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竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
126/211

分体との不幸なる遭遇

今年初の投稿になります

本年度もよろしくお願いします

 上陸部隊の壊滅。

 最初に上陸した部隊が必死に救援を求め、慌てて航空機を出すもまさかの「弓で落とされた」という報告。

 

 「ここまで来ると笑ってもいられん」

 「冗談だとも言っていられませんな」


 最初の一報が入った時は余裕だった。

 次報が入った時は「何をバカな事を。こんな時に冗談を言うな」と返す余裕があったが、入って来る情報のことごとくが原住民を『化け物』呼ばわりする悲鳴ばかり。極めつけは味方の援護の為に海岸近くまで近づいた駆逐艦に向けて放たれた矢があっさりと装甲を打ちぬいた事だった。

 一本二本の矢がたまたま突き刺さった、というだけなら「運が良かった」で済むだろう。

 だが、海岸からまだ千は離れていたのに飛来した矢によって文字通りの意味で穴だらけにされて、危うく沈みかけたとなれば話は別だ。そうして、実際に穴だらけになった駆逐艦を見てまで現実を否定する程、彼らは馬鹿ではなかった。

 事ここに至り、一人の参謀が彼ら自身は既に捨て去った魔法の存在を思い出した。

 彼らが魔法を捨てたのは安定性の問題だ。

 まず魔法は個人の魔力に頼り、これが一旦枯渇すると次に魔法が使えるまでに最低でも数時間は必要だった。これが新たな銃と弾丸を提供すれば体力の続く限り撃てる銃との違いだった。

 また、次第に伸びていく銃の射程に対して、魔法は射程が伸びなかった。刻印魔法は確かに軍として魔法を使う事を可能にしたが、それは同時に魔法の射程を伸ばす事も困難にした。なぜなら、威力を伸ばすにせよ射程を伸ばすにせよ、それは刻印を刻む為の板の巨大化を招いたからだ。人一人が背負えなくなるレベルに到達した段階で、人は刻印魔法板を捨てた。

 だが、捨てたとはいえ世の中には趣味人がおり、また破棄されない限り知識は残る。

 他大陸でも魔法はスポーツや娯楽として一部が生き残っており、思い浮かべた参謀もまたそうした競技の愛好者だった。


 ここで彼らは選択を迫られた。

 一つは撤退。

 だが、それは難しい。

 軍人達の一部は撤退した方がいいと考えてはいた。魔力切れまで追い込んで撤退させたとしても上陸先の大陸はあちらのホームグラウンド。単独で戦車を叩き切り、航空機を落とすような相手だ。夜の闇に紛れて数名単位で連日襲ってくるだけでもその被害は甚大極まるものになるだろう。下手に奥地に部隊を進ませたが最後、全滅しかねない。

 しかし、だ。どう説明しろというのか。


 『敵の反撃で我が軍の被害は甚大です!撤退許可を!』

 『なんだと!奴らどの程度の兵力だ!どんな強力な火器を用いて防御陣地を構築している!』

 『はっ!数百程度の歩兵で、剣や弓で武装し、白兵戦を挑んできております!』


 間違いなく「ふざけるな!」と怒鳴られるだろう。自分達でもそうする。

 三倍以上の兵力を上陸させ、戦車も揚陸に成功した状況で、真正面からの白兵突撃で全滅しかけているなど「どんな馬鹿げた戦い方をした」と呆れられるのが関の山だ。最悪、国に帰れば自分達は首を切られるか、最前線送りか……。

 となれば。


 「……砲撃用意」

 「!?し、しかし、まだ友軍の生き残りが!」

 「……いや、優秀な魔法使いは一度失われれば育成が極めて困難だ……奴らとて戦車すら切り裂けるような魔法使いなぞそう数はいないはず……」

 「で、ですが……」

 「捕虜となった者はいるかもしれんが、ここで奴らの優秀な魔法使いを一掃すれば……間違いなく我が方の勝利は大きく近づくはずだ」

 「それに本国が撤退など認めてくれるか……誰が剣や弓を持った連中に真っ向からの白兵戦で負けました、などと言われて納得するのだ!!」

 

 確かに嘘ではない。

 狩人は部族の勇者というべき者達。それらが失われれば、中央大陸側にとっては極めて大きな痛手となるだろう。

 銃では駄目だった。

 戦車も切り裂かれた。だが、戦車の攻撃が直撃すればどうなのか?航空機が落とされたといっても爆撃でも倒れないのか?

 ならば、戦艦や重巡による艦砲射撃、航空機も大型爆弾による高空からの水平爆撃にとどめればあるいは……。


 【間違いではないが、間違いだな】


 そんな声が軍人達の脳裏に響いたのはそんな時だった。

 

 「なっ、なんだ!?」

 「どこから!?」

 「!!あ、あれをっ!!あれをご覧くださいっ!!!!」


 一人の兵士が周囲の困惑する者達の視線を艦の外へと導いた。

 

 「な……」

 「なんだ、あれは……」


 その視線の先にいたのは、竜。

 もはや彼らの大陸でははやくも伝説の、物語の存在となった竜。

 それが一体。

 大陸と艦隊の間の海上に忽然と出現していた。結果、真下に位置する事になった上陸部隊の艦艇からは唖然とした様子で見上げる形になっている。

 しかも、巨大で尚且つ……。


 「美しい」

 「ああ……」


 思わずつぶやく者、何故か涙が出てきて祈り出す者がいる中。


 「こっ、攻撃せよ!!奴だ!!奴を倒せばきっと!!」

 

 そう叫ぶ者もいて。

 この瞬間、艦隊の指揮系統は一時的にだったが間違いなく混乱し、麻痺した。呆然と呟いた者や祈りを捧げた者が艦長など上の立場にいる者である艦は良かったが、攻撃しろと叫んだ者が上に立つ者であった艦はなまじ訓練された軍人だったからだろう、反射的に命令に従い攻撃を準備した。そうして、その中には二隻の戦艦も含まれていて発砲した。

 そして。

 空中を高速で飛翔した戦艦の大口径砲から放たれた巨大な砲弾が空中で停止し、飛翔した十倍以上の速度で跳ね返されるように正反対の、放った艦に向けて飛んだ。

 戦艦というものは自身の撃った砲弾で貫かれないだけの装甲を持っていると言われるが、速度が上がれば威力もまた上がる。すなわち、反射された砲弾は放った時を遥かに上回る破壊力を保有しているという事。何故か空気の摩擦にも一切影響を受けず、必然的に高熱で砲弾が空中で爆発とか溶けるといった事もなく正確に自身を放った艦へと帰還を果たした砲弾達はあっさりとその装甲をぶち抜き、そしてそこでようやく炸裂する事を許されたかのように爆発した。

 いかに頑丈な戦艦といえど、艦内で自身の放った砲弾複数が炸裂すればどうなるか……。

 その答えは片方が艦底まで打ちぬかれて、沈み。

 もう片方は弾薬庫に引火して轟沈する事で示す事になった。

 

 

今年が皆さまにとっても良い年となりますように

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