変わる世界3
「よし、分かったこうしよう」
すぐに復活させる訳にはいかない。
それには時間を巻き戻すぐらいしか方法がない。そうなると今度は死者の蘇生も絡んでくるので因果も操作する必要が出てくる。なまじ高名な生物学者や将来有望な学者の卵達が複数混じっていたせいで、蘇生した場合の将来的な影響が無視出来ない歪みを生じるからだ。
「だから、そうだな、二、三百年ほどかけて同じものを復活させると約束しよう」
地形や気象をちょこちょこ弄り、その上で生物は過去へと一時的な時空の穴を繋げてそこから移住させる。
無論、その地に残る放射能は抹消する。
後は破壊された土地の開発を防ぎさえすれば問題ないだろう。それはルナ達の仕事となる。
「二、三百年?それぐらいで何とかしてくれるの?」
「ああ、約束する」
……とりあえず、それを行う専門の分体を作っておけばいいだろう。
竜王級のを作って居座らせておけば、手を出す奴もいなくなるはずだ。
我々竜、それも竜王級ならばたかだか数百年程度の時間などたいした事ではない。案の定ルナも「それなら」と受け入れてくれた。
「さて、それじゃあ手早く戦争を終わらせましょう!」
「……それはやるんだな」
一応内容を確認してみれば、大分穏健な形での終結案を言ってくれた。
……当初は片端から双方の戦力や基地、上層部連中を塵にしてやる!とか口にしてたからなあ。
とはいえ、いい加減竜王に実質的な後始末を押し付けるような真似をさせないようにしないといけないのは確かだった。
「それじゃあ精神的に壊れる事がないようにしておいてね!」
「分かった」
さて、ではお仕置きを開始するか。
――――――――――
【未来におけるとあるドキュメンタリー番組】
この戦争は「竜王の介入によって終結した最初の事例」として記録されています。
竜王の飛来の後、一転して戦争に積極的だった政府閣僚、軍人、官僚や財界人など全員が即座に戦争終結に一斉に動き出した事から、何等かの竜王による脅しが行われたのではないか、とする説が有力です。それを怖れた彼らは自らの不利益などを無視して協力して戦争終結に動き出しました。
これによって当時の両国においては戦争推進派が崩壊した事から一気に終戦へと動く事になります。
民間人のグループにはこうした戦争終結の動きに反対するものもあったようですが、政治家や官庁、マスコミ、企業といった権力と金を持つ集団が一斉に動いた為、こうした動きは顧みられる事はありませんでした。
では、この時一体、彼らに何があったのでしょうか?
公式記録において竜王の飛来前後で死亡したとされる人物はいないとされています。事実、私たちが今回の放送の為に調査を行った結果、死亡したとされる人物は確認されておりません。
また、この時に彼らが一斉に動いている事から仕事に支障をきたすレベルの怪我を肉体面に負った、という可能性も低いでしょう。
私達はこの時の当事者の方々に話を伺いましたが、この時の推進派から戦争終結派へと転じた方々はほとんどが「思い出したくない」と取材を拒否されました。その中でもごく一部の方が取材を受けていただけたのですが、この時何が起きたのか、という事になると突然言動が意味不明になる方ばかりでした。
数少ない何とか意味が聞き取れた範囲の声が以下のものです。
『炙り焼きは、炙り焼きはもう勘弁してください!』
『いっそ死なせて』
『もえろーよーもえろーよー。ほんともえて!!』
『私は古えの偉大なる戦いを見た!!あ、お願い、見るだけでいいんです、いやほんとに』
『走れ!死ぬぞ!!』(突然取材陣の首根っこを掴んで車椅子から立ち上がって走り出す。なお、当人はこの取材時90歳を超え、長年の闘病生活で痩せ細っていた)
前者が黄金の竜王、後者が竜神と呼ばれる存在によって何等かの攻撃を受けたとされる方の声です。
間違いなく彼らは恐ろしい体験をしたのでしょう。
竜神に私達は問いたい、彼らに一体何をしたのか。
これは神を名乗るただの獣のやる事ではないかと私達は問いたいのです。
(なお放送後、聖竜教会からの激烈な抗議と、多数の政界財界人からの抗議声明によってこの番組自体が間もなく終了)
何をしたのかって?
ルナはきちんと怪我したら再生してあげながら調理活動(具材側)の体験をさせたり、テンペスタはかつての竜狩人の時代へと送り込んで竜を討伐するツアーを体験(手伝いなし)させてあげただけです




