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竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
109/211

戦争後:王国編

※今回は世間的に真っ黒な展開があります


王国での対応状況

次回は連邦側を描きます

 敗北の後、王国で密かにある噂が広がっていた。


 『おい、聞いたか?』


 という奴だが、大本を辿って行っても誰から聞いたかなどもう、誰にも分からなかっただろう。

 竜への敗北、そして国家規模での移動。それに不満を抱く者は多かったが、その矛先はその噂によって、次第に王国上層部ではなく、ある組織に向かうようになった。

 ある意味分かりやすくはあっただろう、何しろ、その組織は『竜を滅ぼす』事を公然と掲げていたのだから。

 そう。

 滅竜教団だった。

 

 当り前だが、滅竜教団側もそうした刻一刻と悪化する空気を、自分達に向けられる刺々しい空気を感じ取っていた。

 問題はそれを感じ取っていても、彼らにはそれに対してどうする事も出来ない、という事実にあった。

 もちろん、教団側も黙っていた訳ではなく、協力関係にあった王国側に対して対応を求めもした。しかし……。


 『現状では滅竜教団には竜の討伐の放棄を宣言してもらわねばならない』


 という回答が返って来た。

 人が竜に敗れたのは事実だ。

 教団が竜を滅ぼすと公言しているのも事実。

 それが民衆を刺激しているのだから、それを捨てる事を宣言してもらえれば対処出来るかもしれない、もらわなければ王国側としても対応しきれない。それも分かる。

 そして、同時に教団の誰もそれを捨てる事が出来ないのも事実だった。そもそもそれが出来たなら滅竜教団なんて入ってない。それは、竜との対峙を理性を持って行っている上層部ですら同じだった。彼らもまた滅竜教団の一員である事から分かるように最後の一線とでも呼ぶべき、教団の存在意義を捨てる事は出来なかった。

 

 かくして、やむをえず滅竜教団側は危険を感じたとして、自らを守る為に閉じ籠り、武装を整える。

 一方、民衆は門を閉ざし、武装を振りかざすその姿にますます危険を感じ、それと同時に怒りの矛先を彼らへと向ける。

 互いの間に膨れ上がる悪感情が現実の衝突に繋がるまでにそう時間はかからなかった。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇




 「そうか、始まったか」

 「はっ」


 国王である私は淡々とした口調で、滅竜教団と民衆の武力衝突の報告を受け取った。

 今の私に感情をあらわにするような事は許されない。


 「技術者は保護しているな?」

 「はっ、それぞれ造船所や研究施設に隔離して、研究させております」

 「ならばよい。暴徒達を造船所などに近づけるな」

 「承知しております。そちらには資材の輸送部隊含め厳戒態勢を取っております」


 王国と連邦の連合軍が竜に敗れた時、我々がもっとも恐れたのが民衆の怒りが国に向かう事だった。

 自分達の身が危険になるというだけでなく、これから十年の間に国民の大半を移住させるに足るだけの船の資材を集め、それを運搬し、船として完成させるにはどうしても統一された指揮系統が必要だった。だが、王国上層部は誰も「民衆もそれが分かれば冷静になるだろう」などという甘い期待は持てなかった。期待というのは根拠のない願望にすぎない。願望にすがって、対応を取らないなどという事はありえない事だった。

 かといって、武力で抑えつけたとしても不満は底に溜まる。

 そうして、溜まりに溜まった不満は何時か爆発する。

 一旦、周囲の熱気に巻き込まれて爆発、暴走を開始した感情は、冷静に考えれば分かるはずの理性などあっさりと呑み込む。それならば、その暴走を自分達の望むように少しでもコントロールせねばならない。最低でも移住計画に支障がないように。

 その民衆の怒りのはけ口、我々が生贄として選んだのが滅竜教団だった。

 密かに噂話、という形で話を酒場などで語らせ、地方では吟遊詩人を装わせた密偵に詩の後の雑談という形で話を流させ、民衆が集まって相談をしていればそこで不安を煽り、教団へと敵意を集中させ、我々に矛先が向かぬようにしてきた。


 「哀れな気はしますな」

 「仕方あるまい。必要な事だ」


 そう必要だった。

 もはや、竜に敵意を向ける事は出来ない。それは破滅を意味する。

 かといって、他国にそれを向ける事も出来ない。それは互いを弱らせ、共倒れに導くだけだ。

 

 「きっと私は地獄に落ちるのだろうな」

 「心配しないでください。どうせ我々は皆同じですよ」 


 そうだな、と部下達と乾いた笑い声をあげる。 

 既に敗北の詳しい話と合わせ、竜の強さへの不安は滅竜教団の件と並行して進めている。後は適当な時期を見計らって、「新大陸には竜がいないと確認された」という情報を発表すればいい。それで民衆は雪崩を打って、「竜のいない」大陸への移住を熱狂的に進めるだろう。

 そう、どのみち滅竜教団には消えてもらわねばならなかった。

 新たに移動する先に竜がいないのに、滅竜教団という強大な武装集団をそのままにしておく訳にはいかない。

 かといって、このままにしておいたらどうなるか?自暴自棄になって、竜へと最後の戦いを挑んだ挙句、竜達に我々まで攻撃されたらたまらない。


 (まったく。国の運営には真っ白ではいられないとはいえ業の深い事だ)


 これで、邪魔となった教団の処理、敗戦と移住に対する民衆の不満のはけ口と一石二鳥ではある。そんな事を考える自分の心が冷えていく気がする。我が子も後を継ぐ気ならばこうした表に出せない仕事からは逃れられない。 

 ……心の冷たさを自覚したからだろうか。なんだか無性にルナ姉の温かい食事が食べたくなった。 

という訳で、スケープゴートを造り、それに民衆の意識を向けさせることで一時的な逃げ切りを図ってます

当人の弁護をするなら、移住後自分自身は王位を退くつもりじゃあります。けど、今は大量の船舶建造とその移住計画の立案その他諸々、強権をもって実行する組織が必須で、しかも、それを今から一から作ってる余裕はないのでこうした方法を取っています

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