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竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
105/211

竜王戦場3

再び戦場へ

 暴れまくっていた膨大な根がピタリと停止した。

 ある兵士は正に槍のように眉間に根の先端が突き刺さる寸前でピタリと停止した。

 

 「え?」


 ある士官は巨大な鞭のように叩きつけられて吹き飛び、呻きながら見上げる眼前でトドメをさすように振り下ろされた瞬間に停止した。


 「……な、に?」


 ある上位竜は抵抗虚しく巻き付かれ、締め上げられる中、突如として締める力が停止したのを感じた。


 『なんだっ?』


 一瞬の空白が生まれていた。

 ほんの先程まで暴走したと思しき無数の根が荒れ狂い、人も竜もお構いなしに襲い掛かっていたのが凍り付いたかのように停止したからだ。

 根が停止した事で、人も竜も動きを止めた。

 いや、正確には何か自分が声を出したり、下手に動いたりしたら再び襲い掛かって来るのではないかと根拠なき怖れに襲われて、動く事も声も出せなかったとも言う。戦場とは思えないような静まり返った一瞬がそこにあった。

 その一瞬の硬直もすぐに解けた。再び根が動き出したからだ。ただし……。


 「なに?」

 「なんだ?」


 誰もがそんな声を上げた。

 全ての根が狂ったかのような勢いで空へと向かったからだ。

 思わず、といった様子で誰もが空へと視線を向ける。そこには竜も人も、そして人は竜の側についた者も、連合軍の側も、お偉いさんも下っ端も関係なかった。

 空中には全ての根が向かっていた。結果として、空に巨大な根で出来た球体が生まれつつあったが、誰もがそこに感じていたのは恐怖ではなく……。


 『まるで怯えているみたいだ』


 という事だった。

 何に?

 決まっている!


 パキン、と。


 静かに音が響いた。

 無造作に。至極無造作に球体から翼が広がっていた。

 その根の一本一本がどれほど厄介なのか、強靭なのか、それを誰もが知っていただけに信じられないような思いで見つめていた。そう、それが激しい抵抗の末破られた、というならばまだ理解出来ただろう。根の塊が内側から幾度も内側から殴りつけられたように膨れ上がって、抵抗していた末にやっと破られた、というならばまだ理解は出来る。

 だが、それは一瞬だった。

 ほんの一瞬で、薄い卵の殻を大人が叩き割るように無造作に翼が広がったからだ。ましてや、その翼に幾度も再び根が絡みつこうとして、果たせずにいる光景に呆気に取られていた。

 あれは魔法なんかの根幹、属性を吸い取るのではなかったか?

 ほんのつい先程まで、大空を舞うかの御仁も手を出しあぐねていたのではなかったのか?

 そして、ほんの一部の根から解放された上位竜はそれに気が付いた。


 「翼が……違う?」


 先程までのテンペスタの翼は生物の翼に鉱物らしき塊が骨格部分についている、といった印象だった。

 だが、今見える翼は更に一回り以上巨大になり、何より蝙蝠のような被膜から羽根へと変わっているかのように見えた。そう、見えた、だ。目のいい竜達はその羽根の一枚一枚が全てそうした形状の鉱物めいた何かで構成されている事に気づいていた。

 そうして、ゆっくりと。

 再び、無造作に根が砕かれながら、首が持ち上げられる。

 姿を現していくと共に、根は枯れ落ち、砕けてゆく。

 どんな植物にも言える事だが、植物とは栄養が少なすぎても枯れてしまうが、水や栄養をやりすぎても枯れてしまう。

 そう。

 もう気づいたかもしれないが、無造作に周囲へと余波として放出される膨大極まりない力だけで根は限界を超えた栄養を受け取った形となって枯れていく。

 周囲を取り囲んでいた根が立ち枯れていき、自重で崩壊してゆくにつれて姿を見せてゆくテンペスタに自然と誰もが頭を下げた。

 それは竜という一個の生物という相手に対してではなく、理解を超えた何かに対する敬意か、それとも畏怖だったのか。


 『』


 声ならぬ声が辺りに響き渡った瞬間、蝕樹竜の伸ばしていた根は全て砕かれた。

 後に残されたのは火の竜王を呑み込んだ本体がどこか怯えるようにして地に残っていた。

暑いので、クーラーかけっぱなし

……来月の電気代が怖いが、体調壊すよりはマシ

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