第十四話:予定外の災厄
腰痛めて落ち着いて書けない状態が続いて……整体行ってきました
「あー少しずれてるね」、腕のいい先生は凄いですね。すぱっと治りました
……何がずれてたかは聞かなかったけど
とりあえず復活したので短めながらまずはアップです
下方から無数の散弾が飛来する。
それだけならば問題はない。散弾と称したが、所詮石礫でしかないそれでは本来、鱗を貫く事など出来はしない。
だが、それに竜の力が篭っているとしたら話は別だ。
竜王の力によって編まれた魔法という形で放たれた一撃はテンペスタの鱗を貫くに十分な破壊力を有している。
(どうしてこうなった!?)
内心でそう思いながらも動きは止めない。
絶え間なく飛来する攻撃はテンペスタに動きを止める事を許さない。
反撃を抑え、迎撃のみに徹している為に追い込まれつつある事は理解している。反撃すれば、もう少しマシな状況となるであろう事も……だが。
(ここで反撃したら行き着くとこまで行くしかなくなる……!)
しかし、竜王の領域圏外へと逃げ出す訳にもいかない。
今の竜王は頭に血が上っているような状態だ。
彼女の領域の範囲内なら当人ならぬ当竜の責任範囲だし、通常は追ってこないが……我を忘れている現状ではそれも怪しい。
姿が見えていればまだ色々とやりようがあるのだが、現在は相手は大地に潜ってしまっている。属性のない場所に潜られた場合、探す事は出来ないがテンペスタは全属性を持つ竜だ。大地に潜ろうが探す事は出来る、出来るのだが……さすがに竜王級の相手の攻撃を回避しながらでは無理だ。
大体、少し前までは友好的な関係を築けていたのだ。
この地の竜王は穏やかな竜王であり、テンペスタもこの地に留まる気はなかった。あくまで母の地に向かう途上で別の竜王の気配を感じた事から立ち寄っただけの話。突然訪れたテンペスタに対しても警戒を示すでもなく、のんびりとくつろいだ姿勢を崩さなかった竜王はテンペスタの挨拶にもにこやかに応じてくれた。
二、三日の後、再び飛び立つ予定だったというのに……。
「なんでこんな目にあわにゃならんのだ!!」
思わず叫ぶテンペスタだった。
まあ、気持ちは分からないでもないが傍から見れば分からないと思うので少しその辺の事情を示すとしよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
父たる大嵐龍王の下での修行を終えたテンペスタはゆったりと空を舞っていた。
もし、テンペスタがキアラと暮らしていた屋敷に戻れば思っていた以上の時間が過ぎていた事を知っただろうが、もうテンペスタにあそこに戻る意思はなかった。テンペスタがあの王都にいたのはあくまでキアラがいたからこそ。生まれて間もない頃から常に傍にいた彼女がいればこそ、だった。
その彼女がいない今、あそこに戻る気はなかった。……何よりもキアラの事を思い出してしまうから。
恋人とかそういう関係ではなかったにせよ、間違いなく彼女はテンペスタにとっての親友であり、相棒だったのだ。
進路は北。
まずは父から教えられた母の暮らす場所に顔ぐらいは出すつもりだった。今の時点では特に何をする、という目的もないのだ。そんな寄り道をした所で構うまい、そう思っての事であった。
そんな旅だから、焦る事もなく進んで幾日か。
ある日、テンペスタは強い力を感じたのだった。
「……地の属性?それも結構強いな」
それ以外にもかなり強めの属性を感じる、こちらは水だろうか?
「………」
少し考え、何の気なしにテンペスタは飛ぶ方向を変更する。
感じる気配の強さからして、相手は片方は竜王級。どんな相手か興味を持ったのだ。
人が歩くならともかく、竜王が飛べばそこまでは然程時間もかからない。山あり森あり河ありの道なき道と、空を飛ぶのではそもそも比べようがないとも言うが、間もなくテンペスタは相手の気配が濃厚になってくるのを感知した。
「ここら辺か?」
テンペスタは翼を有してはいるが、翼で飛行している訳ではない。
その為、垂直にけれどゆっくりと大地へと着地した。地の属性の力から感じる気配は土の中。動きからして、既にこちらの気配を感知し、向かっていると判断し、静かに動かず待つ。ここで下手な動きをする事は相手に無駄に警戒感を抱かせる事になる。
とはいえ、然程待つ事もなく、相手が姿を現す。
……その姿は重厚なもの。
テンペスタの母の白く長い毛並みに包まれた優美な姿でもなく、父の長い蛇体のようなけれど威厳ある姿でもなく、無論テンペスタの赤みがかった結晶に包まれた姿とも異なる、けれどもそれもまた長く生きた存在のみが漂わせる威厳のようなものを感じさせる姿。
見た目的には岩の塊、というべきだろうか?
体表面に苔を思わせる緑色を這わせているが、これまで大地に潜っていたはずなのに体表のみならずそれにも破損や汚れが見られない所を見ると苔に似た何か別種のもの、おそらくは目の前の竜王の体組織の一部と判断した方が良いだろうが、テンペスタより尚巨大な全高三十メートルを超える、けれど長さ的には尻尾が短い為に十メートル余の直立した岩塊というべき姿の竜王だった。しかし……。
「このような地に竜王とは珍しいですね、何用です?」
その目は穏やかな色を湛え、声もまた柔らかい女性のものであった。
もちろん、こちらはテンペスタと異なりわざわざ人の言語を操る意味合いもない為だろう、彼女が喋っているのは竜の言語であり、もしこの声を人が聞いた所で竜の唸り声にしか聞こえなかっただろう。見た目と相まって、或いは突然現れた他の竜に警戒しているように見えたかもしれない。
けれども、テンペスタはもちろん勘違いしたりはしない。
「どうもはじめまして。母の住む地である北方へ赴く途上、別の竜王の気配を感じふと足を伸ばした次第です」
「ふむ、何かしらの思惑あっての事ではない、と?」
小首を傾げて確認するかのような問いにテンペスタも頷いて肯定を示す。
実際、竜王同士がこうして出くわす事は珍しい。
一旦、塒を決めた竜王が余り移動をしないというのもあるが、矢張り最大の理由は竜王の数自体が世界の広大さに比べて圧倒的に少ない、というのが原因だろう。
「少ししたら、また北方へと向かうつもりです」
「ふむ、この地で騒ぎを起こすつもりがないのならば構わない、ゆっくりしていきなさい」
ズズ、と僅かな音と振動と共に大地の竜王は再び地の中へと姿を消した。
実際にはその場から殆ど動いていない事をテンペスタは察してはいた。幾らこちらが素直に答えたからといって馬鹿正直に「はいそうですか」と納得した訳ではない、という事だろう。それは当然だとテンペスタ自身も思う。
というより……この程度なら可愛いものだ。
人の間で暮らしていた頃、人族の謀略は難解で複雑なものが幾つもあった。
テンペスタ自身からすれば然程でもなかったが、それは彼が竜であったからだという事ぐらいは理解している。
上位竜であったからこそ、普通なら死地となるであろう状況でも粉砕して突破する事が出来、その立場故に毒殺などが図られる事もなかった。誰だって、王都を守る要であり、王国の重要戦力と看做されていた相手を直接どうこうしようという腹はなかった訳だ。敵対国なら可能性はあったかもしれないが、下手に手を出して怒らせた場合何が起きるか分からない、という部分もあった。
けれども、それは知らない、理解出来ないという事ではない。
長年王都にいれば、ましてやキアラが貴族に祭り上げられてからはそういう事を知る機会も増えた。
二度程、キアラが暗殺の危機に晒され、その内一度は仕組んだ貴族丸ごとテンペスタが襲撃を掛けて跡形もなく抹殺した事があったぐらいだ。余り良い手ではなかったが、その時はギリギリの事態であり、僅かな躊躇も許されなかった。結果として証拠諸共全て焼滅する事になったが……それは逆に言えば誰が行ったかの証人も全て消えたという事でもあった。
その結果として、国からの、それに連なる貴族達からの追及はなかった。
手を出したのは向こうが先、という事実が立ちはだかる原因であれば彼らは無視しただろうが、改めて竜という存在の脅威を認識した、とあってはそうもいかない。と、同時に王国としてはその戦力の巨大さとそれを敵に回す危険さを理解し、あっさりと貴族を抑える側に回った。まあ、それでも、キアラが亡くなる前にはその当時を知らない馬鹿貴族の子弟が馬鹿な事を言ってきた訳だが……強引な手段が、圧倒的というも愚かしい力こそが彼らをキアラの死までその後大人しくさせる原因となった事は確かだ。
それに比べれば、大地の竜王の姿は隠したけれど、変な事をしないように見張っている、という程度の行動は可愛いものだ。
(それに変な行動を取る気もないしな……)
そう考え、テンペスタは再び空へと浮かび上がる。
彼はここで騒動を起こす気はない。ここに立ち寄ったのはあくまで、本当に気紛れにすぎないからだ。
休息すら実は必要ない。しかし……。
(この辺りの風景って珍しいな)
王国内で活動していたテンペスタにとっては山岳地帯であるこの近辺の風景はなかなかに興味をそそられるものだった。
大地の奥で竜王が後をついてきているのを感じてはいるが、すぐに気にするのをやめた。
連合王国はその立地の主だった部分を平地と森が占めている。
一方、この近辺は山岳地帯であり、雄大な渓谷が存在する。
低空で、そうした谷間を超低速でゆっくりと飛行しながら風景を楽しむ。
豊かな自然に支えられた動物達も数多く目にする。そうした動物達は竜の存在に一瞬目を向けるものの、逃げるものはおらず、すぐに食事なりに戻る。別に侮っている訳ではない。野生動物というものは獲物を襲うのはあくまで腹を満たす為。満腹ならば肉食獣とて草食獣を襲ったりはしない。
そして、長年この地で暮らす動物達は竜という存在が自分達を狙って襲って来るような相手ではない事を熟知していた。
無論、怒らせたりすれば、下手なちょっかいをかければ一瞬で叩き潰される事も理解しているから無闇と近寄ったりもしてこないが、空を悠然と飛んでいる竜を見て泡を食って逃げ出したりするものはいなかった。ここら辺、野生動物達は同じ竜でも自分達を襲って来る属性なしの竜と、自分達を襲ってこない属性持ちの竜とをきちんと認識し、区別している。
のんびりと光景を楽しむテンペスタであったが、やがて最初に感知したもう一つの属性を持つ相手の気配が近づいている事に気がついた。いや、正確に言うならばテンペスタの方が近づいている訳だが……。
「こっちは水か」
そのまま進路を変更。
遠くに相当巨大な湖が見えたが、気配自体はそちらとは異なる位置から放たれている。
何故かと一瞬思いもしたが……よくよく調べてみれば(視界では水平線の彼方となる為見えない)、湖の対岸にはどうやら人族のかなりの大きさの都市が存在し、湖にも漁師の船が出ているようだった。不用意な接触を避ける為か、それとも騒々しいと感じているのか分からないが、どうやら気配はその湖へと流れ込むそれなりの大きさの河、長い年限をかけて渓谷を削ったその流れの途上に存在する結構な大きさの滝近辺から感じられるようだった。
滝自体はかなりの大きさで……。
(これなら竜や龍の一体ぐらい問題ないか)
正に大瀑布というに相応しい景観は一見の価値がある光景だった。
もっとも、人からすれば湖側から至るにしても竜がいると分かっている場所へ、しかも小さな滝を幾つも越えて人跡未踏の地へと踏み込んでこねばならない。湖も広大であり、敢えて危険を冒してここまで来ずとも漁をするには問題はない。
そうした事もあり、人がこの雄大な光景を目にするのはまだまだ先の話だろう。
今はテンペスタがゆったり独占して見れる、という事で悠然と水面へと舞い降りる。
僅かな波紋すら起こさず、水面へと降り立ったテンペスタはまず迫力ある大瀑布を至近で見物する。……人が小船でその距離まで近づけば、間違いなくひっくり返るであろう程の至近距離。落差で五十メートル余の大瀑布をこの距離で眺められるのは水の属性を持つ竜の特権とも言える。
しばし、眺めていると近づく気配を感じた。
水中から感じる気配は幼く……こちらを伺う姿も明らかに気付かれている事に気づいていない。
そう、その仕草はまるで猫か犬がおそるおそるこちらを伺っているようなそんな雰囲気があった。
敢えて気付かない振りをして水面に立っていれば、段々と水中から距離を詰めてくるのが分かった。その気配も先程までの大地の竜王と異なり、気配は駄々漏れ、テンペスタからすれば足音を立てて近づいてきているようなものだった。
苦笑しつつ、すぐ傍まで来た時やっと気がついた、といった様子を装ってそちらへと視線を向ける。
びくり、と怯えた様子を見せるその相手は美しい相手だった。
まるで透き通った水そのものを固めたような蒼い姿を持つ龍であり、けれども未だ知性を持たぬ下位龍である事も確かだった。
一瞬、びくり、としたが逃げる事はなく、じっとこちらを見詰めてきている。
なんで龍がここまで怯えているんだ?と思わないでもなかったが……よくよく考えてみれば、属性龍である以上、食物として何かを襲う必要もなく、飢える不安もない。
襲撃をかける可能性はと思ったが、わざわざ属性龍を襲うような相手がそうそういるはずもない。
同じ属性竜ならばそもそも襲う必要がなく、属性がない竜なら幾ら子供といってもよほど長く生きた個体でもない限り返り討ち。無論、普通の動物でも同じ事だ。
まあ、最大の原因は属性竜が他者を襲わないからというのが大きいにせよ、大地の竜王の支配地でも特にいじめられたりも何もなく生きてきたのだろう。水と地という両者の属性がまったく異なる属性であった事も良い方向に働いたのかもしれない。
結果として、水の属性龍が怯えている原因とは……。
(自分の縄張りに知らない相手がいるから警戒してるだけか)
それでも好奇心に駆られて、ちょこちょこと姿を見せては近づいてくる。
実に可愛い。
やがて、テンペスタがじっとしていたのが功を奏したのか……すぐ傍に姿を現した。
つぶらな瞳は相手を疑う様子もなく……実に素直な目を向けてきている。
何となくそっと撫でてやる。
まあ、人相手、通常の動物相手では元の手が手だからそっと、と言っても限界があるのだが、同じ竜ならば問題はない。事実、心地良さげに目を細めている。
かまって!かまって!
そんな声が聞こえてきそうな程になつかれ、何十年ぶりかの弟相手のような感覚でテンペスタも相手をする。
まだまだ数メートル程度のサイズの相手は時折、テンペスタの背中を這い上がり、また駆け下りる。
子供故に全力で遊び、そして全力で遊ぶゆえに……。
「ほら、もう戻って寝なさい」
「きゅ~……」
まだ遊びたいのにー。
そんな雰囲気ではあるが、ふとすればこっくりこっくりと船を漕ぎ、一瞬意識が飛んでいたりしている。
そんな幼子の様子に苦笑しながら促すと、名残惜しげにそれでもするり、と水中へと戻っていった。
ふらふらと動く様子を確認していたが、間もなくどうやら無事に寝床に戻って潜り込んだと見て、テンペスタも踵を返した。
水上から地上へと戻ったテンペスタだったが、そこで妙な気配に気付く。
「うん?」
大地の竜王、その気配が彼を引き寄せている。
いや、これはテンペスタを呼んでいるのだろうか?
はて、何かあったのだろうか、そう疑念を抱きつつもテンペスタは向かった。何か困った事があるなら手伝うぐらいは……そう考えての事だったが……。
「……楽しそうでしたね」
テンペスタが到着してすぐ、そう呟いた大地の竜王。
その姿を見た瞬間、テンペスタの背に言い知れぬ悪寒が走った。
恐怖などとは違う、脅威ともまた違う。
何とも言えない冷たさが走りながら、テンペスタは……。
「何をでしょうか……」
そう恐る恐る呟くように尋ねる。
「……楽しそうに遊んでましたね」
「……あの水龍の子供ですか?」
もしかして、大地の竜王の子供だったのだろうか?
だが、それにしてもおかしい。
脅した、危害を加えたというなら分かるが、テンペスタはただじゃれつかれたので、遊んでやっていただけの事。いじめたり、怪我をさせたりはさせていないし、水龍も存分に楽しんで帰って行ったはずだ……そんな風に考えていたテンペスタだったが……。
直後、それが間違いであったと悟ると同時に、面倒な災厄に唐突に突っ込む事になったのだった……。
腰のお陰で寝付けなかったのも、睡眠薬飲んで思い切り寝て、体調復活です
また改めて書いていきますので、改めてよろしくお願いします




