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竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
134/211

竜の過去

動き出した地の竜王の過去話

 大地の竜王。

 どこかずんぐりむっくりした彼もまた、何かの目的があって竜王となった。

 しかし、今は存在しない。

 彼の竜王となった根源は一人の少女との約束にあった。そうした意味合いではテンペスタのそれと似ている。

 テンペスタと異なるのは彼女が暮らした地を守ろうとした事。決まった故郷を持たぬ冒険者であったキアラと異なり、少女はその土地で生まれ、その土地で生きて、死んだ。

 当時の大地の竜王は、上位竜ではあったが竜としての力は然程強い存在ではなかった。上位竜であるかどうかは知性があるかどうかで決まり、そこに保有する力の程度は関係ない。例え、生まれたばかりの竜であっても知性があればそれは上位竜であり、どんなに古く力ある竜であっても知性がなければそれは下位竜だ。

 だから、当時の彼のように、老成した強大な下位竜に重傷を負わされるという事もまた起こりうる。

 

 それは運が悪かったとしか言いようのない事件だった。

 独り立ちしたばかりで、住む場所を探していた彼は運悪くその下位竜の縄張りに入り込んでしまった。

 念の為言っておくが、その下位竜はそこまで見境なくあれもこれも襲撃していた訳ではない。その縄張りには豊かな生態系があったし、人族がそこである程度の狩りや採集をする事は認めていた。代わりにというか人族は毎年、祭壇にお供え物をしていた。

 下位竜は知性があった訳ではないからそれを意識していた訳ではないが、別段土地を荒らす訳でもなく、生きるのに必要な範囲で狩りをし、採集をするだけならそこに住まう他の獣と同じだ。祭壇に捧げられたものが自分への贈り物だという事は理解していたし、塩漬け肉などの普段は口に出来ないような物をくれる相手として、村を襲うような事もしなかった。

 だが、同じ竜ならば話は別だ。

 知性があれば話が出来る。


 『すいません、独り立ちしたばかりでうろうろしてたら間違って入りこんじゃっただけなんです』

 『そうか』


 で、終わる。

 多少、滞在させてもらって、適当な所でお別れしてまた別の土地へと移動すれば済む。

 しかし、下位竜には話は通じない。自分の縄張りに余所者がやってきた、と認識された場合、そこにあるのは縄張り争いという名の戦闘だ。話が通じない以上、後は片方が殺されるか、何とか縄張りから生きて逃げ出すかの二択しかない。

 そうして、大地の竜王は、まあ当時は(一応)上位竜だった訳だが、何とか逃げ出す事が出来た。

 まあ、最初から逃げに徹していた事から相手からも縄張りから追い出すだけでいいと認識された為にとことん命を狙われるような事にはならなかったからだろう。

 しかし、それでも相手は下位とはいえ年経て強力になった竜だ。もちろん、属性持ちで空も飛ぶ。

 そんな相手に攻撃されて、独り立ちしたばっかりの竜が無事で済む訳がない。大怪我をして、何とか縄張りからは出たものの、動けなくなった所を彼女に発見された。びっくりされたが、そこはあの下位竜の近くで生きている村人だったからだろう。下位竜の縄張りは山から森の半ばにかけてであり、森の半ばからこっちは縄張りに入ってないようだったが森の外に暮らす以上、竜の姿はよく見かけるものだった。

 そんな少女は懸命に手当てをしてくれた。

 効果はそんなにあった訳じゃない。所詮は人族の少女、それも田舎の村娘が行える程度の行為だ。それでも彼にとっては襲われた直後の事だった事もあって、彼女におおいに感謝し、お礼をしたかった。だから、彼女が生きている間は時折、その手伝いをした。

 盗賊を撃退もしたし、少女が亡くなって五十年ばかりした頃に起きた大規模な蝗害によって国全体が飢饉に陥りかけた時、彼は竜王となった。

 最初は彼の出来る範囲で実りを支えていたのだが、村一つとはいえ豊かとなればどうなるか?……そんな村があると行商人でも何でもいいが伝わればどうなるか。決まっている、領主はそこから不足分を調達しようとする。

 例え、領主が真っ当であったとしても多少でも余裕のある村から調達する事で他の場所での飢え死にを防げるなら、多少村の者が飢えても死ななければ、いや死ぬのが老人なんかの労働力にならない者だけならそれを行うのは当然だと今なら分かるが、当時は幼い頃から知っている知り合いが蹴り倒されて、食料を奪われる光景に頭に血が上ってしまったからだ。


 ……そんな村も今はもう、ない。

 これが襲われたというならまだ彼にも何とか出来たが、消えた理由は単に自然消滅だ。

 僻地の村から若者がより発展した都に憧れて出て行き、偶然というか運良く一人目が成功した。それで次々と若者達が街に出て行ってしまった。無論、成功する奴は一握りでしかなく、失敗したからといって村に戻って来るとも限らない。 

 自然と村からは若者が消えていき、それに伴い新たに生まれる子供も減っていった。

 そうして、若い人手が消えてゆくという事は狩人や、害獣を倒す為の戦力が減って行くという事と同義でもある。

 そうなると、まだ働ける内にと村を捨てる一家も出てくる。いくら畑を耕しても、獣に荒されれば生活は苦しくなるし、竜王となった彼とてそんな普通の獣一匹一匹まで対応はしない。……だって彼らも生きる為にやっている事だからだ。それを追い払っても、一時的なものにしかならない。大体、竜の気配がしている場所にやって来る時点で、そうでもしないと生きていけない個体や群れである事がほとんどだ。

 何時しか村は、村で生まれ、死ぬ事を選んだ老人ばかりになった。

 そうして、最後の村人となったある老婆を看取り、葬った後、彼は山に籠った。

 かつては敵わなかった下位竜だったが、その時はもう朽ちるのを待つばかりの老竜だった。ここが上位までの竜と竜王の決定的な差でもあり、完全に肉体を属性に置き換えた竜王には寿命というものが存在せず、食事も必要としないが、それ以下の竜達には寿命があり、食事を必要とする。生あるものには死がある。そこに例外はない。

 老いて、動きが鈍れば食事も満足に取れなくなる。

 だからこそ、竜であっても最期に待つのは痩せ衰え、死をまつばかりになる。

 

 そんな死は御免だ。


 そう思っていたのだろうか?それとも、長年縄張りを守って来た竜としての最後の意地だったのか。

 大地の竜王が姿を見せた時、老竜は最後の力を振り絞って勝負を挑んできた。

 大地の竜王が介錯のつもりで葬ると満足したように息絶えた。そうして、彼はその地の新たな主となった。

 でも、彼は惰性で生き続けていただけで、したい事も見当たらなかった。

 普通ならそうなると自然へと帰って行くのが普通なのだが、墓守としての意識が残っていたのかそうなる事もなかった。

 そうして、数百年が過ぎた頃、「これでいいのか」という意識が芽生えた。自分が保護していた人族は最後の一人になるまで精一杯生きた。最後の村人となった老婆も彼の手助けを断り、自分で畑を耕し、力の限り生きて、そして死んだ。

 はて、今の自分はどうだろう?

 もし、自然へと帰った後、彼らに再会出来たとして果たして胸を張って再会出来るのだろうか?

 だから、動く事にした。とりあえず、今は情勢も大分変っているみたいだし、自分達の中でも一際ずば抜けた……突出しすぎて巨大すぎる竜神と呼ばれる存在に話をしてみた。


 「何か、俺に出来る事ってないでしょうか?」

次回から動き出します

……でも、力はあるけど経験不足な奴がいたらどうなるでしょうね?

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