変わる世界17
今回は空の竜王のほとんど一方的に語り掛けになってます
全滅一歩手前だった王立海軍にとっては正に神の降臨というべき登場だった。
元より威厳というか神々しいというか、そういう印象を与える外見を持つ空の竜王であった事もあり、全員が思わず頭を下げていた。無論、暴れていた水龍は空の竜王が取り押さえているから出来た事でもある。
『手酷くやられたようだな』
どこか苦笑のような響きを持つ声が脳裏に響いた。
『どうだ、戦ってみて。まだ挑むかね?』
ある者は苦渋の顔になった。
ある者は闘志を持って見上げた。
だが、大部分の者は共通した感情を浮かべた。すなわち恐怖という感情を。
そう、ほとんどの者達は既に心が折れていた。
もっとも、未だ挑む気概がある方が珍しいと言うべきだろう。九死に一生を得た直後にすぐまた同じ危険に挑める者はむしろ、どこか壊れている。
『さて、君達には提案を行いたいと思う』
提案?
どういう事だろうかと、これには全員が首を傾げた。
『海の龍王は人という種族に好意を抱いてはいない』
だが、続けて言われたその言葉に全員の血の気が引いた。
龍王でも何でもない龍一体にこの惨状だ。
地の竜王を相手にした時は何をしても無駄に終わった。
そして、海の龍王が人族に好意を抱いていない……それを聞いて尚、冷静でいられる者はいなかった。いや、冷静どころか、単なる龍相手ならまだ闘志を燃やす事が出来た者達でさえ、血の気が引いていた。
『安心するがいい、だからといってわざわざ滅ぼしに行く程嫌っている訳ではない』
その言葉に一同ほっとしたが、不安は消えなかった。
滅ぼしにいかないまでも、嫌がらせとかちょっと手を出してくるぐらいはするんじゃ……と、そう思ってしまったからだ。相手が相手だ、海の龍王からすればちょっと人に対して苛立ったから、という程度の行動だったとしても、超巨大津波が襲い掛かってきたら万単位の死傷者が出る事は避けられない。
『海の龍王が人を嫌うのは人が海を汚し、海の生命を過剰に取るからだ。いや、勝手に価値がある無価値だと評価したりするのもあったかな?』
まあ、それは良いか、そう呟くと空の竜王は話を続けた。
『しかし、人から海を奪うのはあちらの本意ではない。故に……』
航路を定めよう。
海から恵みを得るのは良いが、無駄にせぬ事を誓え。
そして、命に差をつけるな。
それを守るのならば、我と我が眷属はお前達に手を出さぬ。
『ああ、無論、そちらから喧嘩を売るというのならば話は別だよ?』
その時は本気で戦ってくれるだろう。
そう笑い声を上げる空の竜王と共に笑える者はいなかった。笑える訳がない。
『私からは以上だ。後はお前達が世界へと伝えるがいい』
自分達の国の中だけに収めて、自分達だけ海を利用しようなどとは考えない事だ、とそう笑い声が響いた直後に全員の体が硬直する程の寒気が襲った。
『私をも敵に回したくないのならな』
そう言って風が吹き。
気づいた時、彼らは母国の大地を踏み締めていた。
その後彼らがいかなる行動を取ったか……それは言うまでもあるまい。
以上でした
さて、どんな選択をするかはまた来週




