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竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
150/211

ある宇宙の一角で7

 警告となる門番の笛の音が響き渡った事によって即座に新王の兵士達は動き出した。

 別段彼らは反乱に積極的に加担した訳ではない。ただし、それなりの忠誠心はあった。

 実の所、新王は自分の領地では至極真っ当というか、むしろ良い部類の領主だった。各国との力関係その他諸々など国政や外交に関わる者達からは眉を顰められていた新王だったが、領地運営に関しては決して無能ではなかった。

 無論、理由はあって、一つは圧政なんか敷いていれば自分についてくる兵士など期待出来なかったという点がある。

 次に自分なりの正義というか道理を貫く事が最優先で、贅沢などには興味がなかった事もある。まあ、その分、貴族として必要な贅沢にも関心が薄かった訳だが……自分の贅沢に使う分を兵士の訓練や領地を富ませる事に用いていた。

 結果として、贅沢を好まず多少裕福な民と同程度の生活を送る領主に、他領地に比べて低い税、兵士は忠誠心の高い精鋭という領地だった。その生まれ故に、貧しい領地ではなく、元々豊かな領地を与えられていたとはいえ優れた手腕と言えた。

 まあ、だからこそ先王らは「どうやら領地経営に専念する事にしたようだ」と安心という名の油断をしていた訳だが……。

 国政、外交に下手に関わらせる事を危険と判断せざるをえないだけに、新王の世界は狭いままだった。そして、不運な事に新王はその狭い世界では有能だった。いや、だからこそ「贅沢をやめ、金を使うべき所に使えばもっと良い状況を作れる」とより強く思ったのかもしれない。

 実際には既に歴代の王達の努力によって「割に合わない」程度の権益ぐらいしか伸ばす余地がなくなっていたのだが……。


 話を戻すが、とにかく新王の子飼いの部下達はそれなり以上に精鋭と呼べる力量があった。

 だからこそ、迅速に対応し、まず待機していた部隊の一つが先陣を切って、飛び出したのだった。


 「何者だっ!」


 そう誰何すいかしたのは中隊長を務める騎士長だった。

 彼がそんな反応をしたのには理由がある。

 彼の主が反乱を起こした以上、新王を討ち取ろうという動きが出る事は予測されていたし、だからこそ交代で部隊の一つがすぐに武装状態で飛び出せるよう待機していた。

 だが、門番からの警笛で飛び出してみれば、予想していた軍の姿はどこにもなく、開かれた正門とそこに佇む見覚えのない一体の亜人の姿があるだけ。これが何等かの部隊だったら誰何などせず即敵と判断して攻撃を仕掛けていただろう。事前に報告もなしに、門を破って入って来る相手など敵としか考えられない。

 しかし、一人というのは予想外だっただけに、まずは誰何から入った訳だが……。


 「第一王女というのから頼まれてな。その女の叔父とかいうのがここの親玉をしているというので引きずり出しに来た」

 「……ならば我らの敵という事か。一人で来るとは愚かな!」

   

 あっさりと返された返答に騎士長は顔をしかめた。

 彼とて第一王女の存在に葛藤がない訳ではない。

 事実、だからこそ新王は雇い入れた傭兵に第一王女と第二王子の追跡と確保を、抵抗された場合には殺害も認めた上で命じた訳だ。如何に新王に忠誠を誓う騎士と兵士であっても、いざ第一王女らを目の前にしてしまえば躊躇してしまう可能性があると判断せざるをえなかったとも言える。

 だが、それでも第一王女が攻めて来たならば、それを迎え撃つぐらいの覚悟はしている。ましてや、王女と契約した傭兵の部類となれば尚更だ。

 やり取りを聞いた兵士達は即座に陣形を組んでいる。その動き自体は精鋭の名にふさわしいものだったが……。


 「こうげ」

 「遅い」


 攻撃命令を出そうとした騎士長は訳が分からなかった。

 騎士長自身は指揮官という立場をきちんと理解し、迂闊に前に出たりはしていなかった。

 もちろん、第一王女か第二王子が来ていたならば彼が最前列に出て対応していただろう。それが礼儀というものだ。

 だが、相手は傭兵、そんな相手に敢えて危険を冒す必要はなく、彼の前には部下達が陣形を組んでいたはずなのに、何故。


 (何故こいつが俺の前にいる!?)


 一瞬の意識の空白。

 直後に、空を舞う部下達の姿が視界に入ったのが彼の最期の記憶だった。

 

 ドガン!


 そんな轟音と共に騎士の体は吹き飛んだ。

 

 「む、まだやりすぎか」


 そんな声を兵士や彼の部下である騎士が認識出来たのは既に吹き飛んだ騎士長の体が短時間の飛翔を終え、肉塊となった後だった。

 更に一拍の間を置いて、空から吹き飛ばされた兵士達が落下してきた。

 逸早く状況を理解した騎士の顔は一瞬で蒼白になった。


 (まさか……まさかまさかまさか!ただ移動して殴り飛ばしただけか!?)


 立っていた場所からただ騎士長の所まで、その間に立っていた者達を無視して突っ込んだだけで進路上にいた兵士達はまとめて宙を舞い、騎士長は反応すら出来ずに殴り飛ばされて死んだ。

 十人以上の鍛えられた兵士が槍と盾を構えて陣形を組んでいれば、騎乗した騎士であっても突っ込むのには躊躇する。それをまったく意に介さず突っ込んで、守りを固めた兵士ごと吹き飛ばすとは……!

 地面に叩きつけられた兵士は最早戦力にはならない。

 あれだけ空を舞っていたとなれば吹き飛ばされた時の衝撃もとんでもないものだっただろう。力自慢にメイスで殴られても、ああも空を舞う事などありえないし、生きていたとしても地面に叩きつけられて無傷な訳がない。まず間違いなく、運が良くても動けるような状態ではなかろう。


 逃げたい。

  

 それが正直な気持ちだった。

 間違いなく、この亜人はとんでもない化け物だと確信していた。

 と、同時にそれが許される立場ではない事も理解していた。そして、彼は剣を抜き、「俺に続け!」、そう叫んで突っ込んでいった。


 部隊が全滅と引き換えに稼いだ時間は一分に満たなかった。

 生存者はゼロ。それは同時に誰一人として逃げ出した者がいなかった、という事でもあった。

頑張っても努力が報われるとは限らないよね

残念ながらそれが現実だったりする

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