時過ぎて、闘い
十年という時間はあっという間に過ぎてしまった。
旧帝国に関してはお姫さんの最期の時には顔出したが、後は基本、顔を出す事はやめていた。
『竜と人は距離を置くべき』
そう決めたからだ。
結局、移住計画において、まともにそれを完遂させたのは王国だけだった。
移住の混乱が収まれば、当然移住しなければならなくなった事情に加えて、その可否含めて批評が起こるものだが、王国自身が数字を示して『竜の居住地域を奪わなければ、そう遠くない内に人類が行き詰っていた』事を明らかにした事や、移住計画を唯一まともに成功させた事から王国上層部への批判は事前に彼らが予想した以上に小さかった。
もっとも、それも当然だろう。
なにせ、その頃になれば他国の情勢も伝わっていたが、ブレイズ帝国の所も連邦も悲惨極まりない情勢だったからだ。
直前まで壊滅してなかったはずの連邦が、二十を超える小国家や都市国家レベルに分裂した上、移住に成功した割合は全人口の三割強という現実を見ればそれも当然だろう。
残り?
二割が海に消え、三割強が移住期限過ぎても続いた内戦で消滅し、残り一割ちょっとが文明崩壊状態で大陸に残った。
主だった、生き残った首脳陣や官僚、技術者が優先的に移動した上に虐殺まで起きた結果、残った人達では文明維持出来ず、では崩壊も当然だろう。
「でも、やっと調べられる」
ここまで長かった。
十年以上は人族の間で絶賛大戦争だったからなあ。
人族の間で争ってる限りは我々はもう「好きにしろよ、もう……」てな気分だったので放置していた。
結果、王国は大半が移住し、連邦は内戦繰り返して国外脱出成功組除いた連中が更にそれを理由に内戦続いて……で、帝国は錯乱状態で逃げ出した結果、自滅。
最終的に大陸全土の人族の人口は一気にかつての二割程度まで減った。おまけに農耕の割合が壊滅的……そりゃまあ、土地で耕してれば移動出来ない分、巻き込まれる率高かったからな。結果、土地を捨てて逃げだすか、それとも殺されるかの二者択一になって、畜産まで土地に拘れないから遊牧に……。
今じゃ、この大陸の人族は遊牧と狩猟を中心とする複数の部族によって構成される形に変わってしまった。
一方、流れ着いた民をも吸収した北東大陸の帝国、南東大陸に順調に国を築いた王国が覇権を握りつつある反面、西方大陸は都市国家レベルの小国家群が乱立していて、統合戦争という名の内紛が幾度となく繰り返されて、到底まとまる様子はない。まあ、西方大陸の場合、その大半が連邦で敵味方に分かれていた者達の子孫で、恨みを引きずった上にその後も延々と戦争続けた結果、互いに恨み骨髄という状況が至る所で出来上がっているんだから、もうどうしようもない。
と、ここまでなるのにおおよそ五十年ほどかかった。
帝国のお姫様が亡くなったのはおよそ四年前。急激な人口の増大と、治安の悪化、更にかつて帝国を滅ぼした王国が南の大陸に移住してきたという脅威の存在を知った事による軍拡と心身をすり減らした結果、七十を迎える前に亡くなった。まあ、早死にというほどではなかろう。
「先代達の遺した負の遺産、見つけるのに本腰入れられたの最近だからなあ…」
自分の前に生まれた失敗作。
問題は力だけは成功してたという現実。
おおまかな情報は遺された知識によって分かっていたが、何分広くて絞り込みに時間がかかった上、増大した力の制御の練習もしないといけないからこんだけの時間がかかった。
火のサラマンダーの失敗作。
別星系の恒星そのもの。
水のリヴァイアサンの失敗作。
揺蕩う次元の狭間に揺らぐ不定形生命体。
地のベヒモスの失敗作。
生ける超高速移動型ブラックホールもどき。
いずれも眠りにつきつつも、半覚醒状態で自らの束縛を振りほどこうとしているらしい。
放置していても解放されるならば、まだ封印が残っている内に、各個撃破していくべきだろう。というか、三体まとめてとかになったらさすがに死ぬかもしれん。封印が成功したのは、いずれも生まれたばかりの所に即座に封印が為されたからにすぎない。
テンペスタと名乗る自分自身がそうであるように、半覚醒状態で長い時を過ごした今ならば、例えかつての四大竜/龍王達でもそう簡単には封印出来まい……。
つまりそれは自分の苦戦確定にも繋がる訳で。
「どうせなら、三体まとめて本体とやらの前へ放り出してくれれば始末してくれただろうに」
という訳で。
とりあえず、一番厄介度が低そうで、一番近場にある火の遺産、恒星へと向かった訳だが……。
「なんじゃこれは」
ああ、もう。
見ただけで、これは異常だと分かる。
明確に熱を発し、見えているのに黒い。
そして、もう一つ。
明確な怒り。全てを焼き尽くさんとせんばかりの膨れ上がった怒りと、そして。
「見ているな」
どうやら奇襲とはいかないようだ。
半覚醒状態における眠りの状態。うとうとしている時に、敵意を持った奴が近づけばどうなるか……。
さて、一体目と開戦だな。
という訳で、三凶一体目




