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竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
160/211

変わる世界5

 今、目の前には五人の男とその護衛達がいる。

 いずれも世間一般で犯罪組織とされるグループのトップかそれに近い男達で、一方私は企業複合体フェガリスキアの代表として出席している。

 もっとも正式には互いに名乗り合わない。お互い、相手が誰だと知らずにたまたま会った、という事になっている。表向きは。

 そんな私をジロジロと無遠慮な視線で見ていた一人、どこか荒々しい雰囲気を持つ中年男性がどこか疑わしそうな口調で言った。現在、麻薬王と呼ばれている組織のトップだったはず。今回の戦争でPTSDといった精神面で障害を受けた兵士なんかを相手に販路を拡充しかけていたはずだ。


 『で、おたくが代表かい?』

 「ええ」

 『……こう言っちゃ悪いがそうは見えんな』


 苦笑してみせる事でそれに対する答えとした。敢えて、それを咎めるとか問題にしたりはしない。固有名詞は出さない程度の分別はあるようだし。

 確かに見た目だけならば私はまだまだ若い小娘でしかないのも事実だからだ。


 「見た目で判断すると痛い目を見るかもしれませんよ?」

 『違いない!』


 おや、さすが組織のトップというべきか。

 こちらがちょっと挑発気味に言ってみたのに笑い飛ばしてみせた。……周囲の護衛達もいずれも反応なし、と。ボスの命令なしに勝手に動くような小物ではない、か。それはそうでしょうね、他の四人もいずれも世界に名だたる犯罪組織の、それも上の方にいる人間。そんな前で低レベルの護衛なんか連れてきたらろくな事にならないでしょう。

 ましてや、うちとの交渉の場に。


 『ふぇっふぇっふぇ、まあ、わしらにとって重要なのは上にきっちり情報が伝わるかどうかじゃからのう』


 フェガリスキア上層部にきちんと情報が伝わり、動きとして示してもらえる事。それが出来るなら代理人だろうが何だろうが構わん、という事を暗に匂わせている。

 こちらはマフィアのゴッドファーザーの一人だった、はず。うーん、食材に関する事とか、同じく美味しい物が大好きな人の事なら即覚えられるし、絶対忘れないのだけど。どうにも興味がわかないのよね、こういう世界の人達の事って。

 私達の性能的には同じように記憶する事が出来るはずだ。

 しかし、なんでもかんでも覚えて忘れられないというのは面倒だし、面白くない。

 そのせいだろうか、私もだが祖霊達も普通に忘れる。例外は兄だけだ。もっとも兄の場合は記憶とも少々違うらしく、当竜曰く「頭の中に検索機能がある感じだな」だそうだ。誰だったか、何だったか、そう思った瞬間に検索がかけられてそれに関する情報が割り出されるらしい。

 まあ、私にそんな機能というか能力はないし、興味もない。


 『その通りですな。さて、お互い暇でもありますまい。話を進めるとしませんかな?』


 今度はダンディな髭のおじさん。

 物腰も穏やかで、いかにも女性にもてそうだが実態は詐欺から暗殺まで何でもござれの犯罪組織の広報担当。マフィアがシシリアンやチャイニーズと言われるように大本が同じ出身を持つ者達の互助団体的な性質を持つとするなら、こちらは国際的。要は国際犯罪シンジケートの表の顔だ。そんなものに表の顔なんてものがいるのか、とも思うかもしれないが盗まれた品を金でいいから解決しようとする時や犯罪組織同士がバッティングした時の交渉なんかを担当してるらしい。

 後二人はそれぞれ北と南の死の商人(注1)の代表だ。

 

 「さて、こちらからの要望は簡単です。手を引いてほしい、これだけですね」

 『そうじゃろうのう。で、こっちの要望も簡単じゃの。要は損失を幾分でもいいから補填して欲しい、でよかったかの?』


 最後は他の四人への確認だ。

 それに対して他の四人は全員が頷いた。

 それぞれが「この戦争は長引くだろう」と予想して投資した結果、竜神&竜王という想定外の動きが起きたせいで彼らの計画は完全に失敗した。当然、莫大な損失が出ている。

 しかし、竜王や竜神には手出しができない以上、嫌がらせをしようとした。具体的には悪評を流したり、市民団体などを裏から煽ったりして竜に対するネガティブイメージを植え付けようとしている訳だが、現状では上手くいっているとは言い難い。

 確かに一部過激な市民団体の中には(竜に抗議する為に)中央大陸を目指そう!などというスローガンを上げている所もあるが、世間全体で見れば冷静な報道が続いているせいで盛り上がりに欠ける。

 その大きな要因を担っているのが聖竜教とフェガリスキアだ。聖竜教がそうした動きを防ごうとするのは教義からして当然なので裏社会の面々も諦めがつくが、フェガリスキアの動きは予想外だったのだろう。


 『こちらが要望の額じゃ』

 「失礼」


 金額が書いてあったけれど、これは……?


 「思っていたより少ないですね」


 というより、相当少ない。 

 そう呟くと、五人全員が苦笑を浮かべて顔を見合わせた。


 『当然じゃよ。本来竜やそちらに苦情を言うような話ではないからのう』

 『商売で思惑を外される事などよくある事だ』

 『そうだな、それで恨み言を言うなど単なる逆恨みだ。本音を言えば論外だ』


 なのに、今回わざわざ場を設けたという事は……。


 「一部強硬派をなだめる為に、金を毟ったという言い訳が欲しいという事ですか」

 『まあ、そんな所です』

 『無視も出来んでの』 


 組織が大きいとそういう勢力も無視はできないのだろう。

 こちらとしても最悪、そういう連中が不満を持って、独立されると面倒になる。大抵そういう連中は今ここにいる面々に比べて悪党としてのランクというか性質が悪い。早い話、チンピラ同様見境なくあっちにもこっちにも噛みつくせいで余計な騒動が起きる。  

 そして、厄介なのはそういう小物を集めて一定の発言権を確保する黒幕達だ。

 

 「分かりました。この程度なら問題ないでしょう」


 というか、私のポケットマネーで片が付きますね。


 『ありがたい』

 『こっちとしても面倒が一つ減るぜ』


 すんなりと話もまとまり、そうなればお互いに会っていた事が知られても良い事はないとさっさと撤収となって立ち上がった時だった。

 何の気なしに、といった風情で一人が口を開いた。


 『そういえば、あなたも竜なのか?』


注1:北と南の死の商人の代表

私達の世界風にいうなら東側と西側の、という感じになります。かつての帝国が北側の大陸に、王国が南側の大陸にそれぞれ移住して国を成立させ、対立しながら国力を増大させた結果、一般に北側勢力と南側勢力に分かれました

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