変わる世界18
国際水路会議。
空の竜王の提案を受けて成立した組織だった。
結果から言えば、各国共、空の竜王の提案を飲んだ。輸送船がまともに動かせない悪影響は各国経済に深刻な打撃を与えつつあり、それを解消出来るのなら何でもいい!というのが彼らの本音だったとも言う。
とはいえ、利害の調整は必要だった。
海の龍王から示された航路や漁場。それらは十分な航路であり、漁場だったが、複数の国が同時に使うとなると航路はまだしも漁場はそうはいかない。少しでも広く漁場を確保したかったが、かといって揉めている内に「そんなに揉めるなら、なかった事に」なんて言われたらたまらない。
故にある程度妥協しつつ、各国に近い漁場が割り振られていった。
さて、こうして割り振られた漁場だが、各国の漁師達からどうだったかと言えば、歓迎された。
何しろ、昨今はまともに漁に出る事さえ出来なかった。
それが遂に解禁された、という事で諸手を挙げての大歓迎となった……。
「とはいえ、今の内だけだろう」
議会で一人が溜息と共に呟いた言葉に他の誰も反論しなかった。その通りだろうと誰もが思っていたからだ。
今はまだいい。ゼロよりはマシだと誰もが思っているはずだ。しかし……。
「落ち着けば不満が出てくるのは避けられんだろうな」
「不満だけならまだいい。故意に『間違える奴』が出たらどうする!」
愚痴めいた口調で言ったある国の議員の言葉にかぶせるように言った別の国の議員の言葉に全員が沈黙した。
故意に『間違える』。
つまり、本来漁場ではない所で「間違えてたわ、ここ今はやっちゃいけなかったんだなあ」などと言い出す輩が出ないかという事だ。
「この際、違法漁業をやった漁師が叩き潰されるのはどうでもいい。問題は責任を人族に対して問われる事だ」
同感だ、と全員が頷いた。
薄情なようだが、そうした違反を犯す漁師に関しては自業自得だと判断している。大勢いれば、そんな者が出てくる事は避けられない。場合によっては「漁師がいなくなった今なら」と密漁を狙う者や、場合によっては熱狂的な釣り人が穴場だからとやって来る可能性もある。
それらはどうでもいい。
間違いなく、海の龍王配下の竜達によって叩き潰されるだろう。
一回や二回ぐらいなら幸運にも成功して帰ってくるかもしれないが、そうした成功を体験してしまった者が我慢出来るとも思えない。間違いなく、繰り返し、そして命を落とす事になるだろう。
問題は、それを人族全体の問題だと看做される危険性だ。
「そんな者が出てきて、結果として『航路も遮断』などという事になったら大変だぞ」
「まったくだ。……違反者には死刑も含めた厳罰を規定すべきでは?」
「いや、違反が発覚した時点で死刑で良いのではないか?そこまでやっているが、その上で違法な漁をやっている者、航路を違反している者に関してはどうぞお好きに、と事前に伝えておくのがよかろう」
「なるほど」
容赦も何もない意見が当り前のように出て、賛同が得られていく。
それはここしばらくの海の閉鎖がどれだけ国にとって甚大な被害を与えたかを知っているからであり、どれだけ海の龍王という存在を怖れているかの証でもあった。
「後は……」
「国家レベルで『間違い』を犯す可能性ですかな?」
実の所、会議自体には海と接する全ての国が参加している。どこの国だって、さすがに海の龍王を敵に回す気はない。
ただし、この場に全員がいるかと言えば、そうではない。
そもそも、どうやった所で主導権は大国、と呼ばれる国が持つのは避けられない。大国が話し合って、決めた事を小国は黙って受け入れるしかない。……もっとも、今回はまだ海の龍王が関わっている分、大分マシなのだが。これが関わっていなければ、大国自身が「うっかり間違えた」りする事だってありえる。
まあ、今回はやらないだろうが。
そんな事を大国がやるのは、自国に対して強く実力行使に出る相手などいないと思っているからだ。
が、今回は違う。
今回はそんな事をしようものなら、海の龍王という圧倒的存在が出てくる。そんな相手に「人族の大国」などという肩書なんぞ意味はない。ないのだが……。
「……密漁を完全に防ぐ事は不可能です」
「国によっては他に稼ぐ手段がないと見て見ぬ振りをする国もありそうですな」
「飢えて死ぬか、竜に襲われて死ぬか、という事か」
うーむ、と全員が頭を抱えた。
これが単なる金ならまだ何とかなる。だが、最初から命がけとなると……飢えて死ぬよりは竜に一矢報いてでも!なんて考える奴だっていそうだ。
「……空の竜王様に相談してみましょうか」
「……そうだな」
結局、それしか結論は出なかった。
現実世界でも違法操業は絶えません
そして、他国の漁船に体当たりして沈めたりするような国も実在してますし
また、危ないから侵入禁止な場所に入り込む釣りキチも一般的ですしねえ……




