ある宇宙の一角で8
本日の遅刻原因
完成
→投稿しようとしたら「なろう」メンテ中
→出かける予定の15時まで待ってみるが、無情のメンテ延長
→やむをえず出かけて、帰宅なう
なぜだ?
なぜ、なぜ、なぜ、なぜ……!
「なぜだーっ!!」
「うるさい」
ゴン!と。
猛烈な痛みが頭に走った。
しかし、気絶する程ではない。その程度の力の強弱が出来ないとも思えないから、手加減したのだろうと新王は考える。
簀巻きにされて、蜥蜴の亜人に担がれた状態で。
彼は兄が好きだった。
兄も彼が好きだった。
かつて幼い頃、二人で考えた。この国を変えるのだと、二人でもっと発展させるのだと。
しかし、やがて兄が長じるに連れて、自分の言葉に賛同しなくなった。代わりにどこか寂しげな笑みを浮かべて、私の頭をただ撫でるだけになった。そんな兄の姿が嫌で、嫌いで、兄が次の王として忙しくなるにつれて、それを口実に距離を置いた。
夢を忘れた兄に憤り。
何時しか、私の周りには兄に対して反発する、いや、兄の取り巻きに入れなかった者達が利を求めて群がるようになった。
兄に対する憤懣を少しばかり言い方を変えて口にすれば、奴らはますます私に取り入ろうとするようになった。
そんな私を危険視する者が現れるのは当然で、彼らが兄に忠告を装っての排除を目論むのはまた当然で……そんな彼らの行動を危険視した兄は私を公爵に任じて、領地を与えた。このまま私を王都に置いておくのは危険だと判断したのだろう。忠義を装って、私を消す者が現れかねないと懸念したのだろう。
そうして、王都から追い出された、と思っていた当時の私は怒りを領地経営に向けた。
ただし、私はだからといって暴君に、領民を虐げるような領主にはなりたくなかった。
夢を忘れた兄に、未だ私は夢を忘れてはいない、夢は叶うのだと突きつけたくて、懸命に領主としての勉強を積み、良き領主とならんと努力した。
最初は失敗もした。
自分勝手に領地を動かそうとして、経験不足で失敗し、そこから周囲の経験者達の話を聞くようになった。
次第に、より豊かな領地となり、私は素晴らしい領主様だと称えられるようになった。
だが。
私自身は空虚な思いを抱えるようになっていった。
領地というものは広大であればあるほど、私一人で回せるようなものではない。それを私は学び、責任者を作って、それを監視する構造を作り、私一人に全責任がかかって、組織が円滑に回らなくならないようなシステムを構築していった。
そして、それが順調に完成していくに連れて、私にしか出来ない事はなくなっていった。
やがて、自分なりに完成だと思えた時、こうも順調に組織が完成していった理由を悟った。それはこの国の、王を頂点としてシステムの縮小でしかないという事実に。既に、同じものはこの国で出来上がっていた。だからこそ、それを真似る形になった私の組織はこうも順調に構築出来た。
それに気づいて、国を見回した時、兄のあの表情の意味が理解出来た。
この国はどうしようもなく、完成して、終わっていた。
周囲の三ヶ国は我が国より遥かに強大で、攻め込むなど出来るはずもなく。かといって、我が国の振興を行おうにも自分の頭でぱっと思いつくような事はとっくにされていた。
国土は開発の手が隅々まで行き渡り、清貧な者は眉をしかめるかもしれないが、賭博や娼館といった施設も充実していた。
……王領は。
私に与えられた領地がそうであったように、貴族支配下の土地にはまだ改革の余地が多分にあった。
比較的改革の余地が少ない貴族の領地もあったが、それは極一部。王領へと繋がり、三ヶ国への街道沿いの貴族でさえピンキリと言い切れる程の差があった。
例えば、隣接する街道沿いの伯爵領同士、片方は大いに賑わい、片方は貧しかった。片方は商人の取引も多く、税も安い。片方は寂れ、税は高かった。私が見る所、それは当然の話で前者はその土地を治める伯爵がきちんと長年に渡って街道沿いの整備を進め、宿泊施設も高級宿から素泊まりの安い宿まで取り揃え、馬車の預かり場所も格安で用意していた。
そうやって、人の訪れが多く、落ちる金も多いから税も安く出来る。
一方、後者の伯爵領は整備を怠ったのだろう。
まともに信頼出来る宿もろくになく、領民も貧しいまま。結果として商売にならないと商人はさっさと通り過ぎるから商売を行った利益に対してかけられる税はどうしても少なくなる。かといって、通行税なんかを取ろうものなら国法によって罰せられて、即効伯爵の地位まで没収。
結果、贅沢をしたいなら領民へかける税を重くするしかなく、それが更に領民の購買能力を下げて商人にとっての魅力を下げるという悪循環。
そして、どちらが王家の側につき、どちらが私の側につこうとするかなど分かり切っているだろう。上手くいってる奴は今のままで良いと考えるに決まっている。
だから私は……反乱を企てた。
兄が気づいて、私を周囲に集まった連中ごと処刑するほど思いきれるならそれもまた良し。
どうせ私の周囲に集まって来る連中など自領の開発を怠って、時代に取り残された者ばかりだ。
無論、極僅かながら真っ当な貴族もいたし、そうした貴族は私の行動に不審を抱き、警告してきたが、「これは」と見込んだ相手には真意を告げて、敢えて距離を取るように伝えた。それを知った上で私についてきてくれた貴族もいる。
結果から言えば、兄は結局、私の行動に気づかず、討たれた。
最期の時に私の真意を伝えれば、どこか寂しそうに笑って、「すまない」とだけ言い残して逝った。
あれはどういう意味で言ったのか……。
そうして、反乱を起こした内役立たず連中には連中が妬んでいた貴族達を攻撃させた。成功すればその貴族の所領は最も功績を上げた者に与えよう、ただし、略奪などした場合は減点だ、と伝えて。略奪禁止には多少不満もあったようだが、「略奪した者達が住む土地を統治する気かね?大体、略奪などすれば旨味の消えた土地になるが、そこを治めたいのかね?」、そう言ってやれば落ち着いた。そうだろうな、誰だって略奪して荒れた領地を治めたり、内心で不満を抱いて誰が暗殺者になるか分からないような土地を治めるよりは旨味の大きいままの領地を統治したい。
その上で、攻められる先の貴族には密かに情報を流した。
結果、奇襲を受けた貴族はおらず、膠着状態に陥っている。最終的には……。
などと色々と考えていたのだがな。
たった一人の亜人の為に、全ては崩れ去った。
真正面から大門を粉砕されて、乗りこまれ、奮戦する部下達の抵抗を打ち破って、私を捕らえた。
私の計画、その全ては無に帰したと言っていいだろう。
兄を殺してまで立てた計画が全て崩れ去った事に私は絶望していた。
(こんな野蛮な亜人に私は喰われて終わるのか……)
新王は問答無用で簀巻きにして運んでるので、王女からの依頼とかそういう事を新王は知りません




