本体と分体のそれぞれ
今回は本体の状況と、分体の状況の半々です
竜と三凶の一体の戦いはますます激化していった。
しかし、同時に両者共に虚しさも理解していたからこそ、次第に戦いは沈静化し、再び対峙する形となった。
「意味ないな」
『まったくである!』
両者共に根幹にあるのは人族の保護だ。
ただ、そのやり方に差があって、それを両者が互いに受け入れられないだけで。
だからこそ戦い始めた訳だが、その根幹故に双方共に余力を残しての戦いとなる。何せ、全力でぶつかりあったら、双方共に周囲への被害を考慮している余裕はなくなる。そうなれば、被害はとんでもないものになってしまうだろう。
その被害を双方共に嫌うからこそ、余力、言い換えると手加減してしまう。
保護の為に隙が出来ても、その隙をついて攻撃しようともしない。そうなれば、保護に失敗してしまうからだ。
もちろん、本来なら保有するエネルギー総量とでもいうべきものは少しずつ減っていく。だが、この余力を残した状態で戦っていると、自然回復分だけで消耗を補えてしまう。ゲームでいえば、無敵状態のラスボスと戦っているようなものだ。
無敵状態を解消するイベント相応の事をするには余力を残す事をやめねばならない。
しかし、そうなると自分達の根幹にかかわる部分を放棄するも同然。それでは、そもそも戦っている意味がなくなる。
無意味すぎるからこそ、双方が戦いを停止させた訳だが、さて、どうするかと口を開こうとした瞬間、双方共にそれに気が付いた。
「これは」
『もしや?』
【我目覚めり】
空間そのものを振動させ、精神波としての声が響く。
急ぎ、テンペスタと地、双方がその精神波を打ち消す。彼らにとっては単なる声でも、通常の生物がそれを聞いたらそれだけで精神が崩壊しかねない。巨大すぎる音が鼓膜を破壊するように、巨大すぎる精神波は精神を崩壊させ、発狂に追い込む。少し運が悪ければ、死ぬ。
【我は全ての生命に慈悲を与えん。故に】
滅びという苦痛なき終焉を与えよう。
そんな声に似た精神波が響き渡った。
――――――
そんな頃、テンペスタの分体もまた呆れていた。
あの戦いの後、新王国は分裂した。
あくまで四代目の簒奪王を担ぐ勢力と、もう彼にはついていけないとする勢力に分裂した訳だ。もちろん、背後にはあの連中がいた訳だが……いやあ、口八丁も凄いな。さすが死刑判決を受けるほどの詐欺師なだけはある。そんな奴が粛清を生き残った貴族の生き残りと共に従者役で王に対する不満を持つ貴族の内懐に飛び込む訳だから……。
実に面白い事になった。
もちろん、離反した側の方が勢力は小さかった訳だが、そこは帝国とすかさず同盟を結ぶ事でカバーした。
帝国だって、王国の勢力を削りたいのは同じだからな。
かくして、北東大陸に帝国、南東大陸に新王国とそこから別れた正統王国とが成立した。
この後、大分遅れて西方大陸に連邦共和国、皇国、及び帝政連邦が成立した。これら五ヶ国は後に五大国と呼ばれる事になった。他にも小国レベルなら誕生したが、大国と呼べるだけの領土、人口を有していたのはこれら五ヶ国だけだったからな。
……これだけで争っている内は良かったのだが。
いつかはやると思っていた。
科学技術が発展していくにつれて、互いの距離は短くなり、やがて世界規模の戦争が始まった。
帝国、正統王国、皇国の同盟陣営と、新王国、連邦共和国、帝政連邦の連合陣営とに分かれての世界大戦だった。
さあて、この内、帝国は竜信仰が今も実質的な国教扱い。
同盟内部ではこの内、正統王国は帝国との長年の付き合いから自然と竜信仰も入り込んでいき、今では正統王国の民の半数以上は竜信仰。皇国は独自の宗教観を持っているが、同盟を結んでいる国を無駄に怒らせる気はないから、当然竜信仰の教団はきちんと敬意を払われている。
では、連合側は?
当り前だが、連合側は竜信仰の教団の活動は鈍い。
新王国は言うに及ばず、連邦共和国は宗教そのものを否定。帝政連邦だけが一応信仰の自由とやらを保障しているが、それでも新王国がカウンターとして成立させた偶像を持たない形無き神を崇める宗教が一般的だ。
そして、そんな連中が戦争になって、総力戦となった際に何をトチ狂ったのか、「同盟側の信仰の根拠地を攻めてやろう」などと考える連中が現れた。それに中央大陸を再び我らの手に!なんて連中が乗っかり、更に純粋に軍事的にも根拠地を設けるのは悪くないという連中が加わって、艦隊による上陸作戦を考えてきた。
まあ、一応まだまともな頭持ってる奴はこの情報を故意にリークして、慌てて出て来た艦隊を叩く!という作戦案を考えていたようだが……来るはずないがな。こちらからお告げという形で「手出し無用」という事を言っておいたのだし。
他大陸の連中は中央大陸に残った連中を甘く見すぎだ。
上陸作戦を開始、戦車などを揚陸した後になって現れた中央大陸の住人達を見て、連中は哂った。
一見すればそうだろうな。未だ剣や槍、弓といった武器を持ち、突っ込んでくる彼らを見れば。そんな彼らを科学で武装した連中は嘲笑し、銃と砲撃によって攻撃し、蹂躙が始まった。
ただし、蹂躙されるのは彼らの方だったが。
想像だにしていなかっただろう。銃撃を真っ向から弾き返し、全身鎧で覆った彼らが車に匹敵する速度で突っ込んでくるなど。砲撃に吹き飛ばされた者が空を舞って地面に叩きつけられながら、頭を振っただけで即座に復帰して突っ込んでくるなど。
おお、あいつ身の丈よりもデカい剣で引き殺そうと突っ込んできた戦車を真っ二つの開きにしてしまったぞ
当り前だが、そんな連中と接近戦に持ち込まれたが最後、どうなるかなど分かり切っている。阿鼻叫喚の地獄絵図と化している。
さすが。
竜の血が人に混じっただけの事はあるという事だな。
本体側には空間揺らぎすぎて、水が目覚めました
分体側は本体が火のエネルギー吸収したり、長々と話し合ったり、時間跳び越えたりしてる間に結構な時間が過ぎてました




