竜王の戦場3-世界の真実(その1)
色々種明かしの回
その前振り
巨大な植物の根。
傍からはそう見えたが、実際は膨大な根が寄り集まって出来た綱のような代物だ。綱がそうであるように、強靭さも上昇しているだろう。
これに対して、テンペスタもまた自身の全力を解放し、真っ向から叩きつけようとして。
(なんだ?)
世界が停止した。
比喩ではない。
テンペスタ自身の感覚が加速して、世界が停止したように見える、という訳でもない。
文字通りの意味で、時間が停止した。そうでありながら、テンペスタ自身の意識ははっきりと覚醒している。
『そこまでにしておきなさい。そのままでは星が甚大な損傷を受けてしまう』
(親父?)
触れて来た意識は紛れもなく大嵐龍王のものだった。
意識だけではない。更に四つの姿が周囲に浮かび上がる。
大嵐龍王、サラマンダー、ベヒモス、そしてリヴァイアサン。強大な力を持つ四体の竜であり、龍達。
『ようやっと枷を外せたものが出て来たのは嬉しいが、「星を壊せる」力の発揮が枷の解放条件というのは今更じゃがどうなんじゃろう?』
この声の質はベヒモスのご老体か。直接会った時と比べ、大分普通の会話に近い速度で語り掛けている。いや、本当は四体の中で一際年を取っているなどという事はないんだが、ついそう思ってしまうぐらい老成した印象を受けるんだ。
しかし、枷?
『そうだ』
こちらはリヴァイアサン殿か。
『私達以後の竜には偶然も混じっての事ではあるが、枷がかかっている。それがお前達が人族に甘い原因の一つではある』
(どういう事です?)
いや、本当にどういう事?
この順番だと、と思い、サラマンダーさんに意識を向けてみれば、案の定語りだしてくれた。お約束じゃあるな。
『元々、我らを含めた竜自体が外から来たものだからだ。この世界は我らの世界ではなく、人族と呼ばれる者達の世界であった。だからこそ、初期の竜王に我らは色々と制限を課した訳だが……』
『『『『まさか、竜が自然発生するとか、その子供達に枷が受け継がれるとは想定外だった』』』』
……なんだって?
(外から来た、って……竜はこの星の外から飛来したという事ですか?)
『いや、違う』
では一体。
『この宇宙の外側からだ』
(はあ?)
『人族もこの星の出身ではないが、この宇宙の生まれではあるのでな。我ら竜よりは……』
(いや、待て!)
一気に大量の事情が流れ込んできて、訳が分からん。
(最初から説明してくれ……時間があれば、だが)
『ああ、それなら問題はない。時間ならば停止させたからな』
……親父。
風の属性ってそういう事も出来るのか。
『当然だろう、我々の呼ぶ風とは形無き見えざるもの全てが我が範疇に属する。時もまた然り』
(吸収はされないのか)
『きちんと理解した上で吸収しているのならば出来るやもしれんがな。今のあれはただ目の前のご馳走を闇雲に、手当たり次第に喰らっているだけの子供に過ぎんよ。あれでは時が停止しただけでこうして喰らう事も出来なくなるし、他の属性とてやりようは幾らでもある』
(……そっか)
自分と彼らとの差を教えられた気持ちで、同時にまだ上があるのだと知らされた気持ちで。
(分かった。それならそもそもの始まりを教えて欲しい。人族がこの星の出ではないという事も、竜がこの宇宙の外から来たという事も、そして)
星を壊す、壊せるだけの力の解放、それこそが枷の解放条件だという事も。
それではすなわち竜という存在には星を壊せないよう枷が、そしておそらくは人族に対してもまた同じように枷がかかっているはずだ。
確かに竜はその生きる過程において、全力を出す機会はそうある事ではない。だが、出さないのと、出せないのではまるで意味が違う。それではまるで、「全力を出さねばどうにもならないような時が来れば、その時は大人しく死ね」、そう言われているに等しい。
もしかしたら、これまでに人族によって倒された竜の中にもそうした枷を破れず倒れていった竜がいたのではないだろうか。何しろ、先にリヴァイアサン殿は「竜に枷がかかっている」と言ったが、「竜王に枷がかかっている」とは言っていない。彼らが言ったのはそれ以外では「初期の竜王に枷を課した」と言っただけだ。
もし、上位竜の中にもそれが強く発現した竜がいたとすれば……。おそらく、本来の実力を発揮出来たならば倒れる事はなかったのに、枷の為に倒れたものもいた可能性がある。
『そうさな、それは正しい事じゃよ』
そうして、それをベヒモスのご老体が肯定してくれる。
そうか、あの屍体の中にはそうしたものもいたのか……。
次回、人と竜の真相を色々と
もちろん、それと共に、四竜龍王のやらかしも……




