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竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
102/211

四大の昔語り1

 『そも人族、その祖は全て同一なのだ。人だろうが、エルフだろうが、ドワーフであろうがな』

 (はっ?)


 どういう事だ?


 『彼らは元々、この星で生まれたのではない。別の星で生まれ、発展した種族だった。やがて故郷となる星を飛び出し、数多の星を領地として暮らせる程に』

 (それは……)


 つまり、それって星間航行技術を得て、惑星改造して移住出来るぐらいの技術を得たって事?


 『その通りだ。そして、発展した彼らは戦争によって全てを失った』

 (……星間戦争ですか)

 『そうだ』


 それは星を砕き、果ては恒星すら滅ぼす程の激しい戦いだったという。

 四大竜/龍はその大本が何であったのかは知らないし、調べようともしなかった。一つだけ知っているのは今、この星にいる彼らがそれから逃れてきた難民だったという事だ。


 『戦いを逃れた彼らは安住の地を求め、流離った。その過程で人を形作る設計図そのものにも手を加えたのだ』

 (遺伝子改造ですか)

 『そうだ。この星の住人達が古代のハイヒューマンだ、ハイエルフだなどと呼んでいる存在は、そうした生きる為にあらゆる手を取ったその果てに過ぎないのだよ』


 そうして、歪なその改造が必要なくなった後、改造されなくなった種族は緩やかに元に戻っていった。

 一部だけが適応して残り、それが現在の多種族、エルフであり、ドワーフであり、獣人となった……。


 『だが、星を改造するだけの技術を既に失っていた彼らは、改造せずとも暮らせる星を探すしかなかったし、それは極めて困難な事だったのだ』

 (でしょうね)


 星を改造出来るならいいだろうが、そうでないなら難しい。

 彼らには千度の気温の中で生きる事も出来なければ、百気圧の下で生きる事も出来ない。

 惑星自体は多数あれど、中にはほとんどの条件が整っていたとしても星が一際巨大であったなら重力が増す。倍の重圧でも暮らすのは困難を極めるだろう。


 『そうしてあてのない放浪を続けた彼らの船はこの星の衛星で遂に力尽きた』

 (寿命ですか)

 『そうだ。どんなに延命しても限界はある。そうして、彼らにはもう新たな星を渡る船を造るだけの技術も資源もなかったのだよ』

 

 だがこのままでは滅ぶ。 

 そんな彼らは最後の手段を取った。

 ほんの僅かな、雲をつかむような極小の可能性に賭けて、出力を強化した、かろうじて残った叡智を掻き集めて改造した恒星間通信を最大出力で発信し、助けを求めた。そして。


 『それは偶然にも我らの本体、宇宙の外側を生きる命に届いたのだよ』


 神でも何でもない。

 ただ、宇宙の外側を生きる生命の一つ。

 一つの宇宙の中で生きる我々には想像もつかない途方もない悠久の時を生きる存在だが、同時に文化など何も持たない。集団を構築などしない、する事が出来ない程度の極小の数しか存在しない為に持てるはずもない。何せ、彼らには表現の場すら存在しないのだから。

 ただ、宇宙の種とでも呼ぶ泡が生まれる虚無が存在する空間を泳ぎ、宇宙にとなりきれなかった泡をそのエネルギーごと喰らい生きる命。

 無限に生きる中で叡智と力だけは莫大なものを持てど、それを発揮する機会を持たず、発揮する意志もない、ただあるだけの生命は僅かに届いた声ともつかない何かに微かな興味を持ち、この宇宙へと欠片を投じた。

 

 『それが我らだ』

 『もっとも、当の本体からすればまだ人で言うなら瞬き一つすら終えていない程度の時間すら過ぎていないだろうがな。無数の宇宙が生まれ、滅びる時間すら一回の食事、その間の時間に過ぎんのだ』

 (感覚が根本的に違うんだね)


 そして、意志を持つ探査機とでも呼ぶべき父龍達は、人族の祖達の持つデータを元に竜という姿を形作り、介入を選んだ。

 竜を選んだのは彼らの持つ伝説の中でも力の象徴だったから。

 介入を選んだのは折角、声が届いたのに無視するのも何だという単なる気紛れから。

 何千年かも分からない時を共に過ごしたのはただ四大竜/龍の本体からすれば宇宙一つの始まりと終焉すらほんの少しの時間でしかなく、数千年という時間すら本当に一瞬に過ぎないから……。

 だから、四つに別れて星を抑えた。

 父は当時荒れ狂っていた秒速数百メートルという嵐を抑え、抱え込んだ。そして、その残り香は未だ暴風となって吹き荒れ続けている。

 リヴァイアサンは大気に満ちていた毒を、海に満ちていた毒素共々呑み込んだ。それらはリヴァイアサンが未だ消化しきれず、動けないままでいる。

 サラマンダーは星の何百度という温度を、大地を満たしていた溶岩共々熱として抱え込んだ。今も熱の制御を行い、それが噴き出さんと暴れる大火山を制御し続けている。

 そして、ベヒモスは人族の母星のそれと比べ、十倍にも及んでいた重力を軽減させた。星の重量の内、一部を地表へと、更には己の背へと物質として現出させると共に、人族そのものの重力への適正も少しずつ上昇させている。

 スーパーアース、そう呼ばれる巨大な岩石惑星、その惑星を彼らは改造し、人族が降りたち、暮らせる地へと変貌させた……それ自体は人の祖が元々持っていたものだ。ただし、それに要する時が圧倒的に短かっただけで、それが最も重要だった。

 この星の時にして一夜。それだけで暴風吹き荒れる灼熱の星は人族の祖が降りたてる程の、遺伝子改造も必要のない普通に暮らせる地へと変貌を遂げていた。


 『それが始まりだった』

  『そう、始まりだった』

 『だが、終わりではなかった』


 大規模な惑星改造は彼らが為した。

 だが、細かい問題は多々発生した。

 植生もだし、必要なプレートテクトニクスによる大規模な火山もそうだった。前者はともかく、後者もそれ自体は必要な事だ。生命の維持に必要な物質の循環が滞ってしまう。そうした四大竜/龍にとっては細かな事を処理する為に生まれたのが……。


 (最初期の竜王や龍王達…)

 『その通りだ』


 その際に、四大竜/龍達は彼らに制約を設けたという。

 この星で生きていく人族に対し、自分達は何時か去る存在。大本の本体から分けられた仮初の分身たる自分達に対して、人族は今あるそれが本体。だからこそ、間違っても滅ぼすような事はするなと制限をかけた。もっとも当の四大竜/龍自身はかけた側だからこそか、強制的な制約ではなく、自身の心のみが制限であり、やりすぎてしまう所はあったようだが。

 と、同時にだからこそ、滅ぼすような事、すなわち星を砕くだけの力を発現出来るというテンペスタの行動、それ自体が枷を破壊した事を意味するものとなったのだった。

 

次回にて、テンペスタが生まれた事情などを

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