四大の昔語り2
暑いです
クーラー利いた部屋から、火を使う台所とかに移動すると蒸し暑さが半端じゃない…!
『ただ、我らにも想定外はあった』
その最大の理由は人族と後に呼称される彼らが竜という存在に対して恐怖していた事。
『分からぬでもないが』
人族の側からしてみれば、「もうこれで終わりか」と思っていた所に垂らされた蜘蛛の糸だった。
傍にありながら、降り立つ事の出来なかった惑星が住めるようになったのはありがたい話だった、話だが……問題はそれを為したのが自分達ではない、という事にあった。
考えてみてほしい。
ある日突然、超巨大な高次元生命体としか解釈しようのない相手が目の前に現れて、自分達の全盛期でも出来ないような惑星改造を一夜でやってのけて、「さあ、どうぞ」とにこやかに提供してくれた。そんな相手と一緒に暮らすという状況を。
(……無理だな)
『うむ、無理だったようだ』
もちろん、ありがたい話ではあっただろう。船はもはや動かず、物資も限界が刻一刻と迫りつつあった状況。人族はそのままではそう遠くない内に滅びるしかなかったのだから。
しかし、感謝と恐怖は並び立つのもまた事実。
『一つには気紛れで改造したのなら、また気紛れで元に戻してしまうのではという思いもあったようだ』
(なるほど)
だが、怖ろしい、と感じる大きな理由の一つは「分からない」、という事がある。未知、というものは心を色々な意味で動かすものだ。好奇心であったり、恐怖であったりだが良い方に働く事もあるが、悪い方に働く事も多い。
今回の場合は、なまじ圧倒的な実力を示しただけに恐怖が先に立ったらしい。
だが。それならその「未知」の部分をある程度解消してやればいい、と判断し、その為、意志の通じる相手である事を証明するという意味でも初期の竜王達は用いられた。となれば、当然人形のような受け答えをするような相手ではなく、ちゃんとした意志を持つ生命として成立させる必要がある。だからこそ、竜王達には魂を創生し、人の感覚で長い時間をかけ、人と竜が共存する時代があったのだという。
(いや、魂って作れるのか、存在するのか)
『理解してしまえば簡単だぞ』
(あんたらレベルではそうなんだろうな)
とはいえ。
『もっとも、人がそれに慣れるに連れて、距離を置くようになっていった訳だがな』
『何時の時代も変わらんが、相手に慣れると騙して、利用しようという馬鹿者が出てきてな』
(ああ……)
確かによくある話だ。
そして、それで相手にばれて怒らせると、さも自分が被害者のように装うのもいつもの手だ。
もちろん、ばれて呆れた目で見られたり、騙そうとした者が怒られる事もあるが、中には自分が被害者だと騙し通す事に成功する者もいる。或いは、分かった上で、そうした人物に同調して、騒ぐ信者や取り巻きのような輩もいる。
結果として、竜と人が傍にいた時代は短く、人と竜は互いに一定の距離を置いて生きるようになっていく時代が訪れた。
『まあ、我々からすれば騙そうとしたのも人が竜に対する恐れが薄れた、という証であるからよしとしたのだが』
(呆れはしたけど、目的は果たせたと判断した訳ですか)
そうして、やがて距離を置くのが当り前の時代となっていった、という訳だ。
この間に、他の大陸も調整を進めていった訳だが、元より星自体が彼らの母星よりも相当巨大な星であった上、最初期の人族の数が少なかった事もあってこの大陸から未だろくに出て行った者がいない、というのが現状らしい。
球の表面積は4πr2。
すなわち、元の母星の半径を1とし、それが倍の惑星であったとするならば人族の母星の表面積が4πであるのに対して、倍の惑星は16πとなり、実に表面積は四倍となる。実際にはこの星はもう少し大きいらしいので表面積はおおよそ五倍ちょっとになるらしい。
結果として、現在住んでいる中央大陸だけでも人族の故郷の星。そこにあった全ての陸地を合わせた広さを上回るらしい。
『だが、最大の想定外は……』
魂まで創ってしまった為に、竜王達が子を為し、更に大気に結果的にまき散らされる事になった惑星改造を行った際に用いられた力の名残、仮に竜の因子とでも呼ぶが、それが結合し、やがて様々な下位種の竜、更に上位種、新たな竜王。そして魔法という形で結実してしまった事だった。
そうなってしまうと下手に竜の因子を消す事は出来ない。おまけにその力は竜達が増えるに連れて増えていき、それに連れて魔法も強くなり、更には人族そのものが竜の因子を生産するようになっていった。どうやら魔法を改造する過程で竜の因子を取り込み、生産する機能が備わっていったらしい……人族にしてみりゃ魔力を生み出す器官なんだろうけどな。かくして、この星は竜の惑星へと、竜がいる事が当然の星へと変わっていった訳だ。
そうして、世界は変われどそれでも四大竜/龍王を含めた最初期の竜王達は己の役割を果たし続けていた。
『例えば、今、お前が戦っていたのはそうした最初期の竜王が作った素材を用いた人形だったが……』
『あやつはこの星の植生を一部、正確には最初に人族が降り立ったこの大陸限定だが早めていた。そうしなければ食料生産が足りなかったのだ』
『まあ、管理者のおらぬ他の大陸は通常の速度だがな』
(ああ、そういう……)
どうやら、この大陸の植物などの生育が異常な速度であったのは単にそうした専門の竜王が最初から配置され、未だその役割を果たし続けていたからのようだ。
(あれ?そうするとそうした竜王を倒したとしたら……)
『遅くなるだろうな』
『最初期の竜王達はいずれもが役割を終えつつある。この星は我らが抑えている以上の現象は本来ありうる自然現象の範囲にとどまりつつある』
『それ以上の制御はそれこそ余計な行動であろうよ』
例え、その自然現象の結果、数百数千が死んだとしても。
過去人族が少なかった時代には大事に大事に守ってやる必要があったかもしれない。けれどももうそれは余計だろう。
自然災害で人が命を落とす事は哀しい事ではあっても、それもまた自然な事だと彼らは判断しているようだ。
『だが、まあそうもいってられん事もある』
『ほかでもない、我々が管理しているものだ』
やっぱりそれかあ……。
書きたい事一杯あるのでなかなか終わりませんね……
何とか次回で……一話が長めになりそうですが、昔語りは終わらせたいと思ってます




