分体、そして本体
結局、艦隊は戦艦が砲弾を弾き返されて、沈められた事で撤退した。さすがに、彼らの持つ武器で最大の威力を持つ戦艦の砲撃でさえどうにもならない事を知って、諦めたらしい。
上陸した連中だが、こちらは白旗を持った使者を派遣して、「素直に帰るので、残った者達だけでも引き取らせてもらえないか」と打診したようだ。甘いように思う者もいるかもしれないが、この大地に住む者達は「本当に帰るなら」とすんなり生き残りの者達を返していた。
この大地には奴隷なんてものはないし、魔法が使えないような連中、引き取っても手間ばかりかかって役に立たないと思ったらしい。捕まえたからって皆殺し!なんて考えもないしな。何せ、竜と戦って生きているこの大地の連中は互いに相争うという考え自体が既になくなって久しい。
どうしても決着がつかない場合は、互いが代表の狩人を選出しての試合を行う形式となっている。その試合とて狩人同士が戦うのではなく、定められた期間の間に、どちらがどれだけ立派な獲物を仕留められるか、という形で争う。
幸いというか、今回の侵攻は外部の者達はそうした作法を知らない者達という事で、厄介な巨竜扱いで狩人達は出撃してきた。
図体がデカくて、少数の狩人では手に負えない巨竜と呼ばれる大型の竜モドキが出現した時、狩人は互いに協力する形を持っていた事が幸いした。
……その後の事だが、撤退していった艦隊の連中は結局、さほど厳しい罰は受けなかったようだ。
意外ではあったが、まず彼らがきちんと映像を残していた事に加え、疑いつつも敗北自体は戦の常という判断が為された事が大きいか。トップの責任こそ問われたものの、処刑だのなんだのといった事にはならず、精々閑職への左遷程度で終わったようだ。
……もっとも、そこにはそれなりに生臭い話も絡んでいて、司令官が所属していた派閥がそれなり以上に力を持つ派閥だった事とか、責任を問うなら問うた派閥の側が何とか出来るという事を証明しなければならないだろう、という反論を受けた事が大きい。まあ、話を信じず、出撃した挙句に被害を拡大させたとなれば、中央大陸の住人の事を知らずに派遣された艦隊と司令官らより厳しい罰を派閥自体も受ける事になるだろうからな。
まだまだこの後も別勢力の侵攻とか、学者連中が起こす騒動とかこの後も騒動は起きる事になるのだが、それはさておき。
本体もまた力が増大しとるなあ……。
「本体の力が増大すると、分体のこちらも増大するのだが……」
一定の力を分けられて、固定されてるのではなく深い深い部分で本体と繋がっているからな。
今でも銀河一つ程度を担うのなら十分すぎてお釣りがくるのに、更に増えるとか。何に使えというんだ、こんな力。
詳しい事情を確認しようにも未だ激しい戦闘の真っ最中。あいつらとうとう時間すら無視し始めやがった……。
――――――――
などと分体が悩んでいた頃。
風である本体と地、水の凶を加えた戦いは大きく動いていた。
きっかけは「合体」を叫んだ地の三凶が自らを吸収する事を主張してきた事による。
「一体どういう意味だ」
『そのままの意味だ。我輩を吸収するがいい!!さすれば奴をも上回れよう!!』
最初は陰謀を疑ったテンペスタだったが……。
『我輩が与えられた至上命令は人の保護にある!!お主とは方法論の違いこそあれ保護という点では一致しておる!!』
けれども。
水は違う。
水の三凶は全てを滅ぼす事が主眼。断じて相容れる事は出来ない。
それが地の三凶の主張だった。
『だが、おぬしは引かぬと見た!!少なくとも時間がかかると!!なれば、我輩が引く!!さすれば我が至上命令は我が望む形とは異なれど果たされよう!!』
ああ、そうか、とテンペスタは悟った。
この地の三凶は徹底して目的の為に手段を選ばない存在なのだと。
だから完璧な保護の為に魂という形で脆い肉体を切り捨てる形を選び、そして今、水という保護出来ない存在を倒す為に自らを素材として提供しようとしている。
無論、これが地の側の陰謀という可能性だってゼロではない。吸収した後に、内部から抵抗されれば一気に戦況は水の三凶の側に傾く事になるだろう。
(そうした点では賭けになるな)
だが、今の状況はジリ貧だ。
力を好き放題に使って破壊を試みている水だが、破壊というのは止める方が難しい。
水の放つ一を止めるのにこちらは五以上を使っている。ならば。
「……いいだろう、やろう」
『うむ!承知!!』
そうして、次の瞬間、地の三凶は消え失せていた。
疲れ溜まってるのかなあ……
仮眠のつもりが完璧に寝込んでた




