戦いの経過
うっとうしい。
それが地の竜王の意識だった。
(我は竜神より命を受けての移動しておるだけというのに何故これほど騒ぐのだ)
もし、人族が知ったらどう思うか。
絶望するか、憤激するか、それとも虚脱するか。
地の竜王にとって現状の人族の攻撃は無視しても良いものであり、人族が反撃と思っているそれも、人で言えば「うっとうしい虫を排除する」程度の感覚でしかなかった。例え、実害がなかったとしても、人は「うっとうしいから」「イラっとするから」といった何気ない感覚で虫を叩き潰し、枝をへし折る。
地の竜王にとって、その程度のものでしかなかった。
(む?)
どのぐらいの時が過ぎただろうか?
何時しか周囲から煩く飛び回っていた虫達が消えていた。
(やっと理解したか)
上空から何か落ちてきているのも気付いてはいたが、数発程度。気にするまでもない。
そして、次の瞬間、地の竜王は光に包まれた。
――――――
ウェーベルは疾うに過ぎていた。
当初、高速でウェーベル上空に移動した竜王に、人々は一時パニックになった。
もちろん、そんな状況でも尚、プロ根性を発揮していたような者が良いも悪いもいたのは確かだが、報道としてのプロ根性を発揮して放送を続けたヘリに乗ったカメラマンやアナウンサーはともかく、地上で必死に人々を誘導していた警官や軍人はパニックになった群衆を統制するのに失敗した。
あくまで職務を遂行しようとした警官や軍人が多少いた所で、未だ数千人数万人といった規模の群衆が一旦パニックからスタンピードに陥った時、それを止める事は不可能だった。
中にはあくまで自己犠牲を発揮した英雄的な行動を取った人もいたが、ほとんどはそうではなく結果として、順番を待ち切れずヘリに押し寄せた結果、ヘリ自体がバランスを崩して墜落したり、将棋倒しが発生して圧死者が出たり、酷いものでは我先に逃げようと車で邪魔と(当人が)思った人々を跳ね飛ばして逃走を図ったような者も出た。
結果的に、地の竜王は追加の攻撃を加えなかったし、死者は竜王の攻撃ほどではなかった(というか竜王の攻撃で直撃喰らった人達は消滅以外の例がなかった)とはいえ、重傷者の割合でいえばむしろこのパニックによるものが大きかった。
「ガッデム!あの野郎!まったく堪えた様子がねえ!!」
そして、残念ながら奮闘した結果がそれだった。
機銃で効果がない事は分かっていた。
故にミサイルや爆弾を主体として用いていた訳だが……。
まず、対空系のミサイルは外された。
人族の飛翔構造物は地の竜王ほどの強度がなく、もっと威力が低くても破壊可能だから、誘導性能の方に重点が置かれている。しかし、今回、的を外す心配はない。
故に、対艦ミサイル。
或いはバンカーバスターを主体とした強烈な貫通効果を持つ爆弾。
それらが集めて次々と叩きつけられた訳だが……。
「くそ、もう近隣の倉庫はカラッケツだぞ!!」
根こそぎ持ちだしてありったけ叩きつけても、まったく効いた様子がなかった。
まだ陸軍の砲の砲弾は残っていたものの…… 空を飛ぶからこそ低空ではあっても対空砲以外の砲は届かない。いや、届かない事はないだろうが、基本、空を飛ぶ対象を撃つ為の砲ではない。今回はただ単に相手が巨大すぎるせいで、とにかくその高度まで飛ばせば当たるというだけだ。
そして、それもまったく意味がなかった。
そもそも、現在一般的に用いられている砲とは比較にならない大口径砲である戦艦の主砲でさえかつて竜には通じなかった、そんな事を思い出した者が政府上層部や軍上層部にいなければもっと続いたかもしれない。というか、実の所は単純に無駄な事を繰り返す軍に呆れかえった祖霊達の一部が「無駄な事はやめろ」的な意味合いでアドバイスを行ったのだが……。
世の中にはそのせいで、ろくでもない方向に突き進む人もいるのが現実だった。
『やむをえない』
そう判断したのは誰だったのか。
それは分からないが、誰かしらがそれを決断し、最終的にトップが了承したのは紛れもない事実だった。
核融合弾の投入。
現状手持ちにある複数の核融合弾を一気に投入する。
一発一発試しに用いるよりは一気に最大火力を投入しようという訳だ。
もちろん、海上ではなく本国で核融合弾を用いる事を渋る者もいたのは確かだが、結局ゴーサインが出て……地の竜王は核融合によって生み出された光に呑み込まれた。
祖霊達「これで諦めるだろう……ってあいつ等は馬鹿なのか!?」
なお、核融合弾というのは要は水素爆弾の事です
原子爆弾が核分裂兵器なのに対して、それを起爆に利用して重水素による核融合を起こさせる兵器ですね




