変わる世界7
今回短め
「それで素直に認められたのですか」
「よろしいので?」
祖霊達はルナに確認を取った。
無論、下手に騒がれた時の面倒さを考えての事だ。だが。
「問題はないでしょう」
そう、問題はない。
もし、彼らが表の報道にでもこの話を流したとしよう。
それなら、こちらはそれ以上の勢いで流せばいいだけだ。そう、『世界最高記録更新!彼の正体は竜なのか!?』とか『カリスマ性溢れる次期大統領候補!竜だという噂は本当なのか、その真実を探る!』とでも大量のゴシップ記事を流してやればいい。ネットにも大量に噂で流せば更に完璧だ。
そうなればどうなるか?
決まっている、まともな頭を持った者はこう考えるだろう、『バカバカしい』、と。
少し優秀だとすぐ「竜だ!」と騒ぎ立てていれば、当然そう騒ぐ者は苦笑か冷笑を持って見られる事になるだろう。
そうなれば、しめたもの。最終的には単なる都市伝説、陰謀説の類として世間一般ではまともに相手すらされなくなるのは間違いない。
そう語れば出席者全員が頷いた。
「なるほど、そういう事であれば奴らが何を言おうと意味はない、と」
「そして、奴らはそうした相手がいる、という時点で動きづらくなる」
あの時、ルナが言ったのは簡単な事だ。
自分達の問いかけにどう答えるかと緊張する彼らに『そうですね、そういう存在はいるようです』『私がそうかは断言しませんが』と、ただそれだけだ。それだけで彼らはルナ達に手を出しづらい状況になる。いや、それどころか暗殺といった手段に出る事自体が困難になる。なにせ、もし、本当に相手が竜であったなら……そうだった時の報復を考えれば躊躇いを覚えるのは当然だ。
そして、もし手を出してきた時には……。
「わざと間違っていた時でも妨害して叩き潰すのも良いかもしれませんな」
「確かに」
疑心暗鬼をばらまけばばらまく程、裏社会は動きづらくなる。
無論、犯罪がなくなる事はないだろう。組織が機能不全を起こそうが、いや、そうした事になればなるほど経済的な余裕のない下っ端が勝手に動く事はよくある事だし、組織とは何も関係ない犯罪者というのも普通に存在している。しかし……。
組織の動きが鈍れば、その分大規模な国際犯罪を抑えやすくなると彼らは考えていた。
「とはいえ、一時的ではあるでしょうけどね」
上層部が動きが取れなくなった時、下が素直に命令を聞いて犯罪をやめるとは思えない。
それどころか新たな犯罪組織が誕生する可能性は高いだろう。
犯罪組織が衰え、新たな勢力との抗争の末、老舗が倒れるというのは珍しい話ではない。とはいえ……。
「いつもの事です」
「「「「「そうですね」」」」」
百年二百年。
あるいは更に時が過ぎれば、時には国すら消える。
世界は常に変わり続ける事を竜達はよく知っていた。
そして……。
「さて、私は少し北へ行ってきます」
「はて、北、とは?」
「母竜が自然へと還りかけているようなの。兄から最後に一度ぐらい挨拶に行こうとね」
「そうですか……」
ほとんどの竜は生まれた時には十分な知性がないものが多い。
祖霊達とてそれは同じで、後天的に上位の知恵ある竜となって今の姿になった。
と、なれば親がどんな姿で、どんな竜だったかなど知らない訳だ。ましてやその後何百年と離れていれば、ルナのように現在どこにいてどんな状態かを知っている方が珍しいと言える。無論、そこはテンペスタの存在が大きい訳だが。
また、一体の竜王が消えようとしていた。
どうにも筆が重い……
次回、北大陸




