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竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
144/211

ある宇宙の一角で1

 虚空を泳ぐ。

 宇宙と宇宙の狭間、宇宙の外、未だ人には観測出来ぬ場所。仮に宇宙が漂う虚空と、宇宙が生まれ落ちる混沌と名付けるが、その虚空をテンペスタの本体は移動していた。


 (生まれ故郷は事も無し、か)


 多少は騒動も起きたようだ。

 竜王が一つ動いた事で、人の世界が多少揺らいだようだ。

 だが、それだけの話。

 たかが惑星一つ、宇宙の一つすら揺らいでは……。


 「いかんなあ」


 ふと気づけば、「たかが」などと考えてしまう。

 その「たかが」な星で生まれ落ちた、そこで大きくなったというのに。数百年余の時を過ごしたというのに。

 ちらり、と掌中の珠を、自らの分身を内包した宇宙へと視線を向ける。


 (始まりはこの中からだったな)


 ふと思い立ち、周囲に視線を向ける。

 見つけた宇宙の一つにふんわりと近づくテンペスタだった。さて、どこか適当な星の生命を探してみよう。昔を思い出して、助けてみようではないか……。うん、そうだな、幾つかの宇宙で似たような事をしてみてもいいかもしれない。




 ――――――




 「姫様!お逃げ下され!」 

 「どこへだ!」


 部下の叫びにそう返しながら、剣を振るう。

 我が国は小国ではあったが、三つの大国の中間地点に位置し、交易で裕福な土地だった。ある種の緩衝地帯として対立する三国の商人が物品を持ち寄り、そして三国が交渉を行う際の場所を提供してきた。それによって繁栄してきた土地だった。

 だが、そんな国だからこそ頂点に立つ事の旨味もある。

 長年、仲良くやってきた王家の一族だが、父の弟、私にとっては叔父が野心を抱いた。

 

 『何故、自分ではいけないのか』

 『自分ならもっと上手くやれる』


 ……馬鹿馬鹿しい。

 この国は三国の緩衝地帯として生きるしかないのだ。東西南北、いずれの方角も自国よりも圧倒的に大国である三国の領地であり、どこの方向へも伸びる余地がない。その三つの大国の間でどれだけ巧妙に立ち位置を確立し、生き残るかが我が国の繁栄に繋がるのだ、と父王は何度も語っていた。

 歴代の王達はいずれもそれを理解する者を後継者とし、繁栄させてきた。

 しかし、逆に言えば、長年の間にほぼ完成されきったシステムはほぼ弄りようがない。下手に弄っては、絶妙なバランスを崩す、そんな所まで来ている。

 

 (それをあの男は……!)


 これがまだ他国に唆されて、というなら分からないでもない。

 だが、三国にとっても我が国は重要な場所だった。彼らにとっては「確かに美味しそうだが、下手に手を出せば残り二国を結びつける事になりかねない毒饅頭」だった。叔父は三国に自分を売り込んだようだが、むしろ三国にとっては迷惑そのもの。我が国に駐留している大使三名全員から「あれは大丈夫なのか?」と密かに話が来た程だ。

 結果、父から叱責された事で、あの男は追い詰められた、と勝手に錯覚した。その結果が、密かに門番を買収し、私兵を引き入れての暗殺劇だ。

 あの男は「金を使って、もっとより良い立場を三国から買い取ってみせる」と言っているが、あれこれ文句をつければ最悪三国から潰されかねない、という事を理解しているのだろうか?大体、そのより良い立場、にした所で父から問われた時、あの男は具体的な内容を語る事が出来なかった。

 

 (でも、このままでは……!)


 元々、その立ち位置からこの国にそう多くの兵士はおらず、騎士と言えば近衛騎士のみ。

 数少ない彼らはそれでも雇われたならず者同然の私兵達と戦い、食い止め、名目上近衛騎士の一員となっていた第一王女とまだ幼い第二王子を何とか脱出させた。 


 「姉さま……」

 「大丈夫だ、大丈夫……!」


 それしか言えない自分が歯がゆかった。

 数だけは揃っていた私兵達の追撃に次第に追い詰められている現状、それしか言えなかった。

 既に川岸に追い詰められ、背後は流れの早い川……。


 「な、なんだ!?お前は!!」

 「お前達こそなんだ」

 「?どうした!」


 ふと私兵含めて動揺の気配があった。

 そのお陰で視線を声が上がった方へと向けた時。


 「えっ?」


 私の口からも疑問の声が上がった。

 そこには水から上がって来た一人……いや、一体と呼ぶべきか?鱗に包まれた人型の相手がいたからだ。

 そして、それが我が国の伝承へと繋がる事になるとは私はその時は想像だにしていなかった。

 

ちょっと自分の意識が変わりつつあることに気づいたテンペスタ

昔を思い出して、少しばかり介入を試みますが、はてさて?

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