ある軍人のお話(後編)
若干下ネタに思える要素があるかもしれません、ご容赦下さい
ここからはお前一人で向かうように。
そう案内してくれた部族の狩人に言われて、戦々恐々としながら先へと向かった俺の目の前にあったのはちょっと大きめの一軒家だった。最初見た限りでは石で組んだのかと思いきや、全て一枚岩である事から、これもおそらくは【祖霊】とやらの構築した代物だったんだろう。
俺は恐る恐る内部に足を踏み入れた(無論、ノックと了承の返答を得てから)訳だが、何故こんな事になっているのだろう……。
「ふむ、なら私はこちらを」
「むむ……そう来ましたか」
今、俺は【祖霊】と名乗る女性を相手にゲームをしている。
内部に入って目を疑ったのは内部に整然と無数のゲーム、いわゆるテレビゲームやアーケードの類から、ボードゲーム(囲碁や将棋、チェス、オセロなども含む)まで揃っていたからだ。呆気にとられた俺はそのまま前触れなしに突然目の前に出現した【祖霊】に引きずられて、ゲームの相手をしている……。
「何故、こんな事を、と思うかしら?」
「ええ、まあ、そうですね……」
【祖霊】を名乗る女性自体は凄く綺麗な女性だし、服装は今は部族のものらしき伝統ある服装だ。
出て来た最初は俺達の軍服を思わせる服装だったからびっくりした……【祖霊】曰く俺の服装に合わせたつもりだった、らしい。
「そうですね、私達は始祖たる方に触発され、人に興味を抱いた竜が原型なのです」
「始祖、ですか……」
「ええ、人に関心を持ち、人の為す事に興味を持ち、それを極めんとした始祖……我らが神と崇める存在の妹君でもあります」
そうした意味では竜の神とその妹君、お二人こそが私達の今の在り方の起源。
精神と行動それぞれの象徴と言えるかもしれませんね、そう語った。
正直、竜の神とか、始祖とか気になる発言があったが、神はともかく始祖に関しては答えてもらえなかった。残念。まあ、竜の神に関しては【祖霊】殿曰く「既に本来の身はこの世界には収まり切れず、今、この大地にあるのは分身の一つ」とか「聖竜教の神像は片手に透き通った球体を持っているでしょう?あれが私達の宇宙そのものです、本体にとっては」なんて言われて頭が真っ白になりかけたが。
……本当だったら、どう上に説明すりゃいいんだろう?あんだけの力持ってるのが分身の一つとか、俺らの宇宙が本体からすれば手に持てる程度だとか。……考えるのやめよう。
「それで、私達は人の姿を得た訳ですが、それぞれに様々な事を試して、趣味、というか没頭するものを得たのですよ」
「なるほど……子供を作られたのも?」
「ええ、私達にとって人の営みで確実に目にするものでしたからね。生まれた子に対しても厳しい者もいれば、甘やかす者もいますし、虐待する者や捨てる者、かと思えばそうした者達を拾い、救う者まで様々に存在するので一番の興味だったのですよ」
だから、まず子を為した。
そして、それぞれが思うように育てた。
それが今の氏族の成立と、その性質の差になっていると言える、とも。
「まあ、中には行為そのものを自らの探求する興味として他大陸で娼婦なんてやってる竜、あなた達の言う【祖霊】もいますけど」
「へえ……ってはあっ!?本当にっ!?」
「ええ、人族なら耐えられないような行為や、大怪我を負うような行為であっても私達なら耐えらますし……逆にする側に回ると壊さないようにするのが難しいとぼやいてましたね……まあ、それはそれで追及しがいがあるとも……。昔はやりすぎて、『傾国』なんて呼ばれるような事をしちゃった事もあるみたいですけど」
「そ、ソウデスカ……」
俺は戦慄していた。
俺達の大陸にも竜を元とする【祖霊】が普通にいるのだと知ったのもそうだが、彼らの興味がどこに向くのか分からないという事にも怖れを感じた。
……おそらく、今、俺の目の前にいる【祖霊】は人の『遊戯』に対して興味を抱いたのだろう。
では、『政治』や『経済』に対して興味を抱いた【祖霊】がいたとしたら?……彼らが人の限度を時に理解出来ず、時にやりすぎてしまう事は先程の『傾国』発言で理解した。傾国の美女、というが本当に国を傾ける程に溺れさせたのだとすれば……それが『政治』や『経済』といった分野で行われたらどうなるだろうか?
ひょっとしたら「どうなるか興味が湧いたから」という理由で、ある日突然、それまで真面目で誠実だった政治家が暴走するのでは……?経済が滅茶苦茶になるのでは?
そんな考えが一瞬よぎる。
「まあ、傾国(仮称)が始祖様にこっぴどく怒られましたからね。戦争とか大混乱とかそういう事はないと思います」
「え?」
「始祖様のご趣味が傾国(仮称)の行動のせいで邪魔をされたらしく……さすがに拙いという事でそうした他大陸で活動している【祖霊】達の間で世界を混乱させるような行動は慎む事になったそうです。下手に始祖様を怒らせたら、竜神様が動く危険もありますし」
安堵と同時に、俺が感じたのは「やっぱり他にもいるんかい!」という事だった。
……そうしてみると、最初にやらかしたのがそっち方面で良かったかもしれない。……って待てよ?
「世界大戦を起こしたりは……」
「むしろ止めようとした側ですね」
と、名をあげられたのは大戦の両勢力間の緊張が高まる中、暗殺の危機を幾度も乗り越え、遂には両勢力の講和をまとめあげた高名な政治家だった。
……マジかー。あの人が【祖霊】だったの……?
いや、けどまあ移動中に乗っていた航空機を爆破されながらも、墜ちたジャングルから奇跡の生還!なんてのを成し遂げてたな。……あれも本当は【祖霊】だったからなのか。
やばいなあ、もしかしたら世界の黒幕なんて存在の中にもいるのかも……。
そんな事を思った俺はふと気になった事があって尋ねてみた。
「けど、その、始祖様?って【祖霊】達がそんな話をするぐらい強いんですか?」
「竜神様よりは劣るけど、この星系の恒星を吹き飛ばすぐらいなら簡単でしょう」
「そ、そうですか……」
「大丈夫よ、間違って吹き飛ばしても消された貴方達が死んだと認識する前に竜神様が魂ごと復元してくれるから」
……竜神様って正真正銘ホンモノの神様じゃねえかよ。
世の中には本当に「聞かなきゃ良かった」って事があるんだなあ、と俺は思わざるをえなかったのだった。
……あと、俺がここに呼ばれた理由だが。「ゲームをやるには相手が欲しい。けれど部族の方達だと私相手には畏まるだけで相手がいないのよねえ……」との事だった事を付け加えておく。
馬鹿やった事に対する怒りではなかった事に安堵した。
連中に関して?「どのみち許可なしで私の所に辿り着けたりはしないので、永遠に森の中を命尽きるまで彷徨うだけですよ?それでも良ければどうぞ」との事。……もう、いいか、それならそれで。
実は祖霊達、結構他大陸にさりげなく紛れ込んでたりします
この祖霊も密かに他大陸に渡って、ゲームを購入してたり……一応、元々は水の属性龍です。代金?海水の中って結構黄金なんかも含まれてますし、海底鉱山もありますので……




