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竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
140/211

とても素敵な解決法

 「それでは開始します」

 「ああ、頼む」


 了承を得て、装置が作動する。

 地の竜王の進行ルートの傍らに設置された巨大なスピーカーを含めた一連の装置が作動を開始し、それらの電源となる電源車達が一斉に発電を開始する。


 『聞こえていますか、聞こえたら停止してください』


 最初の呼びかけはこんなものだ。

 もっともそれは外部音声を遮断している車両内部だから聞き取れる声で、外にいたら最早暴力とも言える轟音のせいでまともに聞き取る事など出来ないだろう。実際、車両の中にいてさえビリビリと衝撃が伝わって来る程だ。


 『聞こえていますか。聞こえてたら停止してください』


 しばし間を置く。

 さて、反応は、といった所で連絡が入る。


 「目標停止しました!」


 周囲がざわめく。

 一部の者はガッツポーズを取っていた。


 『あなたはなぜ、ここに来たのですか』

 

 しばしの間の後、合成音がスピーカーから聞こえて来た。


 『かんこう』

 「かんこう……観光!?」


 ……さて、先にネタばらしをしてしまえば、この装置、実際はほとんどハリボテである。もちろん、きちんと作動はしているし、変な装置が組み込まれている訳でもない。

 人間とは不思議なもので、これが例えば何の実績もない見るからに怪しい自称科学者が「これは儂の発明したテレパスシステムでな!このヘルメットをかぶり、念じれば頭で考えた事を精神感応波として発信し、また奴の思考をテレパシーとして感知する事が出来るのじゃ!」などと言われたら良くて「はいはい、爺さん邪魔だから大人しくしてな」と排除されるのが精々で、下手をすれば殺気だった兵士に袋叩きにされる可能性すらあるだろう。

 しかし、これが国立研究所の職員という肩書を持ったきちんとした身なりの人物が、政府の許可を得た書類と共にやって来て、「相手はあの巨体です。こちらの声を音として認識出来ていない可能性があります。そこで特大のスピーカーでこちらの声を拡大すると共に、複数の集音マイクで集めた相手からの音声をコンピュータで処理する事で意思の疎通が図れないかという訳です」、と説明されたらどうだろう?おそらく、「なるほど」と何となく納得してしまうはずだ。

 ましてやあちらに反応があり、それっぽい会話が成立すれば余計に「成功した!」と考えてしまうはずだ。

 

 もう分かる人には分かったかもしれない。

 「このままでは拙い」、そう判断した祖霊の干渉である程度事情を知っている者、れっきとした国立研究所職員に提案を行わせ、それを後押しした。

 提案自体はそうおかしな話でもないし、核融合弾すら効かなかった現状、とにかく好転する可能性があるのなら、という状況だったからだろう、有力者の後押しがあった事もあってすんなり承認が得られ、今に至る。

 さて、ではこの装置自体がハリボテだとすると、何故地の竜王は停止し、声が聞こえているのか?

 答えは簡単で、祖霊が精神感応で地の竜王に呼び掛けて、会話し、それをオペレーターを装った者が指示を受けて入力し、合成音でそれっぽく流しているだけの話だ。実際は裏でこのような会話が為されている。


 『竜王殿、停止してください』

 『む?どうかしたのか?』

 『竜の一体ですが、少し話したい事があるのです』

 『ふむ?承知した』


 この会話自体が一秒未満の一瞬で行われている。

 その上で色々と説明した挙句。


 『なるほど、ではこうだな』


 適当な音での咆哮を上げる。

 後はそれに合わせて、合成音で「かんこう」と流すだけだ。それだけで後はそれを聞いた周囲が勝手に解釈してくれる。

 その後も幾つかの質問をした振りをして、合成音を流し、それと共に聞いている者達の様子はますます暗く、重苦しいものになる。当然だろう、話を繋げれば、「ちょっと用事があって別の場所へ移動する途中、ついでだから観光もする事にしただけ」「用事?このままだと大地の歪みから大規模な海底地震が発生して、巨大な津波が起きるからそれを鎮めに行くだけだが」といった内容になる。

 攻撃にしたって、「ただ目の前をぶんぶん飛び回られて、目障りだっただけ」、となれば軍人達からは「自分達のやった事は起きなかったはずの被害を起こさせただけ?」と絶望しか感じないし、文官達からすれば軍人達の余計な行動が甚大な被害を起こしたという事で自然と軍人達に向ける視線は厳しいものになる。


 「……えー……それでは、そちらはこの後も通り過ぎるだけだと」

 『そう』


 結局、この後軍は遠方からの監視のみに留め、手出し無用が通達される。

 もっとも、その命令がなかったとしても核融合弾という現状最強の兵器を持ってすら何も出来なかった事に絶望していた軍は手出しする気力もなかっただろう。


 後に、更に驚愕の事実が判明する。

 それは放射能が爆心地を含め、一切感知出来なくなっていた事だ。無論、自然放射能レベルは後に復活したが、間違っても核融合弾を用いた際に起きるはずの汚染レベルではなかった。

 もっともそれは放射能とは放射性崩壊によって不安定な物質が電子や原子核を放出する事で発生する現象であり、逆に言えば安定してしまえばそんな事は起きなくなる。地の竜王が祖霊に頼まれて、その影響力を行使した結果、即効で物質が安定してしまった為、放出するほど不安定な物質が消えてしまったのがその原因だった。

 そして、この一連の事件は人の世界において大きな影響を与える事になる。    

という訳で、軍は上から命じられてこれ以上の攻撃を封じられました

まあ、核融合弾複数ぶつけてまったく効いてる様子が見えない状況で、「他に何が出来んだよ」と言われたらまったく何も出来ないという現実もあったんですが


次回はこの一件の決着と影響を描いていきます

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