幕間:ある料理人のお話②
体調崩してしばらく読専になってました
昼夜の寒暖差が激しいだけに皆さんもご注意を……
王国が移転したのを機にルナは王国を辞する事にした。
新王国の初代王、二代目、双方にその旨を告げた時は寂しがられたし、ルナが竜である事を知らぬ二代目からは随分と引き留められたが初代王の「もう本当に長い事お世話になったのだ。ご本人の意志を尊重しようではないか」という言葉に折れた。
ただ、彼女に与えられた侯爵位自体はさすがに消すのはよろしくないという話になった。
二代目が言い出した事ではあるが、それ自体は新王国にとっては至極もっともな話。なにせ、王国の黎明期からずっとあった上、ルナの弟子が民間でも多数料亭などを開いている関係上、民にも知られている知名度は高い侯爵家だからだ。そんな家が突然なくなったとなれば、余計な騒ぎが起きかねない。
結果、離宮の料理人として仕事をしながら養子を取り、侯爵家当主はその相手が受け継いだ。今更その程度はルナにとっても誤差というのもあった訳だが。その際、正式に領地を与えて、今では普通の侯爵家だ。実質的に最初の当主はともかく、今の当主らは顔も知らない。
そうして、以後は竜の庭園も造らぬよう放浪する生活をしていた。もっとも、放浪自体はルナの趣味でもあり、飽きる事もない。
新たな食材。
新たな素材。
それらを用いた新たな調味料。
それを用いた新たな料理。
同じ食材、同じ調味料を用いても土地ごとに全く異なる料理が出てくる事もあるし、同じような料理でも微妙な違いがあったりする。
食べれないと思っていた食材が見事な食材に化けたり、とてつもなくクソ不味い料理もあれば、ルナでも満足させるような美味な料理があったりする。
ああ、この世界はこんなに食材に満ちている!それなのに。
「それを邪魔するなんて」
許せない。
新王国の軍事作戦?
知った事か。
そんな怒りを内心に籠めたルナの前に現れた運の悪い男が一人。
「おいおい、こんな所にこんなべっぴんさんがいるとはついてるなあ」
「……銃?」
男が肩に持っている武器は新大陸で急速に発展した武器、銃だった。この武器が新大陸で急速に発展した理由は簡単、竜がいないからだ。
銃は速射性では優れた性能を持つ武器だが、大きな問題を抱えていた。それは威力が一定であるという事。
中央大陸にいた時点で銃自体は開発されていた。でなければ砲などがあるはずもない。けれど、その一定の安定した威力というのが竜相手には下位竜であっても攻撃力不足に繋がった。かといって威力を高めると銃程度の大きさではもたず、それぐらいなら魔法や剣、飛び道具ではあるが直接発射する矢に触れる為に魔法を込めやすい弓が好まれた。
が、新大陸には竜もおらず、ごく僅かな例外以外には銃で十分対処可能な生物しかいなかった。
こうなると誰でも簡単に使えて、威力の一定する銃は爆発的に普及していった。更に、下位竜さえいないという事はこれまでのような分厚く頑強な防壁も不要となり、それらを建造する為にも用いられていた魔法の出番は更に減少した。今では剣や弓、魔法は先に述べた極一部の例外に対処する為の特殊部隊用の技能と化しつつある。
「うん?銃を知らねえのか?どこの田舎者だよ」
「この辺りの海にはそれが通用しない例外がいるのに少し驚いただけよ」
ああ、と嗤った。
「海になんか入る気ねえからなあ。盗賊団やってた頃も山で仕事してたからなあ」
「元・盗賊だったのね」
「おうよ、ライズ盗賊団頭目のオームっていや当時はそれなりに知られたもんだったんだぜ?」
なるほど、王国が死刑囚などの重犯罪者を恩赦を条件に送り込んだという噂は本当だったか。
「ついでに他の人達も出て来たら?他に二部隊程いるみたいだけど」
「……なんでえ。おい、お前ら、ばれてるみたいだぜ?」
そんなやり取りと共に周囲から一斉に雑多な装備をまとった兵士らしき連中が姿を現した。
「どうも、私はワウリ伯爵家に連なるマークと申します」
「私は、キーテス・サロインと呼ばれておりましたよ」
その中でも隊長格と思われる二人がにこやかに挨拶してくるが……。
「ライズ盗賊団は知らないけど……ワウリ伯爵家って言えば確か反乱を起こして取り潰された家ね。生き残りがいたとは知らなかったわ」
「キーテスは……確か、王家に詐欺を働いて捕らえられた大詐欺師、だったわよね?」
それにオームがちょっと悔しそうな顔になり、マークはおや?という顔になり、キーテスはちょっと苦笑した。
おおかた、自分だけは知らなかった事にちょっと悔しくなり、伯爵家の反乱を知っていた事に驚き、知名度が高すぎる事に苦笑したのだろう。知名度が高いというのは犯罪者にとっては裏社会でステータスであると同時に仕事がしづらい、という事でもある。山賊ならまだしも、詐欺師では知名度が高いのは余りありがたくない話なのだろう。
ワウリ伯爵家に関してはルナが貴族だった頃に少し知っていたからだ。とにかく美味しそうに食事をする人物だった、という程度だが。
「さて、それじゃあお前さんがこんな所をうろついてた理由を聞いていいかい?」
「そう難しい話ではないわ。……あなた達のせいで、この辺りの名物料理が食べられなくなってるのよ。だから貴方達に死んで欲しいだけ」
気を取り直してか声をかけてきたオームに対してルナがそう返答すると……。
呆気にとられた様子の直後に大爆笑が巻き起こった。
当然だろう、この場にはルナ以外には五十人からなる隊が三つ。百五十の銃口に狙われているというのによくもそんな気楽な事が言えるものだと、そう感じたのだろう。
「おもしれえ冗談言うな。どうやってだい?」
「こうやるだけよ」
その一瞬に、オームの顔は笑い顔から呆けた顔に、そして驚愕となり……しかし、声は発せられる事はなかった。上半身が粉微塵になって吹き飛べば出来るはずもないが。
爆発するように肉体が飛び散る音にようやっと瞬きほどの一瞬の間に距離を詰めたのに気づいて驚きの顔を浮かべる周囲にルナは宣告した。
「死ぬ覚悟は出来ているかしら?」
という訳で色々と新大陸事情などを
名前に関しては今回はちょっと遊びました




