第一の凶、火の語らい
『ほう?これはまた珍しい。このような場所に客とはな』
「ッ!?」
そんな声無き声が響いたのは突然だった。
『はは、体は眠ってはいても同時に我らは起きている。体は動かずともこうして声を届ける事ぐらいは問題ない』
「そ、そうか」
どうやら肉体と精神では異なるようだ。
『して、君は何かな?』
「そう、だな。一番近いのはあなたの後に生まれた存在、って所だろう」
聞く者が聞けば、何を当り前の事を、と思う答えだったが、相手はそれを正確に受け止めた。
『ほう、そうか。では君は風によって生み出されたか』
「そうだが……よく風だって分かったな」
『なに、私は三番目だったのでな。であれば後は一つしかあるまいよ』
なるほど、と思う。
どうやら、火は水と地がそれぞれに失敗した後で挑んだようだ。にしても……。
「意外だな」
『ふむ、それはこの大きさの事かな?それとももっと理性的ではないと思っていたかな?』
「両方だな」
火の図体は随分と巨大だ。
恒星というものは惑星に比べて遥かに巨大である事が多い。どう考えても惑星表面でこんなものが生まれるとは思えないんだが……。それに、ここまで冷静に話が出来る存在をどうして今は消えた四大竜/龍王達は「三凶」とまで呼んだのか……。
『大きさに関しては成長したからだとしか言えないな。これは私の特性にも関わっている』
「ほう」
『私は理性や精神の安定性という面では先に生み出された二体を反省材料にしただけあって相当マシだったようなのだが、特性が邪魔したのだよ』
「その特性とは何かを聞いても?」
はて、生まれて早々に封印されるような特性だと?
『簡単だよ。私は熱に対するブラックホールのような存在なのだ。それも普通のブラックホールとは違い、距離も際限なき、な』
「それは……」
最期は宇宙自体が熱を失い、死に至るという事か?
それは確かに放置出来まい。
『そして、この力において重大な事が一つある』
「それは?」
『制御出来ないのだよ、私自身にもな。封印された当初は哀しみもしたし、苛立った時代もあったが、今は納得しているよ。何よりこの状態でさえ私は熱を集め続けている』
だからこそ、黒く全てを吸い込む穴のような存在でありながら、高熱を持ち、加えてここまで成長したという。
なるほど、産まれて即行で封印される訳だ。封印状態でこれでは解放していたままだったらまずあの星自体が凍り付いて、遠からず消滅していただろう。というよりも、実際に本来ならそうなる所だったのをサラマンダーが全力で抑え込んで、それと並行して封印を施し、周囲への影響が少ないこの宙域に送り込んだという所か。
『そして大きな問題がある。だから君が来てくれた事は、間に合った事は良かった』
「ん?」
何か猛烈に嫌な予感がしてきた。
『私の能力というべきものは本能や自動処理に等しい代物でな。私の意識ではどうにもならんのだ』
だからこそ、封印した上でこの場所に放置されたのだという。
だが、確かにもし、コントロール出来るのならばこの精神覚醒状態ならば体を封印して能力を抑えている間に精神を鍛え直し、制御能力を身につけさせて……という方法を取っていただろう。それをしなかったのはどんなに精神面を鍛えてもどうにもならなかったから。確かにそういう事なら、惑星規模の制御を行う、という点では間違いなく失敗作だろう。
しかし、それはまさか。
『そう、分かったようだね。君からの破壊を精神である私は納得出来るし、むしろ推奨するのだが、肉体は勝手に防御や反撃を行ってしまうという事だ。そこに私の精神が介在する余地はない』
正直に言おう。
人風に言うなら、天を仰ぎたくなった。
「サラマンダーは何を考えて、そんな風に生み出したんだ……」
『私の推測も混じるが、多分彼らにとってただ力の強い存在を作るのは問題なかったのだと思う。問題は精神部分だとね』
まあ、それは理解出来る。
地と風もそうだったのだから、間違いなく力ある存在の作成は問題なかったのだろう。
『だから多分、サラマンダーは体と精神を別々に作ったのだと思う。精神に問題があるようなら破棄して、また別のを作るつもりでね。しかし……』
「そちらに夢中になっていたら体が予想以上に厄介なものになっていて、慌てて精神ごと封じてしまった、と?」
『そう。しかも、慌てたせいで精神と肉体を繋ぎ忘れた上、封印してしまったから、改めて繋ぎ直す事も出来なかったのだと思う。どうも彼らは本体のせいもあってか高次元存在にしてはどこか抜けていた、いや、彼ら自体を本当の意味で脅かすような存在や事象を経験した事がなかったから経験自体がなかったというか』
多分、私達を封印した時も、当竜自身の危険は感じていなかったと思うよ?だから、こうもいい加減だったんじゃないかな?
そう言われてしまった……。
ああ、なるほど。要はサラマンダーもそうだが、彼らにとっては人の未来とやらも、あの星の将来も、果てはこの世界自体が所詮は『他人事』だったのか。
「分かりました……やるしかないようですしね」
『そうだね。精神としての私はこの世界を滅ぼす事を望まないから、さくっとやってしまって欲しい所だね。お手伝い出来ないのは心苦しいが』
そうして、戦いの準備を整え。
『最後に。気を付けたまえ。先に生まれた二体は私より精神面で遥かに破綻している。地はまだ分かりやすいが、水は厄介だぞ』
そうして告げられた言葉は……なるほど、確かに厄介だと思わざるをえなかった。
という訳で
火の凶はこんなでした
ただ物理的に静止させるだけならまだいいんですけどね




