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竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
118/211

幕間:ある料理人のお話③

体が重い……

 「それで?私達だけ生かされたのは何故でしょうか?」


 苦笑しながら話すキーテスの横で、ワウリ伯爵家の生き残りであるマークもまた同様に頷いていた。この二人を含めた十名程が、他の百四十人近い隊員の全員が目の前のルナによって瞬殺されたにも関わらず生かされている。もっとも、平然としているのはマークとキーテスの二人だけで他の者達は皆脅え切っているが。その辺り、相当図太いというかどこか精神が壊れているのかもしれない。


 「あなた達は他の人達と少し違ったから」


 それに対してルナは相変わらず淡々とした口調だった。

 もっとも、その調子でも二人は平然とはしていても、油断はしていない。この調子で、オームを含む残る百五十名全員を殺し尽したのだから当然だろう。まあ、油断していようといまいと変わらないだろうとは思っているが……。

 

 「ほう?」

 「ワウリ伯爵家の事は聞いている。先王に忠義を誓っていて、現王に危険視された挙句の汚名を着せられての反乱だったね」

 

 ワウリ伯爵家の反乱は割と最近だ。

 初代の事を思い出して、ちょいと調べてみれば出るわ出るわ、現王の悪行の数々。

 暗殺、謀殺、濡れ衣を着せての処刑。ルナが知る限り、ここまでの暴君は過去、王国に現れた事がなかった。

 もっとも、ルナ自身は自覚がないが、長い王国の歴史の中で目立った暗君暴君が王国に存在しなかったのはルナという存在がいたからこそとも言える。

 何せ、暗殺に関しては一番一般的な食事に毒を盛っての毒殺という手法がまず使用不可能な状況。

 一度暗殺者が食事に毒を混ぜたせいで怒ったルナが以後暗殺者を王宮どころか王都へ入り込んだ端から送り込んだ暗殺組織ごと潰してきたせいで、暗殺組織が王家の暗殺どころか王都での暗殺自体を一切引き受けなくなる有様。

 おまけに幼い頃から馬鹿な行動をするような王子を徹底的に躾けてきた。

 普通なら甘やかされた王子や、子を溺愛する王妃がそうした厳しい対応をする相手を王宮から排除するような事もあっただろうが、ルナ相手ではそれも無駄。本来彼らがおねだりする相手である王自身がルナ相手では何も言えないのではどうにもならない。

 ルナが正式に王国から離れて、僅か一世代で王国がこの有様なのだから、これが人の現実だったとも言える。


 「ご存知とは……」


 もっともマークも目の前の彼女が伝説の料理長だとは気づいてはいない。

 気づいてはいないが、彼も自分の家がはめられた事ぐらいは知っていた。

 マーク自身も本来なら処刑される予定だったが、処刑の前に今回の戦争が始まったので隊長格として送り込まれただけだ。おそらくは現王やその取り巻きは元貴族という事でマークが囚人兵達に殺される事も想定していたのではないか。

 もっとも現実にはマーク自身がその危険性を悟って、名目だけの隊長格、物分かりの良い隊長として振る舞っていた事で何とか生き延びていた訳だが、それでも最後まで生き延びれるとはマーク自身が思っていなかったので、どこかで脱走するつもりではあったが。


 「つまり、冤罪だから私達は命だけは助けた?」

 「他の連中は本物の犯罪者ばかりだったからね」


 マークが他の面々に視線を向ければ、びくりと身を震わせるも黙っていたら殺されると思ったのか口々に自分の無実を訴え出した。

 騙された、本物の犯人に金を掴まされた官憲に捕らえられた、娘を要求されたのを拒絶したら拒否した役人に翌日、など色々だ。


 「成る程。……まあ、下は上を見て行動しますからね。王があれでは……」

 

 溜息をついたマークは続いてキーテスに視線を向けた。 

 当のキーテスはというと苦笑して、言った。


 「ご存知か知りませんが、私は『あの』滅竜教団の生き残りの子孫でしてね」

 「滅竜教団!?」


 マークが驚いたように言うと、他の者達もざわつく。

 もっともマーク以外の者達のキーテスに向ける視線は嫌悪を伴ったものになったが。ここら辺は滅竜教団が最後、悪名を一身に背負った形となったのが原因だろう。その点、マークはワウリ伯爵家という歴史ある貴族の家に生まれたからか詳しい事情を知っているようだ。

 

 「ご存知の通り、滅竜教団は最後は濡れ衣を着せられたようなものでしたからね。いやまあ、確かに竜と戦ってきたのは事実でしょうが、それ自体は昔は必要な事だった訳ですし」

 「そうだね。昔住んでいた所にいた下位竜とか言う大型のトカゲは獣同然で話通じなかったからね」

 「や、ご存知で」

 「私はエルフだから昔の大陸の頃から生きている」


 尖った耳をルナが見せると納得した様子だった。


 「そうですか。では滅竜教団の実際の行動も?」

 「知っている」


 彼らは現実には力不足を知り、上位の知恵ある竜にはまず喧嘩を売らなかった。その道の専門家ほど危険をよく知っているからこそ、迂闊なちょっかいや気軽に手を出したりはしない。

 その上で、彼らは少しでも楽に下位竜を討伐する為に研究と開発を怠らなかった。そんな中で生まれた対竜兵器と、大陸移住前の各国の状況、なまじ下位竜に楽に勝てるようになったからこそ、人の領域と生活が安定し、結果として人口が急激に増大しつつあった事、王国がだからこそ未開発の竜の領域を将来に備えて求めた事をルナはよく知っていた。 

 様々な要素が重なって、上位竜へと国が戦いを挑む事を決め、それに滅竜教団が協力し、その結果ああなった。

 ただ、濡れ衣云々とルナの肯定で生き残り達のキーテスに向ける視線も少し変わった様子だった。彼らも濡れ衣を着せられて、殺されそうになったのだから共感を覚えたのかもしれない。


 「それなら話は早い。滅竜教団そうした結果、幾つかに分裂しましてね」


 教団に属していた事を隠し全てを忘れて一般人に溶け込む道を選んだ者達、あくまで竜への復讐を捨てられず体一つで前の大陸に残る道を選んだ者達、権力者に技術を以て取り入る道を選んだ者達。そうして、その中には当然ではあるが、切り捨て、裏切られた事を恨んで復讐に走った者達もいた。

 

 「私の親達のグループは一般の人達を巻き込む無差別派には属していませんでしたが、都合の良い時だけ利用し、最後まで利用し尽くした王国には思う所があったようでして」


 幼い頃から散々言い聞かされ、恨みを継がされたという。

 大半の者はそれで犯罪者の道へ進み、何でも裏ギルドの中には元滅竜教団の者が作った物もあるとか。


 「ま、私はそうした相手かまわず仕事する連中とは相性が悪くて。金持ち専門にやっていたのですがね」


 だから魂があまり汚れていなかったのかとルナは納得する。

 金持ちにははした金でも、貧乏人には生きるか死ぬかの金となる事だってある。復讐の為に当時関わっていた可能性のある金持ちや貴族を専門にやっていたからこそ、そこまで薄汚れてはいなかったのだろうと納得しておく。

 ルナ自身が判断したのは魂と仮に呼んでいるものが濁っているかどうかだった。

 だから、殺した中にも「どうせこうなったからには!」と開き直って、冤罪だったのに濁った者もいただろう。ただ、罪の意識がないから濁るという訳ではないのがまたややこしい。


 「それで私達を生かして、どうするおつもりですかな?」


 まあ、その前に本題が来たようだが。

書き方、色々試してみてます

……今回、視点が変わって読みづらくないかな……

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