変わる世界12
兄弟妹竜で話した結果、一つの話が持ち上がった。
「人族にも追い払うぐらい出来ない?」
かくして、ルナがあちこちに話を通して、人族は動いた。
全てはご飯の為に。
――――――――――
新生王立海軍が海を進んでいた。
はっきり言ってしまえば、乗り組んでいる全員が不安を隠せなかった。
艦自体は新しい、というより最新型だ。
だが、最新型なのと、良い物であるかはまた別。竜の襲撃を怖れ、海運が支障をきたす中、懸命な突貫工事で建造された為、どこに問題を抱えているか分からない。本来なら、それを洗い出す為の試験航海を行う所なのだが、それも許されなかった。
新システムも多数導入されたというのに、それに慣れる為の実際に艦を使った訓練でさえこうして航行しながら行う有様。
これで不安がなかったら嘘だとしか言いようがない。
ふう、と指揮官は溜息をついた。
「心配ですか」
「いや、ちょっとな」
部下に不安を与えてはと気づかれないようにしたつもりだったが、苦笑を浮かべた艦長に小声で言われた。
もっとも、艦長も気持ちは指揮官と同様なのか苦笑はしても、怒ったりはしなかった。
・試製対竜戦闘艦
そう呼称される一連の戦闘艦艇群。
旗艦には大型の主砲が装備されている。かつての戦艦のそれを最新の技術をもって復活させた!と言えば聞こえはいいが、ろくに連続発射試験も為されていない。さすがに技術者達が頑張ってくれたお陰で、試験発射は問題なく済まされているが、戦闘時に連続発射した時どうなるかは分からない。
(四十センチ砲か……)
四十センチ、すなわち四百ミリ。以前の標準的な主砲が百二十ミリだったので三倍以上。
そんな代物を本当に百二十ミリ砲に僅かに劣る程度の速度で連射して大丈夫なのか?と不安しかない。発射の衝撃で艦自体に歪みが出ないかという点も不安だ。一発や二発ならともかく連射すれば歪みが回復する前に更なる歪みを発生させて、重大な問題が発生した、なんて事になりかねない。
そんな主砲が前部後部に連装で各一基、計四門。
後部にも設置されたのは背面から襲われた時の事を考えたからだが、その為にヘリコプター甲板は設置されたものの、格納庫を設置するスペースがなく搭載する機体は存在しない。あくまで他の艦艇から飛んできた時の着艦用だ。
近接用の迎撃装備としては地上攻撃機用に開発された三十ミリのガトリング砲を左右に各三門の計六門。
これらの装備に対し、ミサイルは搭載されていない。
空母も同行しているが、こちらは上空からの監視が主な任務となる。
艦隊の目がその役割であり、旧来の地上攻撃は主任務とはならない。
当然ながら、その構造は根本的に異なる。
当り前だが、これらの特化された艦艇の建造には多大な金がかかった。そして、余りに異なるその構造から、対竜戦闘には役に立たないとされたとしても他の用途に転用するという事は不可能に近い。そもそも、装甲の厚さ一つ取っても、まるで異なる。
これで負けた時の事は考えたくない。
当然ながら、政府も軍も民衆に叩かれ、自分は予備役入り確定だろう。
とはいえ、乗員含め極力選りすぐられたメンバーなのも事実。
これもはっきり言うが、軍自体がそんな派閥的駆け引きを行える余裕がない。
(胃が痛くなりそうだ)
出撃時に、お偉いさん達もこぞって駆け付けて激励されたが、顔こそ遠目にはにこやかに、自信に満ちたように見えていただろうが目の前で相対する自分には全員が全員目が血走って、真剣極まりない声で「頼むぞ」「何が何でも勝て!」「とにかく一匹だけでも!」と声をかけられた。
(勝てば英雄、負ければ生贄。まあ、そもそも生きて帰れればの話だが……)
だが、負けてやるつもりもない。
「訓練と休息、訓練は行わねばならんし、かといって肝心要の時に疲れ切っていては論外。難しいものだ」
「まったくですな」
次第に艦隊は予想戦闘海域へと接近しつつあった。
>最新型なのと、良い物であるかはまた別
ドイツ海軍のバーデン・ヴュルテンベルク級はドイツ海軍の最新鋭フリゲート艦ですが……
試験航海後、ドイツ海軍から受け取り拒否された、という実話を持つ艦でもあります
米軍のズムウォルト級も高価なだけでなく、沿海域での活動に問題ありという点が指摘され、最終的に削りに削られまくり三隻のみに(当初計画では三十隻以上)




