変わる世界6
竜ではないか、その言葉に場が一瞬で緊張した。
(この反応は……)
周囲の者達に緊張はあっても驚愕はない。
……なるほど、先に警護の者達は部屋から出ている。彼らは今、部屋の外の安全と余計な人の目がない事を確認していて、この場にいるのはルナと裏組織の大物達だけ。警護の耳すらなくなる、このタイミングを狙っていたと考えるのが妥当だろう。
そして、この反応。
(薄々彼らは気づいていた?)
竜が人の世界に混じって暮らしているという事実に。
確証はなかったのかもしれないが、おかしい、と思うような事例は……。
(……あったわね、大量に)
自分も結構一時はやらかしたし、祖霊達も今でこそ大物となって隠れているが当然最初からそれだけの金や立場があった訳ではない。幾ら黄金なんかを大量に持ち込めたとしてもそれだけでは単なる成金だし、延々宝石だの黄金だのをどこからともなく持ち込む訳にもいかない。それでは何時かそうした市場自体の暴落を招く。
結果、彼らは最初の頃は普通に表で動いていた。
軌道に乗った後で、次第に自らは裏で指示を下す側に回り、表を部下に任せるようになっていったが、表で動いていた頃の事を完全に消せる訳ではない。
実際、そうと分からないよう誤魔化されてはいるが、偉人伝といった書籍だの歴史書だのに名が残ってしまった者もいる。
そうした事を瞬き一つすらせぬ一瞬の間に思い起こしたルナは平然とした様子で口を開いた。
「なぜ、そのような事を?」
「私達はずっと以前から疑問を抱いていたのです」
表や一般人ならば陰に隠れれば、マスメディアを抑えればそうそうばれはしない。
たまにゴシップ誌がそれらしく書き立てた所で数百年を生きる人がいる!なんてオカルト誌の類だ。竜という存在がいる事は理解していても、それを人と結びつける者はそうはいない。
しかし、裏社会だからこそ……。
「暗殺などに走る者はおりましてな……」
しかし、そのすべては失敗した。
問題はその時の状況と、その後だ。
中にはどう考えても「どうして死んでない!?」と状況を調べれば調べる程首を傾げざるをえない状況があった。例えば……。
例1
仕掛けられた爆弾によって高空から落下、墜落した航空機事故で何故か無傷で生きていた。
例2
極めて大規模な爆弾テロで結構大きなビル一つ丸ごと崩壊させたのに、その中から無傷で発見された。
例3
掘削中の坑道の視察時に大量の燃料を流し込み、放火。なぜかやっぱり無傷で生きていた。
これらの事件ではいずれも多数の犠牲者が出た。
そして、生存者が1名いた事はいずれも秘匿された。したがって、表では「生存者なし」として知られる事件でもある。当然と言えば当然の話で、生存者がいたとなると大騒ぎになる。どうやって生き残れたのか、とかどんな状況だったのかとマスメディアが群がるだけでなく、色々な噂が飛び交う事も避けられないだろう。
というか……。
「どう考えても人ではありえないとしか言いようがなくて……」
「人あらざる者が人の世界に住んでいるとなるとどうしても大騒ぎになる事も……」
この世界では人型をしていれば多少変わっていても人として受け入れられる。それこそ耳が尖っていようが、尻尾が生えていようが、鱗が生えていようが大体人の範疇に収まるサイズで話が出来るなら基本、人として扱われるし、誰も気にしないし、普通に結婚もする。実際、ここにいる顔ぶれの中にも直立した犬のような姿の者や、尖った耳とふさふさした尻尾の両方を持っている者だっている。
しかし……それらとは一線を引く、としか言えない存在に対してはどうだろうか?
はっきり言ってしまえば。
「結局の所、多少見た目が違おうが我々は撃たれたら死ぬし、混血が進んだ現在では寿命だって純粋のエルフの血を残そうなんぞと四苦八苦している極少数のバカ連中以外は大して変わらん。見た目が違っても竜なんじゃないかと疑ってる相手みたいに……爆弾の直撃を受けようが死なないし、何百年も変わらんまま生き続けるなんて真似は出来ん」
「ま、あれこれ言ってるけどよ、結局はアレだ。殺せるかどうか、って事なのさ、要はな」
「言い方はアレだが、どんな独裁者でも何時かは死ぬ。我々のような極悪な犯罪者でも殺す事は出来る。そうやって止める事が出来るが、果たしてそれすら通用しない相手が人の世界で暗躍した時果たして誰が止められるのか……そういう事さ」
ふむ、とルナは少し考えた。
「つまりあなた方が知りたいのは殺せる相手かどうか、と?」
「まさか!私達はね、触れてはいけない相手を知りたいだけなんだよ」
「まだ表の奴は経済や政治で対立する程度だろう。でもね、私達はそうはいかないんだよ。……間違いなく竜が人の姿になっていると私達は確信している」
「こんな仕事をヤメロ!なんて言うのは簡単だけどな。人が人である限り、俺らがいなくなっても別の奴がやるだけさ」
「まあ、そうじゃのう……とはいえ、わしらとて好き好んでどうにもならん相手とやりあいたくはないんじゃよ。報復を受けたと思われる相手は軒並み消えておる事を考えれば当然じゃが……その結果、裏の混乱もなかなか激しくての」
少し考えてルナは……。
さて、世界はどう「変わる」のでしょう?




