伝説の竜
夜や朝方の寒い時のコタツはいいですね!
問題はうっかり寝ちゃう事だけど……風邪に気を付けないといかんわあ
※11/21誤記修正
『やっと片が付いたので次に行く』
「おつかれさんでーす」
本体から連絡があった。
やっと最初の三凶の残りエネルギーの処分が完了したので次に行くらしい。予定では地の三凶だとか。まあ、火と地はまだ位置が分かりやすいからな。一番場所が分かりづらくて、面倒そうな水を後回しにして、分かる所から片づけていこうという事か。
「次も四、五十年ぐらいで片が付くといいですね」
『まったくだ』
次は火ほど簡単にはいかないだろう。
火は意志が滅びを容認していて、身体が勝手に自己防衛で攻撃してくるだけだった。
しかし、地は違う。確か……『存在するもの全ての行き着く先滅び。ならば我が内にて永遠の存在を与えん』とか抜かしていたはずだ。当人は救いのつもりだからどうしようもないが、要は取り込んで保存しようという事だ。
……生命であれば意志と魂だけ。
未来永劫、奴が存在し続ける限り、例え宇宙が滅びようとも完全なる闇の世界で狂う事も動く事も出来ずにただ存在し続けるだけ。それは【地獄】と呼んだ方が良いのではなかろうか?
おそらく、ほとんどの人族は自分がそんな場所に送り込まれる、それも一日二日ではなく千年万年でもなく、一万年を一万回繰り返してそれを更に一万回繰り返しても尚到底足りないほどの長い長い時間、眠る事すら出来ないまま孤独に過ごせと言われたら自ら死を選ぶのではないだろうか?
竜ならば良いだろう。
だが、人にはそれは無理だ。人はそんなものを救いとは呼ばないが、奴にはそれが理解出来ない。
それでも、時が過ぎれば理解してくれるのではないか、そう考えて地の爺様は封印に留めたようだが……無理だったみたいだな。変われたならブラックホールではなくなってる。
「さて、それじゃこっちはこっちで日課といきますか」
バサリと翼を広げ、空を舞う。
大陸間は一瞬だけ自身を光として渡り、世界を回る。
騒ぐ連中もいるが、こうして空を舞う事で人は竜という存在を忘れない。
中央大陸も随分と変わった。
かつてあった都市はいずれも自然に飲み込まれ、遺跡と化しつつある。残った者達だけでは巨大な都市は維持しきれず、そもそも都市というものは農業や林業、狩りに向いている場所ではない。自然と彼らは各地に村を作って暮らすようになった。
そうする中で鍛冶の技が失われた村はそれを補う為に石器や狩った獲物の骨や鱗を使って装備を作った。
農業技術も大きく失われ、種が失われた村は狩りと遊牧の道を選んだ。
そうして、放置された街や村は植物に覆われ、呑み込まれていった。家もだが、人のつくりしものという奴は存外脆い。人自身のメンテナンスがなければあっさりとその機能を失っていく。石造りの建物などは形は残るが意外な程放置されると生活感は失われていくものだ。
何が言いたいかと言えば、中央大陸から人の街という奴は急速に姿を消している、という事だ。
竜自体も変わった。
下位竜と呼ばれていた蜥蜴達にそれぞれ人は名前をつけ、新たな食料として、新たな素材として狩るようになっていたからだ。発展しかけた技術を捨てた事で彼らは魔法の力をより特化させ、自らを強化する道へと進んでいった。
かつてのような放つ魔法は使えない。
しかし、武器を強化し、肉体を強化して対象を狩る。下位竜達がその体を支える為に無意識の内に強化の魔法を使っているように中央大陸の住人達は無意識に強化の魔法を使うようになっていった。他大陸の人族が見たら到底、同じ人族とは思えない程に。
科学というかつて人が失った技術を再び取り戻しつつあるが故に神秘から遠ざかり、魔法を失いつつある他大陸の人族。
科学を捨てたが故に、神秘に近づき、魔法を特化させる事で自分自身の力としつつある中央大陸の人族。
それはもう別の道を歩き出した者達なのだろう。
「……結果として、こっちには手を出してこなくなったからいいんだが」
だからこそ魔力魔法、ひいては神秘の塊とでもいうべき一定以上強い竜には手を出してこない。
もっとも、ほとんどの竜王は眠りにつき、中央大陸の竜王なぞ片手で足りる程度の数になってしまったが。それを補うように特異な能力を持つ下位竜が現れるのだから面白い。
「……これはどうにかならんのか」
お気に入りの場所がある。
テーブルマウンテン、と呼ぶには小ぶり、岩と呼ぶには巨大な天に伸びるような岩の塊というべき場所があり、一月に一度はそこでまったりするのを気に入っているのだが、何時しかそこを眺める場所に神殿のようなものが出来てしまった……。
(いやまあ、ここが帝国だからなのだろうが)
建国時に手を貸したせいで、成立した聖竜教。
知恵ある竜を神の使いと看做し、崇める聖竜教。その聖地と化しているらしい。
(まあ、いいか。何か面倒がある訳でもなし)
テンペスタは知らない。
神にも匹敵する力を手に入れた当竜のお気に入りの場所が僅かな期間で【竜の庭園】となり、岩の麓に湧く泉が強烈な癒しの力を持つようになっていた事を。
故に、万病に効く奇跡の水として、そして初代皇帝が定めた「一切の身分と関係なしに神に選ばれた者達に神水を与える事」という法と伝統によって、テンペスタが訪れた後、巫女達によって汲まれた水が籤で選ばれた者達にその泉の水が与えられる為に、医者が匙を投げた者達が最後に頼る場所となっている事を。
そして、だからこそこの地に神殿が築かれ、崇められているという事を「人の営みには関与しない」と思って、心を読んだりしないようにしているからこそ気づかないのだった。
という訳で、戦い前の惑星でのテンペスタの分身の日常




