生まれ変わった気分だ
地の三凶を吸収する。
その一瞬を稼ぎ出す為に、水の三凶を二体がかりで銀河団間の多少力を放出しても何もない場所へと引きずり出し、若干強めの攻撃をぶつける。半径数光年内が崩壊し、その数十倍の範囲に余波が放出されるが、稼げる時間は人からすれば一瞬と認識すら出来ないほんの僅かな時間。
だが、それでも彼らにとっては十分すぎる時間。
その時間だけでテンペスタに地の三凶の全てが吸収される。
「……最初は人の子と過ごし、色々苦戦してたものだったんだがな」
吸収し、水の三凶が逃れる更に僅かな一瞬に過去を思い出す。
最初の頃は探し物、探し人もひたすら空を飛んで探すしかなかった。
今もあの星で生きる妹竜ルナはテンペスタとは異なる道を選び、今も力の大部分を抑えて、人の世界に寄り添い、人と共に生きている。
強大すぎる力を誇示する事は楽だ。
だが、強大すぎる力を示せば、人は怖れる。怖れ、その後に来るのは畏怖から崇めるか、それとも恐怖から討とうとするかのどちらかであり、後者を滅ぼす事を選ばないのならば距離を置くしかない。ルナは数百年ばかり人の住まう中で暮らしたが、その人の世界では強大すぎる力を振るったのは、その国を離れようと考えた時だった。
それまではルナの持つ力がどれほど強大なものなのか、それを悟らせる事はほとんどなかった。組織を潰せる程の力を持っている事は知られていても、国を相手取る事が出来る程、大貴族の軍勢に一方的に勝利出来るほどだという事は隠し続けた。
そして、今も表立っては隠し続け、共に生きている。
こんな事を想うのは。
「遂にここに来たか」
こちらの放った力を振り解いた水の三凶が困惑している。
そうだろう、ここは世界の外だ。
かつて我が父であった風の龍、大嵐龍王。そして、三凶を生み出してしまった地と水と火の三体。
彼らは消え去る時に、この宇宙の外にある本体から送り込まれた視線であり、耳だというような事を告げ、去っていった。その本体のいる世界に自分も来た、というより弾き出された。
誰が我々が融合した際に生じる力の上昇が足し算じゃなく、累乗だなどと思うものか!
……そう、累乗だった。お陰で、一気に力が跳ね上がった。
累乗、という呼び方を知らない者でも、二乗、三乗という数学のやり方は知っているはず。あれだ。実の所、力の桁が巨大すぎて推測ではある。何がどう作用してこのような結果になったのか、時間をかけて調べてみなければ今の段階では自分でも分からん。
まあ、あれだ。
「戸惑っているな」
暴れ狂っていた水の三凶が大人しくなっていた。
そりゃそうだろう。
さっきまで同格二体が一体を懸命に周囲への被害を抑えつつ、取り押さえようとしていたのが一転、二体が一体となっただけじゃなく、圧倒的強大な存在となっているのだから。逃げようにも、これだけ力の差があれば逃げられもしない。
というか……ぷちっとな。
「……呆気ない」
しかし、困った。
……これ、要は喧嘩した挙句、怒った世界に家から放り出されたって事じゃないか?
でもって……。
「……入るのには無理がありそうだ」
おまけに外にいる間にすくすくと育って、今、元の世界に入ろうとするのは犬小屋に象が入ろうとするようなものだ。
間違いなく許容量を超えて、世界自体を崩壊に追い込んでしまう。
しかし、入れないとなると……どうするか。
分身はいいだろう。このまま繋がりを持って、あちら独自に動いてもらえば。あれでも銀河の一つや二つ程度ぐらいならどうとでも出来る。あの世界が終わるまではそのままにしておけばいいだろう。
問題はこちらだ。
宇宙の外、世界の外。ここはここで、そんな生命なき世界ではない。そこらにゴロゴロしている訳ではないが、父龍達の生みの親がいたんだ。間違いなく、他にもいると考えるべきだろう。問題は、もしかしたらそれすら喰うような奴だっているかもしれないという事だ。
で、自分ってどの程度今は強いんだ?
元の世界からすれば規格外だろうが、世界の外では?
「まずはそっからだな」
で、こっちの家となる場所も確保しなくては。
何というか、強制的に独り立ちさせられた気分だな……。
本体は今後、宇宙の外から自分の立ち位置を探していく事になります
ですので、今後は中に残された分体中心の物語となる予定です




