変わる世界ー昔語り1
氷君の過去話
氷の竜王は一応、ここにいる三体の中では二番目に生まれている。
だが、当人達ならぬ当竜達の感覚では末弟という感覚だった。
長兄がテンペスタなのは全員が納得している。だが、ルナがテンペスタ同様生まれた時から知性を持つ上位竜であったのに対して、氷の竜王は知恵を持たぬ下位竜だった。無論、この上位下位といった区別はあくまで人族が区別の為に勝手にそう呼んでいるだけで、竜達の感覚では別に上位だの下位だのといった区別はしていない。
何せ、竜王になればともかく、知性を得ただけの上位竜に対して、下位竜が勝利する、という事だってかつてもっと竜が多かった時代には普通に起きていた。
分かりやすいのはテンペスタ達だろう。いくら知性を持っていたとしても、生まれた直後のテンペスタやルナが成体の下位竜に勝てるかと言われたら「無茶言うな」となるのは誰だって分かる話だ。
それはさておき、氷の竜王が知性を得た時、ルナは既に竜王となっていた。
体は大きくとも、ようやっと考える事が可能なだけの知性を得た時点で、既にルナは大きな力を得ていた。その当時からルナは兄であるテンペスタと異なり、時折、北の大陸に生息する美味い獲物を狙ったついでに母竜の所に顔を出していた事もあって、よく会っていた。
知恵を得る機会も、その後ある程度落ち着くまで遊んでもらった事もあって「我が妹」などと冗談半分で言ってはいるが三体の中では内心、テンペスタ、ルナ、氷の竜王という順で兄弟姉妹の関係はほぼ固定されているといっていい。
……ちなみに他に兄弟姉妹を構成していた残り二体だが。
健在ではあるが、共にたまにテンペスタが現在のようになって一応場所を確認して干渉した事から上位竜とはなったものの、竜王となる気配はない。これは深海と地中深いマントルの中という刺激が極端に少ない場所に居を定めた為でテンペスタも「あの二体はこのまま終わるだろう」と判断している。
そんな氷の竜王にとっての思い出が雪玉だ。
ルナ曰く「雪だるま」といって、巨大な雪玉を転がして作り、慣れたら今度はそれを削って、色々なものを作り出した。
あの時、咄嗟に思い浮かんだのもそれがあったのかもしれない。
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先に述べた通り、下位と上位、人が呼ぶそれに力の大きさは関係ない。
だからこそ、下位竜であっても上位竜にとって危険な相手はいる。その時は正にそれだった。
ぎゅりいいいいいいいいん
そんな鳴き声を上げて、襲い掛かってくる相手の攻撃を必死になって回避する。
北大陸には単なる蜥蜴ではない、本物の竜が未だ生息している。それは人とは隔絶した世界だからこその営みであり、同時にだからこそ下位のまま一生を終える事も多い。人と接する事がないからこそ、彼らは知性というものの必要性を感じない。そこまでの知性を必要とする出来事がない。言葉を交わす機会がない。
と、同時に獣だからこそ、きちんと子を為し、血を残す。
しかし、中には極々稀にだが血を残さず、ひたすら自らが齢を重ねてゆくものもいて、それらは恐るべき脅威と化す。
理性も知性も持たず、ただ獲物を食らう事しか考えない生命。普通ならば老いてゆき、やがては死ぬという当然の摂理から外れた存在。……そう、知性や理性というものを持たないまま『竜王化』した怪物。
知性や理性を持たない竜が竜王と化そうとしても大抵は上手くいかず、体が崩壊して消えてゆく。なぜなら、自分がどういう形でありたいかを意識する事が出来ないからだ。ただ力が欲しいから、ただ生きたい、それだけでは普通は形を作る事は出来ない。
力をどんな形で得たいのか、生きたいとしてどんな形で生きたいのか、例えるなら知識を持たない人が適当に道具を寄せ集めて何となく、で何か作ろうとするようなものだ。その結果として、何か意味がある物が作り出せるとは思えない。
しかし、時には偶然が重なり、奇跡のような形で何か出来上がってしまう事がある。
無論、きちんと考えた上で構築された竜王とはまるで違う。それでも十分な強さがあるので、基本、正規の竜王によって処分されるのがオチなのだが……。
(母上は寝てるし、他の竜王も最早不在!)
母でもある竜王は現在では長期間に渡って眠りにつく事が増えた。
他の古の竜王達も似たり寄ったりで他大陸に援護を求めようにも、他はもっと少ない。
(あああああ、もう、昨今の竜王不足どうにかならんの!?てか、兄貴達なにやってんの!?)
竜王の数が減っている。
祖霊も確かに竜王の端くれではあるのだが……まず北大陸になんて来ない。なにせ、彼らは人の世界を楽しむ為に人型を選んだ。おまけに、本来は竜王になるには力不足な所を小型の体を選択する事で竜王の端くれとなったので、仮にも竜王となった個体相手にルナ以外の祖霊がここにいたとしても果たしてどれだけ戦えるかは分からない。
(いや、使えるなら誰でもいいんだけどね!祖霊なんてなってないでちゃんと竜王なれよ!!)
今現在、命の危機に晒されている身としてはそう思わざるをえない。
ぎゅり
ぎゅりいいいいいい
幸いなのはさほど遠距離攻撃を仕掛けてこない事か。
肉体で掴みかかってくる事が多いのはまだ助かる。それでも次第に追い詰められつつあった。
体調崩して、昨日は寝込んでました
最近は寒暖差が激しいね……




