変わる世界11
今回は人の世界の側です
人族の世界では非常に大きな混乱が生れていた。
原因は単純で、地の竜王の襲来、というか通行以後彼らは大慌てで、過去の記録を確認し直していた。結果、『竜に襲われた可能性が高い』と判断せざるをえない案件が複数見つかったのだ。
急ぎ、中央大陸に渡り、祖霊の一人と接触して確認した結果は人族を戦慄させるものだった。
「大多数の竜はトカゲ同然だから、当然人を襲うよ?」
中央大陸の狩人達もそれを肯定した。
「我々の鎧は何から作ったと思っていたのだ?」
大騒動になった。
そうこうしている内に、大きな事件が発生した。それも「これまでこんな事が起きていなかったのは単に幸運だっただけ」、と嘲笑うかのような事件だった。
すなわち、王国の海軍の軍艦が下位竜に襲撃を受け、轟沈したのだ。
仮にも世界でも有力な国の正規軍の軍艦が竜による襲撃で沈んだ、という事に誰もが驚いた。しかも、この事件が知られる事になったのはその時、独航ではなく僚艦がいた為だった。すなわち、当の軍艦自体はSOSを発する余裕すらなく、あっという間に沈んだという事だ。
距離を置いて後続していた僚艦の目の前で、下から突き上げられ、真ん中からへし折られたその艦は追い打ちを喰らってあっという間に波間に沈んだ。
生存者は確認出来なかった。
こうなると王国海軍は意地で仕留めるべく攻撃を行った。
何せ、以前地の竜王の一件で軍の立場は地を這う有様だ。
今回の場合は竜神、竜王全てに確認を取って、野良の竜(野生動物同然)という事を知ってもいた。それを事前に世間に公開する事で、「倒したからって竜王や竜神様が怒る事はないから大丈夫!!」と派手に宣伝もしていた。
となれば、「危険な野生動物を排除する!」という名目で艦隊が出撃し。
完敗した。
大々的にマスコミまで多数乗せて、その目の前での惨敗だった。
そんな事になった原因は幾つかある。
一つは相手が海の竜であった事。
一旦潜ってしまえば、攻撃手段は極めて限られる事になる。
おまけに機動性や速度においては圧倒的に潜水艦より竜の方が上だった。これがまだクジラみたいに勘違いで攻撃されても余程運が悪くない限り、そうそう簡単には沈まないというならともかく、生憎、下位のはずの竜の攻撃に潜水艦はあっさり沈んだ。
海上に姿を見せた竜に対して攻撃を加えるも120ミリ砲は全く効果がなく、対艦ミサイルは生体である相手を捉えられなかった。
かくして艦隊の人族は上から下まで叫んだ。
「どうしろってんだ、こんなの!」
さて、相手はこちらを一撃で沈められるだけの攻撃力を持っていて、こちらは相手を倒せるだけの攻撃力がない。
相手はこちらより圧倒的に機動力で勝っていて、逃げる事も出来ない。
しかも、最初は相手は実の所獲物と間違えて襲ったのだが、今回は攻撃を仕掛けられた事で怒っており、執念深く追ってきた。
これで壊滅しなかったら嘘である。
結局、動員された機動部隊の内、距離を置いていた空母とその直衛についていた一隻を除く水上六隻水中二隻の内、追撃が終わった時何とか浮いていたのは一隻のみ。後は全て海の藻屑となっていた。
当り前だが、王国海軍の面子は丸潰れになった。
しかし、世間は批判を浴びせる前に恐怖に慄いた。だって、海軍でさえどうにも出来ない野生動物が海に普通にいる、という事実は商船の船乗り達に二の足を踏ませるのに十分だったからだ。とはいえ、彼らも生きる為には食っていかねばならない。
かくして、沿岸航路をそろそろと進む事になった。
あっという間に大海原に船を出す遠距離航路の保険料も何もかも高騰。
経済はおろか、食生活にまで影響が出た所で一人、いや一体の竜王が動き出す事になるのだが……その前から、各国軍もまた動き出していた。
面子に拘る軍人も、真っ当に民間人を守らねばと考えた軍人も、予算などを考えて動いた軍人も全ては最終目的は同じだった。
すなわち、「せめて野生動物としての竜ぐらい倒せるようにならないと軍の立場がない」。
その中で発生したのが戦艦の復活だった。
竜の攻撃に耐えられるだけの装甲を持たせ、竜に打撃を与えれるだけの攻撃力を持たせるとなると必然的にそうなったとも言う。
更に、駆逐艦まで特化したものになっていった。
反面、割を食ったのが潜水艦だ。
現行の潜水艦では竜に襲われた時、対抗は不可能。
けれど、対抗可能なようにする手段が思いつかないとあっては自然と後回しにされていく。
反論しようにも、危険度を考えると下手に出撃させられないのは同意せざるをえない。
かくして、この世界の海軍は大型の戦艦と支援を行う空母、そして戦闘支援を行うべく進化を遂げた駆逐艦による編成へと姿を変えていく事になる。
という訳で、私達の世界の海軍と異なり、この世界は戦艦が再び主役に躍り出ました
……まあ、これでも一対一ではやばいというか勝てないレベルの野良竜が普通にいるのが怖いんですけど




