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竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
146/211

ある宇宙の一角で3

 「なんの話をするんだ」

 「いえ、私達としてはお礼も兼ねて、話をさせてもらえれば、と思うのですけれど」


 下手に出ていると見る者もいるかもしれないが、相手は私達を追い詰めていた傭兵団と思われる集団を一人、でいいのかしら?で片づけた猛者だ。

 無論、私に対する口調に若い者が睨むような視線を向けていたりもするが、それらはベテランが小声で叱っているようだ。私達とは明らかに異なる亜人であるのに加え、結果的に恩人でもある猛者だからな……こちらが見下して良い事など何もない。

 逆に言えば、私達が束になってかかっても返り討ちに出来る相手だという事。そんな相手を怒らせていい事があるとは思えない。……出来れば雇うという形でもいいから、協力してもらえるといいのだけど。

 そう思って言葉を続けようとした時、隣からくぅ~という音が鳴った。


 「……お姉ちゃん、お腹すいた」


 弟の言葉で気が付いた。……そういえば、私達もここしばらく干し肉をかじったぐらいで、まともな食べ物食べていなかったわね。

 そんな様子を見ていたテンペスタ殿は軽く溜息をつくと、魚の詰まった網を置いて、少し離れた岩の所へ歩み寄ると、そこから小さな袋を持ってきた。中からは何かの筒や塩が……。


 「少しお前達は食事をした方が良さそうだ。適当に薪になりそうなものを拾ってくるから火でも熾して少し待っていろ」


 そう言って、テンペスタ殿は森へと姿を消したのだけど……。


 「姫様、どうしましょうか?」

 「そうね……とりあえずは」


 質問してきた近衛に答えながら周囲を見回して。


 「……とりあえず、死体を片づけましょう。腹ごしらえをしないといけないのは確かだけど、この死体を放置は出来ないし、こんな中で食事をするのも何だしね」


 確かに、と他の者も頷いて、動き出した。

 ……私達の命を狙ってきた連中の死体を埋めてやるなりするのはなんだが、それをしないと最悪疫病が流行る事すらある。死体の片づけは盗賊の討伐の時にもやった事があるし、と思ったら「死体の処理は自分達がやりますから王子殿下(弟)の対応をお願いします」と言われてしまった。

 まあ、確かに侍従やメイドはいないんだから騎士達からすればどう対応したらいいのか分からないのかも……。




 ―――――――




 「何をやっているんだ、お前達は」


 戻って来たテンペスタ殿は巨大な枯れた倒木、と思われるものを担いでいた。置く時にズシン!と凄く重そうな音がしてたんだけど、あんなもの人サイズの生物が持てるものなのかしら?

 まあ、戻って来るなり呆れた声で言われた理由は分かっている。

 道具は貸してもらっていたのだが、誰もこれを使って火をつけた経験がなかったのだ。……盗賊討伐の為の野営はした事があったが、同伴の御者や小者がそこら辺はやってくれていたからなあ。お陰で、記憶を探って小枝を集めて、火を起こそうとしたのだが……。貸してもらった道具、筒をどう使えばいいか分からず、悪戦苦闘していた。

 そこへ戻って来たテンペスタ殿はぱぱっと筒を動かして、火種を作り、それを移して火を起こしていた。何でも、ファイアーピストンという道具で火種がなくても火を起こせる品だとか……。

 更に持ってきた枯れ木を砕いて、薪を作り、火を移して幾つかの場所で焚火を作り、小刀で枝を削って作った串に魚を刺して、塩をふり、焚火の周囲に刺していった。……何だか頼りっぱなしで申し訳ない気分になって来るな。複数の焚火を作ったのはさすがに一つの焚火を全員が囲むのは無理があるからだろう。

 

 「まずはお礼を言わせて頂きたい。助かった、ありがとう」

 「気にしないでいい。私は襲い掛かってきた連中を排除しただけだ」

 「それでも、だ」


 話を聞いてみると、テンペスタ殿はこの周辺で一人で暮らしているらしい。

 何でも、卵から生まれた時には周囲には獣と、それと相討ちになったと思われる親と思しき蜥蜴亜人がいた事や、直後に足を滑らせて、当時はまだ生まれたばかりの赤子であった事からここまで流された事、それからここで生きて来た事などが語られた。

 水の中でも問題なく行動出来る事から、生活している場所も水を通らねばいけない洞窟を用いているのだという。別に川に拘らなくてもいいけれど、この辺りは人気も少ないし、その分獲物も豊富なのでここら辺をねぐらにしている、と……成る程、確かに我が国は小国だけど交易が凄く活発な国だけだからなのか村一つとっても街道沿いに作られる事が多い。街の移動途中にある村であっても水などの補充がてら休憩、という商人や旅人相手に井戸水で冷やした果物などを売る事でちょっとした現金収入になるからだ。 

 もちろん、例外もあるがこうした山奥ともなれば通常は人がほとんど通わなくてもおかしくない。精々、猟師などが偶に通りがかるぐらいだろう。


 (ましてや、部族などが暮らしている訳でもなく、一人で、というならこれまで知られていなかったのも不思議ではないか)


 そう、自分を納得させると、今度はお願いをせねばならない。


 「……申し訳ないが、一つお願い、いや、交渉をしたいのだが」

 「なんだ?」

 「実は私達は……簡単に言えば、暴力で親を殺された上、我が家を乗っ取られて、追い出されてな。取り返すのに手を貸して欲しいのだ。無論、今回助けてもらった事も含め可能な限りの礼はする」


 下手にややこしい言い方をしても仕方ないと極力分かりやすいよう事実のみを告げたつもりだが……どうだろうか?


 「一つ確認したいのだが」

 「なんだろうか」

 「乗っ取った相手というのは何故、そんな事をした?」

 「……お前のやってる事が気に喰わないから、自分のやり方でやらせろ。仕事場でもある家は俺が使う、そんな所だな」


 口にして改めて怒りが募る。

 そう、そんな事の為にあいつは、あいつ自身にとっても兄である我が父を殺し、城を乗っ取ったのだ。父は弟の勝手な思い込みを修正しようと幾度も話を聞き、きちんとそれが出来ない理由を説明してきた。私自身もこの国の立ち位置を理解する為にと同席を許可された事もあるから知っている。

 それをあの男は『愚か者にはどれだけ口を連ねても意味はないようだ。この上は行動でもって示すのみ』などと称して……!貴様の側に国政に関わる貴族や、実務を扱う官吏らがろくにつかなかった理由を少しは考えてみたらどうだ!!どうせ、あいつに媚びを売った一部の連中を彼らと挿げ替えるのだろうが……そんな事になれば国の混乱は一時ではすまないだろう。


 「……まあ、いいだろう」

 「!いいのか!?」

 「ああ。それで礼とやらだが」

 「何か希望があるのか?」

 「俺がここで暮らすのを黙っていてくれればそれでいい」

 「……それだけでいいのか?」


 思わずそう言ってしまった。

 もしかしたら、私が王女だと、王家の一員だと気づいていないのだろうか?そう思ったのだが、この一帯を提供するという提案にテンペスタ殿は肩をすくめて言った。


 「領地という奴か?食い物にも困っていないし、人のやる贅沢とやらにも興味はない。私はここで静かに暮らせればそれでいい」


 ……何というか。欲深の叔父から追われて逃げて来た先で、こうも無欲な御仁と出会うとは。

 内心、そんな苦笑にも似た思いを抱きつつも、「ならば、よろしく頼む」、そう言って握手を交わしたのだった。 

テンペスタ自身は多少は誘導してます

別に思考を弄ったとかではなく、彼女らの事情を知って、自分ぐらいの戦力を無視はできないだろうと判断した上で無関心を装ってます

相手側から協力を求めて来たなら、こっちの仕掛けじゃないか?って疑いとか色々誤魔化せますからね

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