変わる世界16
「ここまで、か……」
既に僅かな例外を除き、全ての艦船は洋上に停止するか、波間に姿を消していた。
停止した艦も大きく傾き、必死の脱出が行われている艦も多い。
「提督!早く提督も退艦を!!」
「私はいい。それより艦長、君こそ早く退艦したまえ」
「結構です。艦長たる者が艦を見捨てて逃げろと?」
睨み合って、ふっと表情が緩むと二人して大笑いした。
「いやあ、今時こんな事を言う奴が私以外にもいるとはな!」
「お互い、昔かたぎのバカですなあ」
笑い合う提督と艦長の二人に声を掛けられる者はいなかった。昔の提督や艦長がそうしたように、彼らもまた沈みゆく艦と運命を共にする気だと悟ってしまったからだ。だからこそ、幾人かが兵士に合図をしようとした。無理やりにでも艦から脱出させようとする直前、提督が酷く穏やかな声で口を開いた。
「誰かがな、責任を取らねばならんのだよ。それも議会で責任を追及される姿を見せるのとは別の形で、な」
その言葉に誰もが沈黙した。
提督の言葉を説明するならば、「美談と悲劇」を大衆に提供する必要がある、という事になる。
この場合、提督と艦長が責任を取って、沈みゆく艦と運命を共にした、という美談且つ悲劇がそれにあたる。そうなれば、マスコミはそれっ!とばかりにこうした話題に飛びつき、大衆は海軍を批判する前に、マスコミの提供する話題に飛びつくだろう。
逆に、ここで下手に生き残って、議会なりに責任者として引っ張り出されたらどうなるか?
おそらく、議会の外には海軍を罵る群衆が押し寄せ、マスコミは海軍を散々批判する事になるだろう。
そうなったら、最悪だ。
本来ならば、今回の経験を活かして、最低でもあれらから船を守り抜く艦を作らねばならない。船舶以上に輸送で効率の良い手段など未だ存在しないのに、そんな事も忘れて、海軍が叩かれ、場合によっては予算すら削られる可能性もある。
効率を無視して、地上や空を輸送の主力とするかもしれないが、いつかは破綻する。伊達に、船舶が巨大化していった訳ではないのだ。
それを理解して、誰もが何も言えなくなった時だった。
「!!奴が来ます!!」
「いかん!全員すぐ退艦しろ!!」
まだしぶとく浮いている、この旗艦を見つけたのか今回の敵でもある海龍が向かってきていた。
敢えて悠然と迫りつつある、その姿は勝利を確信しているのか。だが、お陰で何とか脱出の時間はありそうだった。もっとも、横づけした無事な艦船に乗り移るという当初の手段ではなく、海へと飛び込むという事になりそうではあるが。
そう思った瞬間だった。
『その覚悟やよし。だが、少し待つがいい』
そんな言葉が全員の脳裏に響き……。
「?奴が……停止しました!!」
脂汗を流しつつも、海龍の動きを注視していた兵士の声が響いた。
見れば、海龍もどこか焦ったような様子を見せている。
そんな時、上空の雲がすっと晴れ、光が差した。
「「「「おお……」」」」
そんな声が漏れたのは誰が最初だったか。
誰もが見惚れ、目が吸い寄せられていた。
いや、この時、提督達だけではなく、艦隊で懸命に救助に当たっていた、或いは救助を待っていた者達までが一斉にその存在に視線を吸い寄せられた。
「あれ、は……」
「竜王……!天空の竜王だ!!」
輝ける空の王がその場に姿を現したのだった。
竜=西洋風のトカゲ型ドラゴン
龍=東洋風の蛇みたいな体のドラゴン
改めて念のため




