり、次第に手が付けられないものになっていった。言うまでもなく、漁師や船員らのデモに「良識的市民」達が加わり、更にマスコミがそれを煽って……と、どんどん火に油を注いでいったからだ。
……そして、非常に困った事に、これはそうした国だけで終わらなかった。
何せ、漁場の選定と割り振りは世界各国との調整の末に出来上がったものだ。独裁国家もまた、影響を受ける事になる。
「「「「「……このままでは拙い」」」」」
世界各国で、首脳らが頭を抱えた。
一部の無責任な議員らが「民衆の為」に活動し始めた事で更に厄介な事態に陥った国まであった。
「どうにかしろって、じゃあお前何かいい方法あんのかよ!?」
「それを考えるのがあなたの責任なのではないですか!」
「無理だってんだろ!!だったら、代わってやるからお前が責任持って何とかしてみやがれ!!」
「自分がやった事を放り出す気ですか!!無責任にも程がある!!」
「無責任なのはてめえだろうがああああ!!なら、せめて方法を提案しやがれ!!」
「自分がこの事態を引き起こしておきながら、代案を要求するとは何と酷い事を!!」
冗談抜きでブチ切れたある国のトップと無責任議員が生放送で怒鳴り合い、最終的には殴り合いに発展したという、実際に起きた話の一つだ。
もっとも、これで却って民衆の方が「ここまで言うって事は本当に無理なんじゃないのか?」と一周回って冷静になり、議員の方が失脚したというオチがある。
しかし、そんなのは極一部。
一部の国では暴徒と化した民衆が一時議会になだれ込むなどますますヒートアップしつつあった。
だからこその「このままでは拙い」だった。
「どうにかしようにも下手に海軍なぞ出したら海の龍王の怒りを買いかねないぞ……」
「それを私も怖れている。龍王でさえない下っ端龍でさえ、艦隊を壊滅させるような相手だ……」
「そもそも地の竜王で分かっているだろう!龍王相手に通じる武器なんぞ存在せん!!」
「だが、このままでは一部が暴走しかねん……!軍のお調子者が同調なぞしてみろ!人嫌いという海の龍王が『そいつらは私達の指示で動いたんじゃないんです』などと言って聞いてくれると思うか!?」
全員が静まり返った。
誰もが理解していた。そんな訳がない、と……。
「……数年でも海を閉鎖されたらとんでもない事になるぞ……」
「強権で抑えるにも限界がある。ましてや民衆への強権を発動させるのが困難な国では……」
彼らの脳裏には冗談でも何でもなしに崩壊する文明が浮かんでいた。
一国でも暴走が起きれば、それは世界中の国へと連鎖する。
そうして、その時、今度は独裁国家こそ危険になるだろう。民主国家ならば通常、責任取ってやめた議員や首脳らが危険に晒される事は早々ない。
しかし、独裁国家ではそれまで独裁権力を握っていた者達に、潜在的な怒りと相まって悲惨な未来が訪れる可能性があった。
「ん?ちょっと失礼……なんだ、今重要な会議中……はあ!?」
一人が電話に出た後、大声を上げた事に他全員が不吉な予感を覚えた。
「ぎょ、ぎょぎょ漁船団が武装して他海域に押し寄せたあああああ!?しかも、一部艦隊まで随伴してるだと!?」
「「「「!!??」」」」
そして、凶報は更に続いた。
「はあ!?うちでも暴走した連中が出ただと!?」
「なにい!?艦隊と竜との交戦が勃発した!!!???」
「え!?隣国の漁船団の漁場無視に対抗して、うちでも!?」
「連中を取り押さえる為に出動した艦隊が龍と遭遇して、戦闘に!?不本意!?当り前だああああ!!!!」
あっという間にパニックが広がっていった。
ちなみに、電話を置いた後の彼らの行動だが。
「「もういやだ。私は辞任する」」
「「私は亡命する」」
というものだったそうな……。
かくして、竜と人との戦いはぐだぐだな展開から再度勃発したのだった。
最初にやらかしたのは情報統制受けてた国です
そんな国だから、地の竜王で起きた事件が伝わってませんでした
しかし、一国が破れば……生活がかかってるので、民主主義系国家では急遽漁師を別の公務員として雇うとか対策は考えてたんですけどねー




