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竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
119/211

幕間:ある料理人のお話④

今回で幕間は終了

次回はまた本編に戻ります

 世の中、民衆ほどあてにならないものはない。


 例外もいるが、歓喜して独裁者を迎えた者達が都合が悪くなる、あるいは独裁者の行動が問題視されると「騙された」と叫んで自分達は被害者ぶる者達が多数存在している。酷い時には当時は喜び、あるいは普通にやっていた事を周囲が批判しだした為に、積極的に批判する側に回る事であたかも「自分は最初からあいつの行動を問題視してたよ!」とアピールする者だっている。

 何が言いたいかと言えば、結局新王国において、現王が指示されていたのはあくまで彼がそう見えるよう工作していたからだ。

 しかし、戦争を吹っかけ、それが敗退に終われば……それは分かりやすい失政となる。せめて、敗退するにせよ成果を上げた上での敗退ならばまた別だが、大損害を受けて何ら得る所なく撤退を強いられた、というのであれば……影響は巨大なものになる。

 なにせ、それで死者が出ればどうあっても誤魔化せない。

 死んだ者達には家族がいて、多数が帰って来なければ当然、それは噂として急速に広がっていくし、兵士というのは専業兵士以外は農民だったり他の職業に就いて働いている者達が大部分なのが現実。となれば、当然翌年以降の税にもその影響は及ぶ。

 更に、王自身の軍事力という分かりやすい抑制力が落ちる、というのも大きい。


 「とまあ、新王国をどうにかするなら民衆を動かすのが一番でしょうな」


 キーテスがにこやかにそう語る。

 マークもまた特にそれに異論を唱えたりはしない。

 残る男達はそれぞれに言いたい事はあるようだが、特に反論する様子はない。

 なにせ、彼らはいずれも王国に裏切られた者達だ。当然王国が痛い目を見る事に文句を言う気は起きないようだ。確かに、彼らが一番に恨みを持つのは現王だが、それを支持し、彼らが落ちるのに民衆も紛れもなく加担しているのだから。


 「という訳で、ひとつ要塞の向こうにいる王国軍相手に大暴れしていただけませんかね?」

 「意味不明」


 あくまでにこやかなキーテスに対して、ルナはいぶかしげな表情だった。


 「いえいえもちろん、意味はありますとも。先程聞いた話ですと、そちらは各地を美味を探して回られているとか?」

 「そう」


 ルナの短い返答に、うんうんと頷くと。


 「今の王だと今後も同じような事起きますよ」

 「……む」


 もし、ここで自分達、要塞の裏側に回った者達が壊滅したとしよう。

 しかし、所詮は自分達は王国にとっては犯罪者扱いの邪魔者、いなくなった所で痛くもかゆくもない。今回は上手くいかなかったとして撤退したとしても王国正規軍は無傷のまま。海軍は兵員輸送の経験を積み、大半の時間を睨み合っていただけにせよ兵士は実戦経験を積み、より手強くなる。消耗していないのだから、遅くとも二年以内にまた侵攻が行われるだろう。おそらく、今度はより大々的に。


 「……否定は出来ない」

 「ええ、出来ないでしょうな。まず間違いなく起こる事実ですから」

 

 より大規模な戦いになれば、その間の文化は滞る。

 それどころか、それまであった美味な料理さえ元となる材料の不足で代用食で補われるやも……。下手をせずとも、最悪本来の料理や調味料を作る技術そのものがその後の混乱期も含めて失われてしまう事すらあるかもしれない。


 「………分かった」

 「ご理解いただけて何よりです」


 渋い表情になったルナに対して、キーテスはあくまでにこやかな笑みを浮かべたままだった。




 ――――――――――――――――




 その後の事は簡潔に事実のみを記していこう。


 この翌日、要塞と王国軍の間に突如、黄金の巨竜が飛来した。

 中間地点に降りて、休んでいるように見える竜に対して、帝国と王国はまるで正反対の態度を示した。

 帝国はその成り立ちの為に、竜信仰の国だ。黄金の巨竜が飛来した事に吉兆の合図かと士気が上がり、崇める者も多数いた。

 これに対して、王国側は竜によって故郷を追い出された者達の子孫。当初こそ、竜への恐怖が勝っていたが、当事者が世を去るに連れ、次第に恨みを口にする者が現れるようになった。王国自体は竜の力を忘れてはならない、という方向に動いたものの、現王はそれすら王国の弱腰と糾弾し、当然即位後は竜に対して怒りを、恨みを煽るような対応に出た。

 結果、この時の王国軍は黄金の巨竜に対して攻撃を仕掛け……ものの見事なまでに返り討ちにあった。

 攻撃は一切通用せず、怒りに満ちた天空から豪雨の如く雪崩落ちた文字通り無数の雷によって王国軍の被害は甚大な死者を出し、潰走した。


 この敗戦の話は竜によって行われた、という部分だけが奇妙なまでに抜け落ちる形で王国全土にあっという間に広がり、竜という話自体も竜信仰を上げる帝国に、という形へとすり替わっていった。大半の人々は竜など見た事もなく、そちらの方が実感があったのだろう。

 かくして、ここぞとばかりにこれまで抑えつけられていた現王の反対勢力が声を上げ、それを現王が武力で抑えつける形を取った事から王国は急速に荒れてゆく。

 最終的には反乱から現王の打倒。

 王家は完全に象徴としてのみ残り、王国は王家を象徴として掲げる立憲王政へと正式に変わる事になるのだが、大貴族と呼ばれる貴族達も多くが加わって非常に手際良く行われた反乱は反乱勃発から現王の打倒までの期間は極めて短く、それは北の帝国もそれを機に兵を動かす隙すらなかったほどだった。


 「私に要求するからにはあなたにも動いてもらう。荒廃して、王国の料理文化が途絶えるような事があったら……」

 「ええ、もちろん、そこは大きな問題が起きないよう動くと致しましょう。我々も最初に大きなきっかけさえあれば何とでもなりますので。……現王は敵も多いのでね」 

最近ふと思い浮かんでロボ物を少しずつ書いてみてたり……


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