ある宇宙の一角で12
そろそろ免許更新の時期という事で証明写真機で写真撮ってきました
……写真屋さんじゃないと何というか、肩が傾いてる、目つき悪いとなんか納得いかない出来ですが、撮りなおすにしてもお金かかるしなあ……
それから後は早かった。
無論、最初は誰もが唖然とした。単なる亜人と思っていたら、突如として巨大な竜となったのだから当然と言えよう。
ちなみにこの星、魔物の類は存在していたが竜に相当する魔物はいなかった。というより、空を飛ぶ大型の魔物自体がほとんどいなかったとも言う。
もっとも、もしいたとしても魔物と見間違う事はなかっただろう。本来の姿の一環を明らかにしたテンペスタは自然と頭を垂れたくなるような気配に満ち溢れており、それは見た瞬間に恐怖を感じるとされる魔物とはまるで異なるものだったからだ。
事実、この後王都まで一瞬に運ばれた訳だが、その姿を見た王都の住人は三大国の大使達でさえ頭を上げる事が出来なかったという。
調子に乗ったテンペスタは怖い。
あっさりと反乱を鎮めてしまったというか、全ての貴族達を国の上空に瞬間転移で兵士ごとまとめて持ち上げてちょっと重々しい口調で意訳すれば『新王と、前王の子供達和解したからオマエラも和解してくれ、するよね?しろ!』と威圧込めて告げただけだ。
もちろん、全員が即座に了承した。
兵士達までが全員声を揃えて「はい!!」と一斉に答えた事からもその度合いが薄々察する事が出来るだろう。
結局、その後は兵士達は元居た場所へ、貴族達は和解の宴に参加するようにと告げて、王都へと戻し、ちょっとオマケとばかりに第二王女へと祝福を与えた後、姿を消した。
その後、第二王女は無事嫁ぎ、新王の改革に大きな反抗を見せる貴族も出る事なく国は更に富んだという。
―――――――――――
……さて。
テンペスタ自身が直接関与した事はこれで終わる訳だが。
テンペスタは「久しぶりに会えて嬉しかったな」と気分良く立ち去ったにせよ、これで終わる訳がない。
テンペスタが王女に祝福を与えたのは、こうした時代、赤子の出産は命がけな事とか、王家や貴族の場合は子供、特に跡取りとなる男子の出産は妻となった女性にとっても大きな意味を持つ事を知っていたからこそのサービスとしてだった訳だが……。
まず、問題だったのはテンペスタはこうした祝福を現在のような状況になってから与えた事はなかった。
それで「足りないよりはいいだろう」とほんのちょっと多め(当竜感覚で)与えた訳だが……。
多すぎた。
念の為に言うが、テンペスタに悪気があった訳でも、それで嫁いだ第二王女が不幸になった訳でもない。
祝福を受けた彼女は嫁いで一年経たない内に子を授かり、元気な男の子を出産している。
問題があったのは生まれた子供の方だった。とはいえ、何かしら肉体面に異常があった訳ではない。ただ、通常の人より大幅に優れた、ある種の超人だった、というだけだった。
本来ならば、次期皇帝の弟にそのような圧倒的に優れた息子が生まれた、という事になれば大きな問題が生じるであろう事は容易に想像がつくだろう。いくら弟が皇帝の位に興味を示さなかったとしても、周囲は黙ってはいない。
皇帝の息子よりも明らかに優れた知性と肉体を持ち、武勇にも優れた男子。
しかも、それが先帝の直系の子となれば猶更だ。
だが、問題は起きなかった。原因は簡単で、先帝が次男の婚姻が決まって安心したのか結婚後間もなく病気で体調を崩し、急死。皇太子が即位した後、新帝がお披露目を兼ねて各地を御幸している最中に事故が起きたからだ。事故自体は普段は安全な場所で小さな魔獣の群れに遭遇、この群れはその数日前に少々離れた地域で激しい雷雨があり、これで生息地が大きな打撃を受けた為に移動中だった。
この群れは慣れていない場所への移動中だった為にやや飢え気味で、結果として本来なら獲物としては襲わないであろう厳重な警備の為された馬車を襲撃した。この結果、小さな魔獣であった事と群れ相手であった事から一匹が警備をすり抜け、馬車の馬の脚に食らいつき、驚いた馬が暴走。懸命に御者が制御しようとするものの噛みつかれたままの馬は収まらず、最終的にその暴走は馬車が大破するまで続いた。
この結果、皇妃は死亡。新帝は何とか一命をとりとめたものの寝たきり状態に陥る。
こうなっては新たに子を作るどころではなく、この事故があって間もなく生まれた弟の第一子を養子として迎え、皇太子に据えた。
つまり、第二王女の子が極めて優れた能力を発揮し始めた時、彼は次期皇帝を約束された皇太子であり、人格的にも問題はなかった。義父である皇帝、本来の両親である皇弟夫妻(当初は公爵となるはずだったが、その前に新帝の事故があった為臣籍降下が見送られ、帝室に留まった)双方に敬意を払い、気さくな性格であった事から民衆にも人気があったという。
実際、お忍びで帝都に出た際に子供が彼のズボンを汚してしまった事があったが、笑って頭を撫でて、軽い注意だけして立ち去ったという記録もある。
おまけにカリスマ性にも満ち溢れていたようで、貴族達からも自然と敬意を払われる存在だったという。
そんな彼が皇帝に即位して間もなくの事。
国境での軽い衝突で三大国の内二つに限定的な紛争が発生……になるはずだった。
フットワークの軽い彼が最初の衝突後に自ら現地に赴き、そこで最初の衝突で敗北を喫した隣国側の貴族が名誉挽回とばかりに相手国の皇帝が来ている事を知らないままに突入したりしなければ。
この時はかなり危険な状況で、皇帝自ら剣や槍を振るって奮戦した。その一騎当千の暴れっぷりによって、敵があまりの損害に一時退いた時に「さあ、諸君、今の内にさっさと逃げるぞ!!」と声をかけて、怪我で動けない騎士や兵士三人を担ぎ上げて脱出に成功している。
さて、こうなると皇帝の命が危機に晒された側は黙っていなかった。
当然、当初より厳しい要求が隣国に対して為されるも同程度の大国を自負していた隣国はこれを拒否。
激しいやり取りの末、ついに両国は開戦した。
しかし、ここで有能極まりない皇帝が生きているが寝たきりの為に実質皇太子の頃から統治を行っていた国と、歴史こそ隣国より長いものの腐敗が進み、貴族の統制が緩んでいた国では既に見た目は同じような大国でも実際の国力では大きな差が生じていた。
結果、敬愛されている皇帝が危機に晒された事で奮起した帝国は勝利を重ね続け、一方相手国はそうなって尚、敗北の責任を巡って国内で争い、王は後宮に籠って出てこなかったという。
この王に関しては王都が遂に帝国軍によって包囲された時、ほとんどの者が逃げ出したが忠義者の役人が一人王へと報告を行った際の逸話が残っている。
「陛下、王都が帝国によって包囲されております」
「そうか、近衛に敵を追い払うよう命じよ」
「陛下、既に近衛も貴族も王都から逃げ出しております。陛下の下には最早一兵すらおりません」
「そのような報告、余は聞きたくない」
真偽は明らかになっていないが、一つだけ確かな事は帝国はこの勝利と征服、更にその後の隣国の立て直しによって一気に三大国の一角から唯一の強大国となった。
残る元三大国の一角はこれに恐怖して、周辺の中小国と同盟を結び、帝国との対立姿勢を示したが、これが仇となった。何せ、周囲を同盟国だらけにしてしまった為に国家の拡大が不可能になってしまったのである。一方帝国はと言えば皇帝自身は良い人物であったがそれは他国にとっても良い友人になれるという事を示さない。
安定した強大な力をバックに次々と周辺の小国を征服していった。
なお、第二王女の母国は当時は既に第二王子が即位していたが、この王子にも祝福の欠片があったのかもしれない。
情報収集に力を入れていた彼は帝国が最初の戦争を開始した時から「甥を助けたい」という名目を盾に最初期から帝国に協力。隣国制圧後、圧倒的大国となった帝国に第二王女の伝手を用いてさっさと帝国配下へと鞍替えを果たす。以後、帝国皇帝の叔父として大公の地位を与えられるが出しゃばらない姿勢は帝国貴族らからも好意的に受け入れられ、彼の生前は自治領として、死後は正式に帝国貴族の一員としてかつての王国領を領地とした公爵位を与えられている。
話を戻すが、こうした行動の結果、帝国は更に強大になり、かつての三大国はそれを見ているしかなかった。
しかも、こうなってくると同盟を結んだ中小国にも動揺が走る。
最終的に同盟から抜けて、帝国につこうとした国に対して同盟は裏切り者として侵攻を開始、これに攻め込まれた国は最早これまでと帝国に従属する事を申し出る。
これ自体は帝国自体も困惑したのだが、この発表を受けて、同盟側は「既に帝国との密約が成立していた!」「こうなったらやられる前にやれ!」と帝国に対して奇襲を目論む。
だが、これもまた同盟の小国の一つが裏切りの手土産として帝国に密かに伝えた事から逆撃を受けて、大敗。
最終的にこちらは前の戦争より長引いたものの、既に圧倒的国力を有していた帝国に敗北。
かくして、第二王女の子は「初めて大陸を統一した大帝」として歴史に名を遺す事になる。
なお、これにテンペスタの祝福がどの程度影響したかは不明である。
不明ではあるのだが、帝国では皇帝が「母を救った神の化身」として母や当時の近衛らから話を聞き取って、神竜像を製作させ信仰していた事から、次第にそれが広まり最終的には神竜教と呼ばれる竜を神の似姿とする宗教が大陸全土に広まる事になったのは間違いない歴史の事実である。
駆け足のように思われるかもしれませんが、テンペスタ(分身)が姿を現した以上、もう相手にはどうにもならんのですよね
で、最後の一節に関しては皇帝が「母を助けてくれた」事で感謝を捧げていた事、「多数が目撃し、奇跡を体験した」といった事から当時の帝国最大の宗教側が皇帝の関心を引く為に「神の降臨された姿である!」と主張した結果、次第にそれまでの人型の神像から竜の像に変わっていき、最後は完全に竜に乗っ取られたみたいな形になってしまいました




