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竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
147/211

ある宇宙の一角で4

 テンペスタ殿の提案はこちらにとっては有難いが、さすがにそれではこちらとしても引け目を感じざるをえない、という事で追加で一部珍しい食料品や調味料の提供を約束した。

 ……というか、金も領地も爵位もいらない、と言われてはそれぐらいしか……。

 もっとも、利点もあった。テンペスタ殿のそうした反応が騎士達の警戒心を和らげたのだ。

 これがテンペスタ殿が欲を明らかにしていたら、警戒心はもっと高まっていただろう。単純にどこの誰とも知れない亜人がいきなり爵位を、それも国を救うレベルとなれば騎士爵や男爵位ではなく、おそらく伯爵位ぐらいになるだろうがそうなると上級貴族の仲間入りだ。反発はもっと高まったはずだ。

 いや、単純に金を要求したとしても、そうした欲を明らかにすれば、当然「金次第で敵に寝返るのではないか?」という警戒が生まれたはずだ。


 『金も地位もいらん。お前達が権力取り戻したなら、俺の今の生活を邪魔するな』


 こうした態度は、確かにその態度に眉を顰める者はいたが、逆に言えばそれだけだ。

 田舎者では礼儀を知らないのも仕方ない、今だけ我慢すればいい。奪還が成功すれば、もうお互い関わる事もないだろう。そういう事だ。奪還が失敗すれば?どうせ、その時には全員死んでいる。金だの何だので裏切るような連中ならここで「最早これまで!」と追い詰められるまでにとっくに裏切っている。ここにいる連中は何だかんだで寝返る事のない連中ばかり、のはずだ。


 「それでこれからどうするのだ」

 「そうですね、まずはこちらを間違いなく支持してくれるであろう貴族の所に向かって、戦力の確保を行おうと思っています」


 私の母方の祖父でもあるエンメルマン侯爵。

 可愛がってくれた祖父でもあるが、同時に父の政策を支持し、叔父と長年対立し続けてきた人でもある。

 

 「大丈夫なのか?」

 「何がだ?」

 「危険視している相手を真っ先に狙うのは当然の話だ。そんな相手がいるのなら、相手も真っ先に戦力を向けているのではないのか?」

 「それは……」


 どこかで私はそれに気づきつつも、目を逸らしていた気がする。

 ……もし、祖父が奇襲を受けたとしても、すぐに城は落ちないだろう。祖父の城は元々我が国を囲む三国それぞれに相対する三つの最終防衛線の内の一つとしての機能を持っている。ああ、いや、無論三国のいずれかが攻め込んできた時、我が国単独で撃退なんて事は考えていない。

 だが、上手くすれば籠城で時間を稼いでいる間に他二国の仲介を期待出来るかもしれない。

 最悪でも、時間を稼いでいる間に他国に王家や民を逃がす事が出来るように長期間籠れるだけの防備と備蓄が為されている。

 例え奇襲したとしても、元々そうした攻撃に備えている城だ。そうそう陥落はしない。

 だが、それは叔父も分かっているはず、だとすれば奴が狙うのは……兄である王すら暗殺という手段に出たのに、それ以外に暗殺は行わないという可能性はどれだけあるだろうか?暗殺に失敗した事も考えて、戦力を派遣している可能性も高い。

 というか、絶対する。あの叔父は臆病だからこそ、そうした手間は省くまい。

 籠城していたとしても、そうなれば今度は私が祖父侯爵と接触するのは困難になる……。


 「むしろ、逆だろう」

 「逆?」

 

 考え込んでいる私にかけられた言葉は想定外のものだった。


 「その、そっちが殴り倒したい相手というのは他にも敵がいるのだろう?」

 「ええ」

 「複数か?」

 「ええ」


 あの叔父の主張するやり方に主要な貴族は軒並み眉を顰めていた。

 一部がなびいたとしても最低でも二方面には戦力を派遣する必要があるはず……。


 「ならば、その分当人のいる場所があいてるのではないか?」

 「え?」


 一瞬混乱したが、すぐに言いたい事は理解出来た。

 叔父は保有する戦力を二方面に向かわせている。その分、王都に留まる叔父の周辺からは戦力が減っている。

 叔父自身が動くのは無理だ。人質として確保している貴族の身内を部下に預けて、どちらかの方面を自分で担当出来る程の胆力はない。何せ、私と弟が無事な以上、叔父は現状では簒奪を目論む反逆者でしかない。もし、預けた部下の誰かが寝返ったら……。

 その瞬間、身内大事で動かない貴族も軒並み敵に回るだろう。

 それに王都には周辺三国の大使らもいる。彼らへの対応も重要だ。間違いなく、叔父は王都にいる。

 そして……確かに時間が経てば経つほど、叔父は権力を固めていくだろう。戦力もその分増える可能性が高まる。


 「危険すぎる!!」


 そんな反論をしたのは近衛の一人だ。だが。


 「だったら、お前達はここで大事な二人を守っているがいい。その叔父とやらは間違いなくお前と血は近いのだな?」

 「……腹立たしい事に、それだけは間違いないわね。それでどうする気?」

 「簡単だ。お前達の一族に連なる者の匂いは覚えた。ならば、後はその叔父?とやらを私が叩き殺してくればいいだけだ」


 ……はい?


 「えっと、誰が?」

 「私が一人で行ってくる。待っていろ」


 そう言って駆けだそうとするテンペスタ殿に思わず私は叫んでいた。


 「生きてたらいいから、殺さないで持って来て!」


 ……あれ?待って、とか言うつもりだったのに、何で私、こんな事叫んでるんだろう?

お姫様、心のどこかで「こいつなら出来る」という確信を持たされてます。精神を弄らなくても、圧倒的な力の存在がそういう気持ちを無意識レベルで持たせます


次回、テンペスタ分身の分身の…(省略)分身体、大暴れの巻(予定

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